はじめて悟空が泣いた…『ドラゴンボール』何度見ても泣ける「親子の名シーン」

『DRAGON BALL』#1(ポニーキャニオン)

漫画家・鳥山明さんは、生前2013年の朝日新聞インタビューで「僕の漫画の役目は娯楽に徹することだと思っています」と語っていた。その言葉通り、鳥山さんが生み出した『ドラゴンボール』は、ギャグにバトルに冒険とみんなをワクワクさせる、まさに娯楽に徹した作品だった。

そんな鳥山さんの究極の娯楽作品と言える『ドラゴンボール』だが、ワクワクのバトル描写だけではなく、読者の涙を誘うようなシーンもたびたび描かれている。そこで今回は『ドラゴンボール』に登場する親子関係から、じんわり泣ける名シーンを紹介したい。

■まさかの再会に悟空も涙。じいちゃんと悟空

まずは、主人公である孫悟空と育ての親である“じいちゃん”こと孫悟飯の名シーンを紹介したい。ご存じのように、じいちゃんは幼い悟空が大猿になって踏みつけたことにより亡くなっている。ゆえに「レッドリボン軍編」での再会は心に残る名シーンとなっている。

コミックス第9巻、最後7つ目のドラゴンボールを見つけるため、占いババが用意した5人の選手たちと戦うことになった悟空たち。その最後の選手として現れたのが、あの世から1日だけ蘇り、キツネのお面で正体を隠したじいちゃんだった。

さすが亀仙人の一番弟子であるじいちゃんだ。互いにかめはめ波を出し合うなど、悟空とじいちゃんの戦いは激しいものとなった。しかし最後は、悟空の成長に満足したかのようにじいちゃんが降参して決着がつく。

そして、お面を外し正体を明かしたじいちゃんに、悟空が「じいちゃーん」と抱きつき涙を流して喜ぶのだ。普段はあっけらかんとしてあまり感傷的にならない悟空が見せた意外な一面が、非常に印象的だった。ちなみに、このシーンは本編ではじめて悟空が涙を見せたシーンだとも言われている。そして再会もつかの間、じいちゃんは「では ごきげんよう…」とあっさりあの世に帰っていくのであった。

実はじいちゃん、アニメ版では再登場をしている。結婚式直前、牛魔王の城が燃え上がりそれを消そうと悟空とチチが世界を奔走する「ウェディング編」。

火の原因である五行山の八卦炉に悟空たちが向かうと、そこでアルバイトしていたのがなんとじいちゃんだったのだ。悟空はこの再会で、このとき一緒に来ていたチチと結婚することをじいちゃんに報告している。じいちゃんにとっては思わぬ再会と、孫の嬉しい結婚報告となった。

■最初はぎこちない2人だが最後は…悟空と悟天

次は、悟空と悟天の名シーンを紹介したい。ご存じのように、悟空がセルとの闘いによって死亡したあとに誕生したのが悟天だ。よって、姿かたち非常によく似た親子であるものの接点があまりなかった。

コミックス第36巻、天下一武道会出場であの世から一時的に戻ってきた悟空に皆が駆け寄るなか、悟天はチチの後ろに隠れながら、父との初顔合わせをしている。

その後、バビディに操られるヤムーとスポポビッチが大会で暴れ出し、物語は魔人ブウとの戦いへと突入。魔人ブウを倒すため、悟空から“フュージョン”をトランクスと一緒に教わることになった悟天。しかしここでも、先のブウとの戦闘で気絶してしまった悟空に対して悟天は「そんな人に技を教えてもらったって強くなれっこないよ」と言っている。その関係にはまだまだ距離があった。

しかし、悟空が“スーパーサイヤ人3”になって実力を見せたところから徐々に敬意を見せ始める。そして物語が進み激闘の末、ブウを倒した悟空。悟空が神様の神殿に戻って来た際、駆け寄るチチと悟飯と一緒に、悟天も父・悟空に飛びつき喜ぶ姿があった。

漫画では台詞もない数コマの非常に短いシーンであるが、悟空と悟天が正真正銘親子となった名シーンだ。

■絶望の世界でも希望を捨てず戦ったブルマとトランクス

最後は、1993年放送のテレビスペシャル『ドラゴンボールZ 絶望への反抗!! 残された超戦士・悟飯とトランクス』での、ブルマとトランクス親子の名シーンを紹介したい。

このテレビスペシャルは、悟空が病で死んでしまう衝撃のシーンからはじまり、その後現れた人造人間17号、18号によって破壊がつくされる未来の世界が舞台となっている。

ピッコロやベジータら次々と戦士たちが戦いを挑み殺されていき、そのなかで生き残ったのが悟飯とブルマ、そしてトランクスだった。

そんな絶望の世界でトランクスは幼いながらに正義感にあふれ、人造人間と戦うためにブルマに内緒で悟飯に修行をつけてもらっていた。一方、それを知りながらも気づかないふりをして「あんたたち危ない遊びしちゃダメよ」と忠告するブルマは、やはり明るくたくましい母だった。

後の戦闘で悟飯も殺され、さらなる苦境に立たされることになるのだが、ブルマはそれでも諦めずにタイムマシンの開発を続け、ついには完成させるのだった。タイムマシン完成に「父さんに会えるのが楽しみだな」というトランクスに対し「あまり期待しないほうがいいかもよ」というブルマ。父であるベジータを含め3人の家族関係がわかる、非常に面白いシーンではないだろうか。

このスぺシャルアニメのラストでトランクスは過去へ出発、物語本編では薬を渡し悟空の命を救い、自身は父・ベジータと修行し、以前とは比べ物にならないくらいの強さを手に入れる。そして未来に戻ってきたトランクスは、人造人間18号、17号と次々に倒し、さらには後で現れるセルをも一人で倒していた。ブルマとトランクスの諦めない親子によって、“過去”と“未来”2つの世界が救われたのだった。

今回は『ドラゴンボール』の泣ける親子の名シーンを紹介してきた。

漫画の世界では親子の関係を素晴らしい演出や展開で描き、読者の涙腺を崩壊させるような感動的な作品がある。それとは対照的に、自身の作品に娯楽性を求める鳥山さんは『ドラゴンボール』という作品ではあえてドラマチックな演出を避け、親子の関係をあっさりと自然に描いているように感じた。

しかし、だからといって『ドラゴンボール』に“親子の愛”が存在しないというわけではない。娯楽に徹した鳥山さんらしい表現で、しっかりと描かれていたのが印象的だ。

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