『虎に翼』“直明”三山凌輝へと受け継がれていく“学ぶ喜び” まだ信じたくない死亡告知書

決して知りたくはなかった、知らなくてもよかった現実が寅子(伊藤沙莉)に襲いかかる。『虎に翼』(NHK総合)第42話では、戦後の日本で強くたくましく生きていく寅子たちの姿が描かれた。

戦争が終結し、岡山にいた寅子の弟・直明(三山凌輝)が猪爪家に帰ってきてから数日。寅子と直明は、直言(岡部たかし)の工場でマッチ製造の仕事を引き受けることになり、はる(石田ゆり子)と花江(森田望智)は繕い仕事をしながら、なんとか生活していた。そこには直言が社長を務める会社「登戸火工」で従業員として働いていた重田(緒方賢一)の姿もあった。

1946年1月、年が明けてもなお優三(仲野太賀)はまだ帰ってきておらず、寅子は不安な日々を過ごしていた。そんな寅子を見かねた花江は「トラちゃん、もっと優三さんの話をしていいのよ。写真も飾っていいの」と励まし、優しく寄り添う。心なしかいつも険しい表情をしていた寅子の表情が少し優しくなっていると感じていたが、それは優しくなっていたのではなく、優三のことが心配で憔悴していたのだろう。そんな時、近くで支えてくれる家族の存在は寅子の救いになっていた。

月日は流れ、1946年5月。ラジオからは東京帝国大学の入学式が開催されたことが放送される。ある日の夜、直明は隠れて本を読んでいるところを寅子に見つかってしまう。持っていた本を売って、岡山からの切符代にしていた直明。だが、その中で唯一売れなかったのが、アルフレッド・アドラーの『問題児の心理』だった。

「夜眠れない時に、こうやって活字を目で追っているだけで落ち着く。ただそれだけだよ」と気丈に振る舞う直明だが、寅子は直明が強がっているだけだと理解できていた。寅子は弁護士を辞めたあの日以来、ずっとしまい込んでいた法律の本を取り出して、直明に手渡した。「学ぶ喜びを知ってほしい」。それが寅子の思いだった。

再び、弁護士へと向き合うことにした寅子。かつてお世話になった雲野法律事務所を訪れ、六郎(塚地武雅)と岩居(趙珉和)と久しぶりの再会を果たす。寅子が辞めてから扱う案件も少なくなり、事務所の経営はかなり厳しい状況になっていたという。寅子は弁護士復帰を相談しようとするものの、自らの意志で辞めた手前、もう一度雇ってくださいとはなかなか言い出すことができず、結局いっぱいの野菜をもらって帰ってきた。

私が稼ぐしかないと気負っている寅子に、直明は「姉ちゃんは十分頑張ったよ。今度は俺が頑張る番だから」と語りかける。直明の優しさにホッとした表情を見せつつも、なんだか釈然としていない寅子。どんな時だってひとりでやり遂げてきた寅子にとって、たとえ弟であろうと誰かに頼るというのは納得がいかないのだろう。

そんな時、体調を崩していた直言が胸を抑えながら倒れてしまった。そこで偶然寅子は直言が写真立ての裏に隠しておいた優三の死亡告知書を目にしてしまう。どこかですでに死んでしまったのではないかという諦めとともに、きっとどこかで生きているだろうという希望を抱いていた。だが、一枚の紙によってその希望は打ち砕かれる。直言の容態に加えて、寅子のメンタルが心配だ。
(文=川崎龍也)

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