新たなエンジン開発を三社三様で宣言!内燃機関の新たなステージを切りひらくSUBARU、トヨタ、マツダの決意表明に驚いた

2024年5月28日(火)、SUBARU、トヨタ、マツダの3社合同による「マルチパスウェイワークショップ」が、東京渋谷で開催されました。エンジン単体の効率/性能向上とともに電動化に最適化させていく技術革新について、三社がそれぞれの「得意技」を生かした取り組みを発表しました。

ヘリテージ的エンジンテクノロジーを未来につなぐ

ワークショップの冒頭は、各社の代表取締役が、ワークショップのメインテーマにまつわる概論として、各社のマルチパスウェイに対する考え方を紹介。

写真左から株式会社SUBARU 代表取締役社長 兼CEO 大崎 篤氏、同社 取締役専務執行役員 兼CTO 藤貫 哲郎氏、トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 兼CEO 佐藤 恒治氏、同社 取締役副社長 兼CTO 中嶋 裕樹氏、マツダ株式会社 代表取締役社長 兼CEO 毛籠 勝弘氏、同社 取締役専務執行役員 兼CTO 廣瀬 一郎氏。

その上で、スバルは水平対向エンジンの次世代ハイブリッドユニット、トヨタは直列4気筒モデル、マツダは2ローターロータリーエンジンを展示し、技術部門のトップ(CTO:Chief Technical Officer)からより詳しいプレゼンテーションが行われました。

エンジン本体のレイアウトこそ違うものの、どのエンジンも各社が長い時間をかけて熟成されてきた「ヘリテージ」的な役割を持つことは共通するところです。さらに、軽量で小型、搭載する車種に対する汎用性が高いという面でも、電動化前提の環境下にあってなお十二分な多様性を確保できる可能性を秘めています。

今回のワークショップの中では、それらの個性を踏まえた上で、電動化の時代に向けてそれぞれのユニットが持つ強みを生かしながら「リボーン=次世代に向けて進化させていこう」という取り組みが、明らかにされたことになります。

印象的だったのは、「共創と競争」によって「それぞれの個性化」がより際立つ進化が期待できそうなところ。そして、これまで以上に、内燃機関の再生に向けた「カーボンニュートラルフューエル(CNF)」の役割の重要性が、強調されていたことでしょう。

日本国内において2030年頃のカーボンニュートラル燃料の導入を目指して、4社が協業。供給、技術、需要といったサプライチェーン全般のそれぞれで主要な役割を果たす企業が知見を持ち寄り、推進していく。

地球環境に優しい「燃料」と言えば日本においてはこれまでもっぱら水素が注目されていた印象がありますが、トヨタは出光興産、ENEOS、三菱重工業と組んでeフューエル(合成燃料)やバイオフューエルなど、CNFのサプライチェーン構築の現実的な取り組みを開始することをすで5月27日に発表したばかりです。

そういう背景もあってかワークショップでは、多様なCNFへの対応を検討していくことが明らかになりました。スーパーGT、スーパー耐久といったレースシーンでの普及や既販車に向けての活用可能性も含めて、CNFへの注目度は今後、ますます高まることになりそうです。

【CEOコメント 概要】

■SUBARU 代表取締役社長・CEO 大崎 篤氏
カーボンニュートラル社会の実現は、日本の産業界・社会全体で取り組む課題です。私たちはクルマの電動化技術を磨くと共に、カーボンニュートラル燃料の活用に向けて、水平対向エンジン自身もさらに磨きをかけます。これからも志を同じくする3社で日本のクルマづくりを盛り上げてまいります。
■トヨタ 代表取締役社長・CEO 佐藤 恒治氏
カーボンニュートラルに貢献する多様な選択肢をお客様にご提供していくために、未来のエネルギー環境に寄り添ったエンジンの進化に挑戦してまいります。志を共有する3社で、切磋琢磨しながら技術を磨いてまいります。
■マツダ 代表取締役社長・CEO 毛籠 勝弘氏
電動化時代における内燃機関を磨き、マルチパスウェイでカーボンニュートラルの実現可能性を広げ、お客様がワクワクするクルマを提供し続けます。電動化やカーボンニュートラル燃料と相性の良いロータリーエンジンを社会に広く貢献できる技術として育成できるよう、共創と競争で挑戦してまいります。

協調しながらも、それぞれの個性を忘れない姿勢を強調

各社の取り組みについて少し詳しく紹介しましょう。

スバル「SUBARUらしさを継承する次世代ハイブリッドシステム」

左側が、電動化に最適化された新しい水平対向ユニット。右がハイブリッドユニットだが、基本的にはTHSIIのシステムを活用しているという。駆動・発電用の2種類をインテグレートした電気モーターは従来のeーBOXER用に対してよりパワフルで、いわゆる「ストロングハイブリッド」にカテゴライズされることになる。
次世代ハイブリッドを搭載したクロストレックのコンセプトモデルも展示されていた。ボンネット部はスケルトンで、エンジンを見ることができる。

新しいパラレル・シリーズタイプの「ストロングハイブリッド」システムを展示したスバルは、取締役専務執行役員 兼CTO藤貫哲郎氏によるプレゼンが行われました。

冒頭、藤貫CTOは「クルマは単なる道具よりもっと親密なもの。だからいろんな種類がなきゃいけない」と強調。多様性が求められる中でスバルが「違いを際立たせる」ための戦略として、シンメトリカルAWDとターボエンジンをこれからも残していくための取り組みに注目していることを明らかにしました。

プロペラシャフトで連結された4輪駆動の高い安心感や、水平対向ターボエンジンならではの「味や艶」に対するこだわりにこそ、スバルのエンジニアが目指すべきものがある・・・スーパー耐久シリーズに新たに投入されるWRX S4ベースのST-Qクラスマシンには、そんな強い想いが込められているようです。

次世代ハイブリッドシステムについては埼玉製作所において、トランスアクスル生産体制の刷新を図る、とのこと。DX推進、ダイバーシティ、物流体制の改善といった環境整備に取り組むことで、働きやすさも向上させていくことを目指します。

トヨタ 「ハイブリッドはエンジンの弱点を補うための技術ではない」

プリウスに新しい1.5Lハイブリッドユニットを搭載、そのコンパクトさをわかりやすく表現していた。
真っ赤なヘッドが勇ましい2Lターボユニット。そうとうスポーティな印象だが、中嶋CTOは「これも含めて実現していく!」と力強く語ってくれた。

トヨタからは、1.5L NAと2Lターボ、ふたつの新しい直列4気筒エンジンの技術モデルが展示されました。

プレゼンを行った取締役副社長 兼CTOの中嶋 裕樹氏は環境性能を高めることはもちろんのこと、エンジンの小型化、軽量化によって、BEVが得意とする低ボンネット(カウルポイントは約100mm下げられるそうです)でスタイリッシュなフォルムをICEでも再現したかった、と語ります。

展示されたパワートレーンとは別に開発が進む1.5Lターボユニットも含めて、次世代直4ユニットは体積や全高が従来比で10~20%も低減されています。同時にあえてショートストローク化することによって、電気モーターの存在感をより高めた「電気リッチ」な仕様にも対応しやすくなっているそうです。

ファミリーカーからスポーツカーまで、さまざまなカテゴリーで幅広く搭載可能なエンジンレイアウトとして、直列4気筒エンジンに新たな日を当てようとしているトヨタ。ちょっと懐かしい「赤いヘッド」の市販化も、ぜひ期待したいところです。

マツダ「マルチパスウェイにおけるロータリーエンジンの役割」

ブリヂストン製のコンセプトタイヤとともに展示されていた、2ローターユニット。ジャパンモビリティショーで展示された、あのスポーツモデルへの搭載が期待される。ドライサンプの採用など、低さにこだわって設計されているという。
水素燃料を燃焼させて走るロータリーエンジンの実証実験はすでに行われていたが、こうして見るとロータリーエンジンの「秘めた可能性」を改めて実感することができる。

「エンジンはどうする?を考えるべき節目の時が来ました」と語る取締役専務執行役員 兼CTO廣瀬 一郎氏。マツダが考えるカーボンニュートラル推進の根幹には、CNFに広く適合した上でパッケージを革新させ、ユーザーに選んでもらうクルマを生むための、ロータリーエンジンの熟成という取り組みがあるようです。

よりコンパクトなユニットを搭載すれば、スタイリングを革新する自由度が広がっていきます。低ボンネット化は空力性能の向上にもつながり、クルマ全体での効率改善が期待できるでしょう。そういう「カッコよさ」が到来する時代が、訪れようとしています。

同時に機構上の特性によって、バイオディーゼルも含めた多彩なカーボンニュートラル燃料に対応可能なロータリーエンジンを電動ユニットと組み合わせることが、エンジンの新たな未来を切り開く可能性も示唆されました。

広島大学との協業が進む「微細藻類ナンノクロロプシスからのバイオ燃料製造」に向けた取り組みも含めて、ハードに限らないカーボンニュートラル事業の広がりに期待したいところです。

© 株式会社モーターマガジン社