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AFCチャンピオンズリーグ(ACL)優勝という、悲願達成はならなかった。横浜F・マリノスは、リードを手にしてアウェイでの決勝第2戦に臨んだが、まさかの大敗。結果が悔しいものであることに変わりはないが、サッカージャーナリスト後藤健生は、この敗北から学ぼうと試合を分析。試合の流れを一変させた「分岐点」と、チームの「問題点」「改善点」を示すとともに、Jリーグのチームが今後、どのようにしてACLとつきあい、戦っていくべきかを考える。
■前半29分「PK判定は正しかったのか」
「レフェリーに試合を壊されてしまった」
試合後のフラッシュインタビューで、横浜F・マリノスのハリー・キューウェル監督はこう振り返った。
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝の第2戦で、アラブ首長国連邦(UAE)のアル・アインFCに1対5という大敗を喫し、タイトル獲得に失敗した直後のことだ。
試合開始早々にアル・アインに先制を許した後、ようやくある程度ボールが持てるようになってきていた矢先の29分、右サイドバックのバンダル・アルアハバビからのアーリークロスに、トップのソフィアン・ラヒミが飛び込んで、ペナルティーエリア内で畠中槙之輔と接触した。
イルギス・タンタシェフ主審(ウズベキスタン)はラヒミのシミュレーションと見て、イエローカードを提示した。ところが、ここでVARが介入。そして、畠中のファウルと判定が覆って、アル・アインにPKが与えられたのだ。
スロー映像で見れば、たしかに畠中の膝がラヒミに接触している。だが、主審が当初、イエローカードを示したことからも分かるように、ラヒミがPKを狙ってダイビングしていたのは明らかだ。しかも、ただ倒れるのではなく、相手の脚に接触するように飛んでいるのだ。
従って、プレーの“流れ”を見ないで一瞬を切り取ったVARのスロー映像を見れば、脚が接触しているので、審判はファウルを取りたくなってしまう。
だが、ラヒミが意図的に相手の脚に接触して倒れたのであれば、たとえDFの脚と接触していたとしてもファウルとは言えないはず。そして、ラヒミという選手は、1試合のうちに何度もそうした“プレー”を試みる選手なのだ。
■大論争が勃発「1974年の西ドイツW杯」決勝
遠い昔の話で恐縮だが、1974年の西ドイツ・ワールドカップの決勝でこんな出来事があった。
ヨハン・クライフがいきなりPKを獲得してオランダが先制したのだが、西ドイツもベルント・ヘルツェンバインが倒されてPKをゲットして、パウル・ブライトナーが決めて同点に追いつく。そして、ゲルト・ミュラーのゴールで西ドイツが2度目の優勝を遂げる。しかし、ヘルツェンバインという選手もPKをゲットするのがうまい選手として西ドイツでは有名だった。
そこで、意図的に相手に接触した彼のプレーを反則に取るべきか否かで、当時、かなりの論争が起こった。この試合で主審を務めていたジャック・テイラー(イングランド)は「意図がどうであれ、脚がかかっていれば反則だ」と主張した。
ACL決勝での畠中の反則の場面も、もっと論争が起こってもおかしくないシチュエーションだったような気がする。
そのPKをアレハンドロ・ロメロ(通称カク)が決めて、アル・アインが2試合合計で3対2と逆転に成功したのだが、アル・アインのクアム・クアディオがバックパスを漫然とコントロールしようとしたところを、横浜FMのヤン・マテウスが奪って1点を返して、横浜FMは2試合合計得点を3対3のタイに戻すことに成功した。
■前半アディショナルタイム10分「再びの悪夢」
ところが、前半のアディショナルタイム(45分+10分!)に、今度はカクの縦パスをオフサイドラインぎりぎりで受けて抜け出したラヒミを、飛び出したGKのポープ・ウィリアムが倒して、ポープが退場となってしまう。
この場面でも、ラヒミは明らかにファウルを受ける意図を持ってプレーしており、ポープは強く接触してはいない。ただ、この場面ではポープがちょっとでも接触していれば反則であり、「決定的得点機会の阻止(いわゆるDOGSO)」による退場はいたし方ないところだ(議論すべきは、ほんの少しの接触であっても、DOGSOの場合は自動的、機械的に退場とするのが正しいかどうか。つまり、現在のルールが正しいか否かであろう)。
いずれにしても、こうして横浜FMは1人少ない状態での戦いを強いられることとなってしまった。レフェリー(あるいはVAR)が試合の行方を決めた試合であり、キューウェル監督の言う「レフェリーによって壊されてしまった試合」となった。
それにしても、AFC主催の大会では、どうしていつもVARの過剰介入が起こるのであろうか。
もっとも、この試合が内容的にアル・アインの勝ちゲームであったことに疑いはない。アル・アインは確かに優勝に相応しい実力を持つチームだった。