法改正「人づてに聞いていた」が…社会福祉法人理事長の座を2,000万円で“取り引き”名目の贈収賄か 医師の男に懲役1年6か月求刑=静岡地裁

静岡市清水区の社会福祉法人を舞台とした乗っ取り事件をめぐる裁判。特定の人物を後任の理事長に任命する見返りとして、2,000万円を受け取るなどした罪に問われている医師の初公判が行われ、男は起訴内容を認めた。

【写真を見る】法改正「人づてに聞いていた」が…社会福祉法人理事長の座を2,000万円で“取り引き”名目の贈収賄か 医師の男に懲役1年6か月求刑=静岡地裁

社会福祉法違反(収賄)の罪に問われているのは、東京都に住む医師の男(48)。起訴状などによると、自身が理事長を務めていた静岡市清水区内の社会福祉法人の後任に、特定の人物を任命する見返りとして、2,000万円を受け取る約束をしたなどの罪に問われている。

約束をした男と後任の理事長は、譲り受けた社会福祉法人の口座から現金約4,400万円を横領し、業務上横領の罪で起訴、現在、公判が行われている。

社会福祉法人の乗っ取りによる横領のきっかけを作ったともいえる医師の男は、5月28日、静岡地裁で開かれた初公判で「間違いありません」と起訴内容を認めた。

「経営に困っている社会福祉法人がある」

銀行からそのように紹介され、静岡市清水区の社会福祉法人の理事長に就任したという医師の男。社会福祉法人には当時、2億ほどの借金があり、「経営状況はとても悪かった」という法人の理事長を引き受けた理由を、医師は「自身が経営していた病院と合わせて、社会福祉法人を経営することでより地域のために運用できると思った」と話した。

理事長に就任した医師の男は、約6年にわたってまったく報酬を受けることなく、社会福祉法人の経営の立て直しに努めた。自身の経営する法人から社会福祉法人に9,000万円を貸すなどして、改善に尽くしたものの、好転することはなかったという。

これ以上、手に負えないと判断した医師の男は、M&Aのプラットフォームに「譲渡ではなく、代表の交代です」として、1,000万円から3,000万円を希望価格として売り出した。

3、4人が手を挙げた中で、社会福祉法人や学校法人の経営経験があり、自分の条件をのんでくれる男を選び、交渉の末、2,000万円で取り引きをする約束をした医師の男。2016年に社会福祉法が改正されたことは「人づてに知っていた」と話すものの、社会福祉法人の売買が贈収賄にあたることは知らなかったという。

賄賂を偽装するための手段とみられる「アドバイザリー料」の名目で取引したことについては「実体があるか、ないかは当時、意識していなかった。自分が銀行から紹介してもらった形を同じように引き継ごうと思った」などと話した。

本来、社会福祉施設の利用者のために使われるべき、2,000万円が自分の手元に渡ったことについては「申し訳ないと思います」と反省の意を述べた。

検察側は、医師の男の犯行について、計画であり、「主導的立場で実行したもの」で「動機は利欲的で自己中心的」などとして懲役1年6か月を求刑。一方、弁護側は、法律にまったく知識がないと判断するのは困難であり、医師の男は「法律に疎く、コンプライアンス意識に欠けていたことを反省している」などとして、罰金刑または執行猶予付きの判決を求めた。

「今後はこのようなことに関与せず、医師としての業務を全うし、社会に貢献していきたい」

最後に医師の男は、今後への思いを述べた。

判決は7月9日に言い渡される。

© 静岡放送株式会社