<レスリング>【2024年明治杯全日本選抜選手権・特集】また「レスリングが好きになった」、練習は続ける…女子65kg級・恒村友香子(サントリー)

(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)

2021年東京オリンピック女子62㎏級金メダリストの恒村友香子(旧姓川井=サントリー)が非オリンピック階級の65㎏級に出場。2回戦で森川美和(ALSOK)に敗れ、世界選手権出場を逃した。

試合を終えた恒村は「去年の明治杯と天皇杯の負け方が納得できなかったというか、相手に負ける前に自分に勝ててなかったというか、それが悔しくてこの明治杯に出ると決めた。去年の悔しさを晴らしたいという思いだった」と今大会に出場した理由を説明。「優勝じゃないと満足できないと思うけど、今できることはやったかな、という思い」と納得の表情を見せた。

初戦の相手、吉川海優(自衛隊)は昨年の全日本選手権で負けている相手。「絶対に負けられない気持ちだった」と言う。リードを許す苦しい展開をしいられながら、最後に逆転して勝利をつかみ取る。ところが、この試合で右ひざを痛め、動きの鈍った森川戦はいいところなく敗れ、その後の3位決定戦は棄権した。

▲全日本選手権で敗れた相手に初戦でリベンジしたが、この試合でひざを負傷。厳しい状況となった

東京オリンピックで歓喜を味わって以降、歯車がかみ合わなくなり、苦しい生活が続いた。

「今までにない注目のされ方をして…。けっこう気持ちが落ち込んでいるときもあって、全部が嫌になってしまった。私はレスリングがあって注目してもらえていたのに、レスリングのせいで、と思ってしまった時期があった。レスリングをほぼ嫌いになっていた時期がありました」

能登半島地震の被災者の励みになれば「うれしい」

この状況を何とか抜け出そうと、拠点を愛知から東京に移し、日大で練習するようになった。それまでは「負けたら、死んだと同じくらいで、人生が終わった、という感じだった」と追い込まれた状態でレスリングをしていたが、新しい環境に身を置き、結果が出ずとも、その結果を受け入れ、「金メダリストとして、やるべきことを最後までしっかりやろう」と徐々に前を向くことができた。

今年元日に、生まれ育った石川県を能登半島地震が襲い、大きな被害をもたらしたことにも強く心を動かされた。

「地震があって苦しい思いをしている人たちがたくさんいる。オリンピックで一番注目され、そこから成績も出せてないですけど、自分はしぶとくマットに上がっている。そういう姿を見て、励みになるというか、まだ頑張っているんだな、と思ってもらえたらうれしい」

▲準決勝で森川美和に黒星。世界選手権の出場はなくなったが…

元日には、SNSで自ら報告した総合格闘家、恒村俊範さんとの結婚も、精神的な安定につながったに違いない。4月には「引退したあとのほうが長いので、次のことも考えなくちゃいけない」と、日大の大学院に進学。スポーツ選手の心理についての研究をスタートした。

当面は世界再挑戦の姉・金城梨紗子をサポート

「心理状態ひとつで技自体が変わってくる。それはなぜか、という研究をしたい。状態のよかった東京オリンピックの時の心境は、すべてノートに残してあるので、そういったものを使いながら、東京オリンピックと(結果を出せていない)それ以降を比較をしたり、他の日大の学生にも協力してもらったりして研究していきたい。自分にも生かせるだろうし、今後は他の選手にも生かせると思う」

ベストのパフォーマンスには届かなくとも、今は「レスリングがまた好きになった」と言うから、状態はかなり回復してきたと言えそうだ。今後を問われると「すぐやめるつもりはないし、練習もしていく。けがが治って練習をしていく中で、もし、また試合がしたくなれば出ると思う。試合には出ないとしても、レスリングは続けたいです」と笑顔で語った。

当面は、世界選手権出場を決めたオリンピック2大会連続金メダリストの姉・金城梨紗子(サントリー)のサポートに回る。

▲今年は、世界選手権に出場する姉(左)をサポートする恒村。練習は続けていくと言う

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