気がつけば周りに誰もいなくなっていた…退職後の孤立を引き寄せる「極端な考え方」に要注意【精神科の名医が助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

苦手な人とでもつき合わざるをえない現役世代と違い、退職後はつき合う人を選ぶことができます。しかし、「この人あんまり得意じゃないな…」と避けてばかりいると、いつのまにか周囲から孤立してしまう可能性もあります。今回は、シニア世代の名医・保坂隆氏の著書『お金をかけず気軽にできる 「ひとり老後」が楽しい77の習慣』(KADOKAWA)から、シニアの「人とのつながり」のコツについてご紹介します。

いつの間にか孤立してしまう…シニアならではのリスク

「『人』という漢字は人と人とが支え合って生きていることをあらわしているというのは間違いです」という話を聞きました。正しくは、人が立ち上がっている姿から生まれた象形文字がルーツなのだそうです。

たしかに、支えられているほうは楽かもしれませんが、支えているほうはたまったものではないでしょう。

さて、孤独をなによりも愛する人、あるいは、ひとり暮らしを満喫している人ならともかく、社会生活を営むうえでの孤立は避けたいものです。

会社勤めをしていた現役時代を考えると、仕事を中心に人間関係が築かれていたのではないでしょうか。あまり好きになれない人や、人間性に問題がありそうと感じる人でも、「仕事だから仕方がない」とか「この人とつながっていれば出世できそう」と思えば、ちょっと我慢してでも人間関係を維持していたはず。

取引先の相手にしても、お客様だから……と、忍の一字だったかもしれません。でも、そうした人間関係はストレスになっていませんでしたか?

退職後は、ストレスを感じるような相手とは無理をしてつき合う必要がなくなります。つまり、自分の好き嫌いが最優先で、気の合う人とだけつき合えばいいと考えるのも無理のない話。会合やイベントに誘われても、なんだかんだ理由をつけて断ってしまえるでしょう。

しかし、人間関係のストレスから解放されるのは喜ばしい話ですが、なかには「つき合いたくない人を避けていたら、いつの間にか周囲から孤立してしまった」というケースもあるのです。

人とのつながりを「0か100か」で考えない

ひとつには、つき合うか、つき合わないかを「0か100か」という極端な考え方で判断したために起きるケースが考えられます。

たとえばあなたが、「Aさんは、考え方があまり好きではないのでつき合わない」「Bさんとは価値観が同じようなので、つき合いたい」と考えていたとしましょう。

でも、Bさんがあなたとつき合いたいと思っているとはかぎりません。もしBさんがあなたを敬遠していたとしたら、Bさんからは距離を置かれ、Aさんとも縁遠くなってしまいます。

しかも、じつはAさんとBさんは波長が合っていて親しくつき合っていたという場合もあり得ますね。孤立しないためには、好き嫌いを「ほどほど」にしておくのがいいでしょう。

誤解を恐れずにいえば「ずぼらな人間関係」と呼べるかもしれません。さきほどの「Aさんは、考え方があまり好きではないのでつき合わない」という考えは「あまり好きではない=つき合わない」と決めつけています。テストの点数でいえば0点をつけたようなものです。

もしかしたら、初対面であまりいい印象を持てなかったせいかもしれませんが、「第一印象はあまりよくなかったけれど、つき合ってみるといい人だった」というのはよくある話。

そもそも、考え方は人それぞれ違って当たり前。学生時代からの長いつき合いという親友でも、まったく同じ考え方ではなく、お互いの意見がぶつかったこともあるでしょう。

親友でさえそういうことがあるのなら、「あまり好きではない」と思う人にいきなり0点をつけて、拒否してしまうのは考えものです。50点とか60点を仮につけておき、判定は保留、つまり、しばらく様子を見るようにしてはどうでしょう。

一方の「Bさんとは価値観が同じようなので、つき合いたい」という考えも「価値観が同じようだ=つき合いたい」と決めつけて100点をつけているようなもの。しかし、実際につき合ってみなければ、その人の本質は見えてきません。

「最初はいい感じだったのに、しばらくすると違和感が生じて……」というのも人間関係でよくある話です。いくつになっても、人づき合いは難しいもの。初対面の相手とのつき合いはグレーゾーンから始めるのが気楽といえそうです。

保坂 隆

保坂サイコオンコロジー・クリニック院長

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