『ブルービートル』はヒーロー×ファミリードラマの傑作 新生DCUに再登場の可能性も

こんにちは、杉山すぴ豊です。ここ最近のマーベル、DCのアメコミヒーロー映画まわりのニュースや気になった噂をセレクト、解説付きでお届けします!

今回は、5月29日よりNetflixで配信されるDCヒーロー映画『ブルービートル』について取り上げます。

まず最初に。この『ブルービートル』は予備知識がなくても問題ありません。基本的には一連のDCヒーロー映画の中の1本ですが、他の作品とのリンク(要はあの作品を観ていないとわからない的要素)がほとんどなく、単体の映画として楽しめます。

ヒーローのルックスもスパイダーマンとアイアンマンと日本の特撮ヒーロー、宇宙刑事をかけあわせたような感じでカッコよさと親しみを感じてしまう。さらにこれは超人となる宿命を背負ってしまった青年とそれをとりまく家族の絆を描いたファミリードラマなのです。主人公一家がラテン系で全体的に明るいのも特長です。ただ、この『ブルービートル』は結構DCファンをやきもきさせた映画でもあります。

そもそもブルービートルとはどういうヒーローか? ビートルとは甲虫です。つまり、虫を模したヒーローです。

そして、このキャラクターは3代存在し、最初のブルービートルはなんと1939年にコミック界でデビューしています。初代ブルービートルの正体、ダン・ギャレットは殺された警察官の息子。それゆえ亡き父の思いを胸に犯罪者と戦うマスクのヒーローとなります。悪と戦う時のシンボルマークはスカラベ(古代エジプトで聖なる虫とされていたコガネムシの一種)。そして甲虫の鎧のように強く青い防弾のスーツを着ているというヒーローでした。

同じく1939年には、コウモリをモチーフにしたバットマンが誕生していますから、コウモリ男とコガネムシ男が犯罪者と戦っていたわけですね。ただ、このコミックは一旦休止して1964年に再出発します。このバージョンではダン・ギャレットは考古学者であり、エジプトで見つけた神秘のスカラベによって超人的な力を身に着けたヒーローとして描かれました。

この時点まで、ブルービートルはDCではない出版社から刊行されていたのですが、後にその出版社をDCが買収。1966年にDC版ブルービートル、2代目ブルービートルがデビューします。それは億万長者で発明家のテッド・コードがスカラベをモチーフとしたコスチュームやガジェットを使って活躍するというものでした。テッド・コード自身はスーパーパワーをもっておらず、そういう意味でよりバットマン的であり、またアイアンマン的なヒーローと言えるでしょうか。

そして、2006年にまた新たなブルービートルがデビューします。これが3代目ブルービートル。ハイメ・レイエスという若者が神秘のスカラベと合体して超人になりますが、この神秘のスカラベは実はエイリアンが作った、自我を持つ特殊なデバイスだったのです。つまりエイリアン(のテクノロジー)に寄生されたことにより生まれたヒーローで、ちょっとヴェノムに似ていますよね。今回の映画『ブルービートル』は、このハイメ・レイエス版を採用しています。その上でダンについて言及され、かつてテッド・コードという男が謎のヒーロー、ブルービートルとして活躍していたということも重要な要素として語られます。

ではなぜ、この映画版『ブルービートル』が、ファンをやきもきさせたかというと、大雑把にいって2つの理由があります。まず、映画『ブルービートル』はもともと劇場用映画ではなく配信用映画として企画されていました。2020年頃だったと思います。当時のDCは超メジャーなヒーローは劇場用映画で、そして準メジャーなヒーローは配信サービスHBO Maxでまずデビューさせ反響を見る、という考え方でした。その時『ブルービートル』とともに製作が進められたのが、『バットガール』でした。後に『バットガール』も『ブルービートル』も劇場公開にすると方針転換されたのですが、なんと『バットガール』のほうは完成していたにもかかわらず、DCの首脳陣がその出来栄えに難色を示しお蔵入りさせてしまったのです。なので、『ブルービートル』も同じ運命をたどるのではないかと思われていました。

2つ目の理由は、映画『ブルービートル』は、当初2013年の『マン・オブ・スティール』から始まるDC映画世界(俗にいうDCエクステンデッド・ユニバース、以下DCEU)の一つとして位置づけられていたことです。しかし、DCはDCEUを一旦止めて、ジェームズ・ガン監督の指揮下でDC映画・ドラマ世界を仕切り直し、DCユニバース(DCU)を始動させると発表。つまり、DCEUが終息しDCUを始めるという状況の中で、『ブルービートル』をきちんと公開してくれるんだろうかと疑問に思われていました。

これらの理由から「『ブルービートル』がきちんととリリースされるのか?」と心配だったわけです。結果的には全米では2023年夏に劇場公開。日本では劇場公開こそ叶わなかったものの、2023年12月の東京コミコンにおいてプレミア上映が開催され、その後Blu-ray&DVDおよびデジタル配信の形で観ることができました。

『ブルービートル』がちゃんと公開された理由は、本作が面白いからです。有名批評サイト、Rotten Tomatoesでは批評家の支持78% 観客の支持91% これは『アクアマン』や『ザ・フラッシュ』『ジャスティス・リーグ』よりも高いスコアです。

ストーリーはシンプルというか王道のヒーロー誕生もの。ひょんなことから、エイリアンの作ったスカラベ“カージ・ダ”に寄生されてしまった青年ハイメ・レイエスは危機が迫ると全身が青いアーマーで覆われ、超人ブルービートルになります。早くからこのスカラベに目を付け軍事利用を企んでいた悪徳大企業は、ハイメからブルービートルの秘密を奪おうとします。かくしてハイメと悪徳企業の戦いが始まるのですが、主人公の運命に彼の家族が絡んできます。ラテン系の彼らはとにかく家族の結束が強い。ハイメ対悪徳企業は、レイエス家対悪徳企業の大バトルとなります。製作陣によれば、“もしピーター・パーカーがラテン系だったら、自分がスパイダーマンであることを家族に隠すことなんてできない”という発想でこのハイメと家の物語を考えたそうです。

ヒーローになったカツオを家族全員で応援する磯野一家みたいな感じで、ここが他のヒーロー映画にはない痛快さであり温かみなのです。特にハイメのおばあちゃんがCOOL!

『ブルービートル』で描かれる世界には、劇中にその姿は直接的に出てきませんが、スーパーマンやバットマン、フラッシュもいることがわかります。主人公ハイメは大学を卒業して実家に戻ってきたという設定ですが、最初のほうのシーンで、彼はゴッサム・ロー(ゴッサム大学の法律学科)の服を着ています。ゴッサムというのはバットマンが活躍する街ですよね。

また、彼の住むパルメラ・シティにACEケミカル(コミックではジョーカー誕生のきっかけとなった会社)、レックス・コープ(スーパーマンの宿敵レックス・ルーサーの会社)のビルがあることがわかります。TVで流れるスペイン語のニュースの中で、バットマンの正体であるブルース・ウェインの名が出てくるし、フラッシュの名も会話の中で出てきます。ビッグ・ベリー・バーガーというハンバーガー店の箱が重要な小道具になりますが、このハンバーガーはDCコミックの世界に存在する(TVドラマ版『アロー』『ザ・フラッシュ』にも登場の)架空のハンバーガー屋さんです。また、冒頭でスカラベが地球に来る際、緑色の光が絡んできますが、これはDCの宇宙ヒーロー、グリーン・ランタンの存在を示唆しているようです。コミックではスカラベを開発したのはリーチと呼ばれる種族ですが、彼らは古来よりグリーン・ランタンたちと戦っていたのです。

本作を観れば、ブルービートル/ハイメ・レイエスのファンになること必至、彼の活躍をもっと観たくなることでしょう。ジェームズ・ガンは本作について好意的であり、この映画をDCEUと切り離して考え、ブルービートル/ハイメ・レイエスはDCUの住人である的な発言をしたそうです。確かに本作はバットマンなどの言及はありますが、セリフの上で触れられるだけでDCEU版の彼らが画面に登場するわけではないので、DCEUとは異なるDC世界の話という解釈は十分成り立ちます。

従って、これから先ガン監督が仕掛けるDCUに、ブルービートル/ハイメ・レイエスが何らかの形で出てくる可能性大なのです。コミックではブルービートルは駆け出しのヒーローで先輩ヒーロー(スーパーマンやバットマン)から小僧扱いされたりもします。今後DCUの中でブルービートルと他のヒーローたちの掛け合いをぜひ観てみたいですね。
(文=杉山すぴ豊)

© 株式会社blueprint