【5月29日付社説】カスハラ対策/従業員守るのは組織の責務

 消費者や取引先など顧客による迷惑行為「カスタマーハラスメント」(カスハラ)が問題となっている。企業などの組織や業界を挙げて、従業員を守る仕組みを構築することが不可欠だ。

 厚生労働省によると、調査に回答した約8千社のうち、3割近い企業が過去3年間に従業員からカスハラの相談を受けていた。悪質なクレームを長時間、頻繁に繰り返すケースが最も多く、大声で責める威圧的な言動も目立った。業務内容とは関係のないセクハラやプライバシーの侵害、暴行などを受けたと答えた企業もあった。

 「お客は神様だ」といった態度で業務を妨害したり、従業員を侮辱したりするのは、サービスへの正当なクレームの範囲を超えた卑劣な行為だ。決して許されない。

 調査ではパワハラやセクハラに比べ、カスハラ対策が遅れていることも浮き彫りになった。相談件数の推移について、対策が進むパワハラやセクハラは減少したとの回答が多かった一方、カスハラは増加したと答えた企業の方が多い結果となった。約8千社のうち3割超の企業は、顧客からの迷惑行為に対する予防や解決に取り組んでいないことも分かった。

 対策が不十分な現状を受け、厚労省は、カスハラから従業員を保護する取り組みを企業に義務付ける検討に入った。具体策として、対応マニュアルの策定や従業員から相談を受ける体制の整備などを検討している。関連法案を来年の通常国会に提出する見通しだ。

 カスハラで疲弊し、従業員が休職や離職に追い込まれるケースがある。顧客第一主義の商慣行や企業の評判の悪化を避けることを優先し、従業員を守る対策をおろそかにすれば、業務効率の低下や人材不足などを招く。

 対策の効果を高めるには一企業だけでなく、宿泊や飲食、医療、介護、金融など同じ業界内で足並みをそろえることが重要だ。業界全体でカスハラの判断基準や現場での対処方法、警察への通報などの対策を整える必要がある。

 得意先の立場を利用した企業間のカスハラも看過できない。実現が極めて困難な短い納期の設定、担当者への暴言、接待の場でのハラスメントなどが該当するが、取引先に逆らうと仕事がもらえなくなるなどの懸念から、被害が表面化しにくいとの指摘がある。実態の把握が急務だ。

 対等な取引関係を逸脱した迷惑行為に罰則を科すなど、歯止めが欠かせない。国には、関連法案に企業間のカスハラ対策を明確に位置付けることが求められる。

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