「高齢化社会に最も影響を与えるリーダー」に選出され何を思ったか【正解のリハビリ、最善の介護】

ねりま健育会病院院長の酒向正春氏(本人提供)

【正解のリハビリ、最善の介護】#30

驚くことが起こるものです。エイジング・アジアというシンガポール経済連盟の団体から、「高齢化社会に最も影響を与えるリーダー」のアジアトップ10に選出され、5月初旬にシンガポールで表彰されたのです。

そのため、5月6日から10日までシンガポールのマリーナベイサンズの国際会議場で開催された「第12回アジア・パシフィック・エルダーケア・イノベーション・アワード2024」と「第15回ワールド・エイジング・フェスティバル」に参加しました。

選出の理由は3つありました。1つ目は「攻めのリハビリテーション治療」を広めたことです。これまでお話ししてきたように、患者さんが来院された当日から「座らせる」「立たせる」「歩かせる」「コミュニケートする」を繰り返すことで、人間力を回復させていく。それが攻めのリハビリです。2013年にはNHK「プロフェッショナル~仕事の流儀」の第200回で、「希望のリハビリ、ともに闘い抜く」として特集されました。

2つ目は2014年に国土交通省で「健康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン」を6年間かけて策定して、山手通り整備事業、二子玉川大規模開発、富山市コンパクトシティー、練馬健康医療福祉都市構想などで街づくりを促進したことです。

3つ目は大泉学園複合施設の「ねりま健育会病院」と「ライフサポートねりま」で、回復期から看取り期までのリハビリ治療連携体制を確立したことが評価されました。

そうしたことから、「医療、地域社会ケア、都市インフラを融合する攻めのリハビリテーションモデル」とのタイトルで基調講演を依頼されました。講演では、これまで取り組んできた攻めのリハビリ治療で人間力を回復する過程と、自宅退院後の地域への社会参加を継続支援する取り組みから老健での看取り対応までについて、さらに、政府・自治体・企業と連携した都市インフラ開発による社会参加環境と社会参加支援体制の整備で、超高齢社会の新しいコミュニティーを創造するアプローチに関してお話ししました。

■アジア各国の熱意に驚いた

特別講演の後は、パネルディスカッションに参加を求められ、アジアの有識者の方々と、「2030年の高齢化の未来を形作る健康長寿トレンドの変革」について意見交換を行い、自立した高齢者を介護状態にさせない政策の必要性を共有しました。世界の有識者の多くが「高齢化社会について日本から学びたい」という熱意を持っていることに驚きました。

今回の国際会議には、世界各国から約6000人が参加しました。エイジング・アジアは、高齢化社会が暗いものでなく、明るく前向きになるイノベーションを推進する組織で、ビジネス、政府、コミュニティーのリーダー、メディアを団結させ、アジア太平洋地域の高齢化社会の変革を推進するネットワークを構築しています。その目的は、高齢者ケアの質と基準の向上において支援と教育の役割を主導し、パートナーシップを育み、高齢化する団塊の世代の新たな機会と市場の需要に対応する解決策を開発し、管理することでした。すなわち、自立した高齢者と非自立の高齢者をどちらも支援するイノベーションです。

「ワールド・エイジング・フェスティバル」の前2日間に開催された「アジア・パシフィック・エルダーケア・イノベーション・アワード」では、選出された約40演題についての審査員を務めました。医療以外の環境デザインやプログラム、システムなど、高齢化社会に関わることはすべてが対象項目となり、38項目でアワードが選出されることにも驚きました。

世界では各国で医療制度が異なります。そのため、全世界で同じ医療を行えるわけではありません。医療福祉の質の問題とは別に、それぞれの国で可能な医療を提供する政策が必要になります。たとえば、リハビリ医療に関しては、マンパワーのないシンガポールではテクノロジーを優先したリハビリ治療になり、マンパワーのある日本ではコンベンショナル(療法士自身の技術)を優先させながらテクノロジーと統合したリハビリ治療になります。

アジアでは、日本のリハビリ治療後の患者の改善度の高さに驚き、コンベンショナル治療の高い洗練度に期待しますが、マンパワーと技術習得にかかる時間という高い壁を感じたようです。一方、当院でもさらに最先端のテクノロジーを活用したリハビリ治療を実施して、さらに、自立した高齢者を介護状態にさせないエビデンスを増やしていきたいと考えています。

日本の健康医療福祉の制度に敬意を払い、多くを勉強したいと考えるアジア各国のみなさんの熱意に、日本だけでなく、ますますアジア貢献の必要性を感じました。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)

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