「じゃぶじゃぶ池」の子どもを狙う不審なカメラ 第三者の“盗撮”を罪に問えるのか?

写真はイメージで本文とは関係ありません(マハロ / PIXTA)

夏になると子どもたちでにぎわう「じゃぶじゃぶ池」。この季節のお楽しみですが、一方で、水着姿の子どもを撮影目的に訪れる不審者が例年、報告されています。

全国各地の公園などに設けられている「じゃぶじゃぶ池」は、主に未就学児から小学校低学年の子ども向けの水遊び場。プールよりも手軽に利用できることから、気軽に楽しむ親子連れが多いです。

しかし、撮影が禁止されていることの多い有料プールと異なり、「じゃぶじゃぶ池」は誰でも近くによることができるうえ、撮影もできる場所が多いです。さらに、更衣室もないことから、「じゃぶじゃぶ池」で着替える子どもの裸や、水着姿を盗撮しようとする不審者が絶えません。

もしも、「じゃぶじゃぶ池」で、保護者ではない第三者が子どもの水着や裸の写真を撮影した場合は、どのような罪に問われるのでしょうか。2023年7月に施行された「性的姿態撮影罪」にあたる可能性はあるのでしょうか。奥村徹弁護士に聞きました。

●「児童ポルノ製造罪」に問われる可能性は?

——「じゃぶじゃぶ池」で保護者ではない第三者が子どもの水着や裸の写真を「盗撮」した場合、何かの罪に問われる可能性はありますか。

まず、「児童ポルノ罪」に問われる可能性を検討してみます。

公園で児童の下着・裸の姿態をひそかに撮影すると、製造罪(児童ポルノ法7条5項)が疑われます。普通の水着を普通に着ている場合には児童ポルノに該当しません。

もっとも、噴水などで下着・裸で水遊びをする場面は、一般的に性的意味合いが乏しく微笑ましい姿態として受け取られることも多いことから、「殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの(2条3項3号)」の要件が減殺される可能性があります。男湯の女児についての高裁判例(*1)が参考になります。

また、児童ポルノ製造罪の「ひそかに」とは、「一般人を基準に描写される児童に知られることがないような態様で」と解されており(坪井麻友美検事著「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」『捜査研究』第63巻第9号)、公共の噴水等で堂々と撮影している場合には「ひそかに」とは言えないこともあるでしょう。

●新設された「撮影罪」にあたる可能性は?

——「性的姿態撮影罪」はどうでしょうか。

2023年7月13日以降の盗撮行為については、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律の性的姿態撮影罪」(略称:性的姿態撮影罪)が適用されます。

噴水の児童の裸に適用されそうなのは、「正当な理由がないのに、13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為」という構成要件です(2条1項4号)。

「正当な理由」については、「例えば、○親が、子供の成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で水遊びをしている子供の姿を撮影する場合 ○子どもの身体的発育に関する医学的研究を行っている医師が、その研究に用いる目的で、胸部の写真を必要な枚数だけ撮影する場合等については、『正当な理由』があると考えられる。」(警察学論集77巻1号)と説明されていて、第三者が盗撮する場合には正当な理由は認めにくいでしょう。

法定刑は「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」ですが、撮影しようとしたものの、撮影できなかった場合には、未遂として処罰されることもあります。

また、「迷惑防止条例」もあります。公園等の公共の場所で児童が下着姿・裸になっていたとしても、撮影されることまで承諾していないということで、各地の迷惑防止条例の「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」として処罰されることもありえます。水着についても同様です。

●保護者が撮影した場合なら大丈夫?

——保護者が「じゃぶじゃぶ池」で遊ぶ裸の子どもを撮影した場合は、性的姿態等撮影罪や児童ポルノ製造罪にあたるのでしょうか。

児童ポルノ罪には、保護者だから許されるという条項はなく、各製造罪の構成要件(「提供する目的で」「姿態をとらせて」「ひそかに」)が検討されます。保護者が診察を受けさせる目的で陰部を撮影した場合も児童ポルノ性は変わらないとする高裁判例(東京高裁h30.1.30*2)があります

性的姿態撮影罪については、前記のとおり、親が、子供の成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で水遊びをしている子供の姿を撮影する場合には「正当な理由」があって処罰されないと解説されています。

迷惑防止条例については、保護者が撮影する場合には被写体の承諾があるので「卑わいな言動」に当たらないと思われます。

*1 【大阪高裁平成24.7.12】(公刊物未掲載)
本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。
*2 【東京高裁平成30.1.30】
トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,児童が突っ立っている画像であって,児童に殊更扇情的な姿態をとらせたものではなくても,性器を殊更露出させたものであれば,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものといえる。また,全裸で両手を縛った画像や性器をひもで緊縛するなどして児童を拘束している画像や,上半身裸の男児の目,口をガムテープで塞ぎ両手を緊縛した画像も,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものといえる。所論は,少年アイドルの上半身裸の写真や小学生の水泳の写真と同視でき,児童ポルノに該当しないとも主張するが,それらは,画像から読み取れる姿態,場面,周囲の状況,構図等を総合的に考慮して判断するならば,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものとはいえないと評価されるにすぎない。なお,保護者が陰茎をつまんで撮影した写真は,児童ポルノに該当するが,その製造,所持の目的が,子供の成長の記録のためであるなどして,性的好奇心を満たす目的等に欠ける場合には,犯罪を構成しないと評価されるだけである。

【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員。
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/

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