築きあげた資産が他人のものに?家族がいない「おひとりさま」がやるべき遺産相続対策【弁護士が解説】

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おひとりさま生活は、経済的にも時間的にも自由度は高いですが、老後や相続について不安を感じられる方は少なくないようです。おひとりさまの場合、相続対策を何もしなければ財産のすべてが国庫へ帰属してしまう可能性もあります。では、相続する家族がいない場合に、築きあげた資産を特定の人や団体に残し、希望通りに活用してもらう方法はあるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所の代表・萩原達也弁護士が解説します。

遺産を受け取ることができるのは家族だけ?

おひとりさまとして独身生活を謳歌(おうか)しつつも、しっかりと資産を築きあげてきた場合は、経済的にも安定した生活を送ることができます。一方で、資産がある場合は、築きあげた資産が相続の際にどうなるのか、気になるところでしょう。

まずは、相続の基本的な考え方をみていきます。ご自身が亡くなったときに遺産を相続できる人のことを「法定相続人」といいます。「法定」という言葉からもわかるように、法定相続人の範囲および順位は、民法で明確に定められています。

具体的には、亡くなった方に配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人になることができ、それ以外の人は、第1~第3の順位で相続権が認められます。

・第1順位……子どもや孫(直系卑属)

・第2順位……両親や祖父母(直系尊属)

・第3順位……兄弟姉妹

このように、法律上は亡くなった方の家族が遺産を受け取ることになります。つまり、独身で親族が誰もいないという場合は、何も対策をしていなければ、誰かに財産を残すということはできない、という事態になります。そのため、生前にしっかりと相続対策をしておくことが重要になるのです。

相続対策というと、ネガティブなイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、これまで築きあげた資産を適切に引き継いでもらうためにも、早いうちからしっかりと検討していくことが大切です。

遺産を受け取る家族がいない。親族もいない。相続はどうなる?

遺産を相続する家族や親族が誰もいないという場合、利害関係人または検察官の申し立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。

相続財産清算人の選任後、公告期間に相続人が見つからなかったときは、次のような流れで亡くなった方の遺産が分配されます。

(1)債務があった場合

亡くなった方に借金や負債などの債務があり、相続債権者から申し出があったときは、相続財産から債務の弁済が行われます。弁済可能な現金がない場合には、相続財産清算人により不動産や有価証券などの換価・処分が行われます。

(2)特別縁故者がいた場合

特別縁故者とは、亡くなった方と一定の関係性を有していた人のことをいいます。

・被相続人と生計を同じくしていた人

・被相続人の療養看護に努めた人

・その他被相続人と特別の縁故があった人

独身だとしても、一緒に生活している恋人や身の回りの世話をしてくれる人などがいらっしゃる方もいるでしょう。このような人は、家庭裁判所に対して特別縁故者への財産分与の申立てを行うことにより、相続財産の全部または一部を取得できる可能性があります。

本来は、相続人でなければ遺産を取得できませんが、特別縁故者に該当すれば家族や親族以外の第三者も取得することができます。ただし、特別縁故者に対する財産分与は、家庭裁判所の判断により行われますので、財産分与の申立てをすれば、必ず相続財産を取得できるというわけではありません。

財産分与の可否および金額については、主に次のような要素を踏まえて判断されます。

・亡くなった方と特別縁故者との関係性

・生前のかかわりの程度

・特別縁故者の年齢や職業

・相続財産の種類、金額、所在

(3)国庫への帰属

特別縁故者にあたる人が誰もいない、または特別縁故者への財産分与を終えても相続財産に余りがあるという場合、亡くなった方の財産は、最終的に国庫に帰属することになります。

おひとりさまが準備するべき相続対策

築きあげてきた大切な資産を、恋人やお世話になった人に渡したい、特定の団体に寄付したいと考えていても、何も対策をしなければ国のものになってしまう可能性があります。そのため、生前にご自身の状況に適した相続対策をしっかりと行うことが大切です。

では、具体的にどのような対策があるのかを確認していきましょう。

(1)遺言書の作成

前述したように、遺産は法定相続人がいれば法定相続人に、特別縁故者がいれば特別縁故者に承継されますが、いずれも存在しない場合には、国のものになってしまいます。また、特別縁故者が財産を取得するための手続きは非常に煩雑で、大変です。そのような事態は、生前に遺言書を作成することで防げます。

遺言書がある場合、遺言書により指定された人が相続することができます。遺言書で指定する人は、家族や親族だけでなく、恋人やお世話になった人など第三者を指定することも可能です。

相続対策で利用される遺言書は、主に2種類です。

・自筆証書遺言

・公正証書遺言

家族も親族もいない場合、遺言書を誰にも見つけてもらえないというリスクがありますので、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を作成するのがおすすめです。公正証書遺言の作成には公証人が関与しますので、遺言が無効になるリスクが低く、遺言書の偽造や紛失を防ぐことができます。

不動産や株などを有しており、遺産額が大きくなる場合は、検討すべき事項が多岐にわたります。そのため、どのような内容の遺言書にするかは、弁護士のサポートを得ると安心です。

遺言の内容を実現するために、亡くなった際に弁護士が遺言執行者となるかたちでの遺言書の作成も可能ですし、遺言書(の謄本)を弁護士が預かることも対応している場合があります。

(2)任意後見契約の締結

亡くなった後のことではありませんが、自身の判断能力が落ちる事態に備えて、任意後見契約を締結することも考えられます。

任意後見契約とは、将来自分が認知症や障害などにより判断能力が不十分になったときに備えて、あらかじめ信頼できる第三者に将来の財産管理や身上監護を依頼することです。

本人の判断能力が低下したときに利用できる制度には、法定後見制度があります。しかし、法定後見制度では、後見人や後見人の権限を本人が決めることができませんので、財産管理や身上監護に自分の希望を反映させることができません。

法定後見制度には不安があるという場合には、元気なうちに任意後見契約の利用を検討するとよいでしょう。なお、財産管理や身上監護を託せる人が周りに誰もいないという場合には、弁護士などの専門職に任意後見人を依頼することも可能です。

自分の判断能力が衰えた後のことや亡くなった後のことを考えるというのは、決して簡単なことではありません。しかし、長年築きあげてきた資産を、ご自身の納得いく内容で活用してもらうためにも、終活とあわせて相続対策も考えておくことが大切です。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

萩原 達也

ベリーベスト法律事務所

代表弁護士

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