ゼレンスキー氏、バイデン氏に「平和サミット」出席を強く要請

イモージェン・フォウクス、BBCスイス特派員

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、アメリカのジョー・バイデン大統領に対し、6月中旬にスイスで開かれる「平和サミット」に出席するよう強く求めている。

このサミットは、スイス中部ビュルゲンシュトックの、美しいルツェルン湖がある高地の五つ星ホテルで開催される。ゼレンスキー氏が、こうした会議を中立国のスイスで開くべきだと、同国のアラン・ベルセ前大統領に提案したのがきっかけで、数カ月前から計画が進んでいる。

スイス政府は160カ国以上を招待している。「世界の指導者たちが、国際法と国連憲章に基づき、ウクライナの公正で永続的な平和に向けた道筋を議論する場を提供する」としている。

ゼレンスキー氏は、主要な支援国が欠席する可能性があることについて、「(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンが個人的に拍手を送ることになる。スタンディング・オベーションになる」と述べた。

アメリカのバイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領に関しては、サミットを欠席する見通しだと報じられている。アメリカは何らかの代表を送るだろうが、大統領の欠席はウクライナにとって大打撃となる。

ウクライナではここ数週間、ロシア軍が進撃を続けている。ゼレンスキー氏は、世界がまだウクライナを支援していると示すため、スイスでのサミットのような大々的なイベントをどうしても必要としている。アメリカはこの会議を支持すると表明しているが、ハイレベルの代表団を派遣するとは、まだ約束していない。

成功の妨げ

サミットをめぐっては、成功の妨げとなりそうなものも目につく。その最たるものが、戦争を始めたロシアが参加しないという事実だ。スイスはロシアを招待していないとし、ロシアはいずれにせよ出席しないとしている。

ロシアはスイスによる制裁措置に強く憤っている。スイスは推定140億ドル(約2兆2000億円)のロシア資産を凍結。ロシアへの直行便も運航を停止している。モスクワ発のアエロフロート機が日々、ジュネーヴに着陸し、ロシアの外交官らがリムジンで湖畔の五つ星ホテルに向かうのは過去の光景となった。

こうした状況を受け、ロシアのゲンナジー・ガチロフ駐ジュネーヴ国際機関代表部大使は昨年末、スイスは中立性を放棄しており、和平交渉の場としてはもはやふさわしくないとする意見書を、ジュネーヴのジャーナリストたちに配った。

プーチン氏が耳を貸す中国も、高官の派遣は見送る見通しだ。スイスが出席を強く望んできたブラジルとインドも、下級職員しか送らないとうわさされている。

スイス政府は、これまでに約70カ国が出席に同意しているとする。一方、ゼレンスキー氏は、出席予定の国は90に近付いているとしている。

出席予定者には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やドイツのオラフ・ショルツ首相など欧州指導者たちのほか、アフリカや中東の国々の代表らが含まれているとされる。

では、どんな結果が生み出されそうなのか。スイスのヴィオラ・アムヘルト大統領は、サミットが成功する保証はなく、すぐに和平合意に至るわけでもないと述べるなど、期待値を下げようとしているかのようだ。

議題の全容はまだ公表されていない。だがゼレンスキー氏は、政治犯の交換、原子力発電所の安全、連れ去られた子どもの返還が協議されるべきだとしている。ウクライナが和平合意の重要な条件としている、ウクライナ領土からのロシア軍の完全撤退が議題に上るかは不明だ。

スイス政府は公式には、今回のサミットは和平プロセスの始まりに過ぎず、ロシアが参加する可能性もある2回目の会議も検討しているとしている。

スイスのメディアでは、スパやテニスコート、さらにはアルプスの山並みを楽しめるゴルフコースまで完備した高級ホテルで、世界の指導者たちが素晴らしい景色を楽しみながら出す成果として最も可能性が高いのは、観光の活性化だとの皮肉な見方も出ている。

しかし、アムヘルト氏はこう反論する。「別の選択肢は『何もしない』ということだろうが、それは欧州の安定にとっても、スイスにとっても無責任だ」。

(英語記事 Zelensky urges Biden to attend Ukraine peace summit

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