<レスリング>【2024年明治杯全日本選抜選手権・特集】家族を支えていくためにも、踏ん張れる男になりたかった…男子フリースタイル92kg級・石黒峻士(MTX GOLDKIDS)

(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)

「古巣に戻っての初戦だった。いい再スタートを切れたと思います」

大会初日(5月23日)に行われた男子フリースタイル92㎏級は、石黒峻士(MTX GOLD KIDS)が決勝で三浦哲史(拓大)を撃破。この階級での初優勝を果たした。

「プレッシャーはなく、普通に楽しく、最後まで全力を出して戦うことができました」

その勢いで臨んだプレーオフでも三浦を相手に連勝を飾り、10月にアルバニアで開催される非オリンピック階級の世界選手権への出場切符を手にした。

「今回出ようと思ったのは、世界選手権で頑張るのではなく、メダルを確実に取って優勝を狙いたいと思ったからです」

快進撃の要因はあまたある。12年ぶりに恩師であるGOLD KIDSの成國晶子代表にセコンドに就いてもらったこともそのひとつだ。

「先生からは『勝っても負けてもいいから、好きなようにやってきなさい』というアドバイスをいただいていました。僕は試合前、結構弱気になることが多い。先生はそのへんも分かっているので、試合直前に『弱気になるな』と叱咤されました」

▲キッズ時代に指導を受けたMTX GOLDMIDSの成國晶子代表のセコンドで闘った石黒峻士

試合中も、成國代表のアドバイスはよく耳に入ってきたという。「おかげで、指示に従って動くことができました。初戦から自分の悪いところをしっかり指摘していただいた。それで修正を重ねながら、2戦目、3戦目へとつなぐことができた。第2のお母さん? いえいえ、もうお母さん(そのもの)ですよ(笑)」

弟が快挙を達成し、「兄がクヨクヨしていたらダメ」と奮起!

今年1~2月頃、パリ・オリンピック出場の夢を断たれた石黒は、人生の岐路に立たされていた。「(所属していた)新日本プロレスにもう少しいたかったけど、プロレスラーになるか、引退するかのどっちかにしてくれ、ということになり、正直どうしようかと悩んでいました。でも、もう少しレスリングを続けたい気持ちがあったんですね…。お世話になった永田裕志監督も快く送り出してくれたので、本当によかった」

最大の転機は、弟で男子フリースタイル86㎏級の石黒隼士(自衛隊)がアジア予選でパリ・オリンピックの出場枠を勝ち取ってきたことだった。

「隼士は頑張っているのに、オレは何をしているのかと思いました。隼士の活躍を目の当たりにして、『兄がこんなにクヨクヨしていたらダメ』と気持ちを切り替えました」

▲全日本王者を決勝とプレーオフで連破し、世界選手権代表を決めた石黒峻士(写真は決勝)

それだけではない。昨年末に結婚したことも、石黒を奮起させる要因となった。

「レスリングをやめようかと思い悩んでいたときに、『こういう状況は夫としてどうなのか』と思いまして(微笑)。家族を支えていくためにも、踏ん張れる男になりたかった。今までの自分は、きついときに粘ることができなかったので、これからは持ちこたえるレスリングを目標にやっていきます」

時間がない分、1秒1秒を大切にしたことが優勝へつながった

現役活動を再開するにあたり、石黒は闘い方を変えた。「今までは自分の体重を相手にかけて闘うことが多かったけど、これからは自分(の動き)主体で闘おうと心に決めました。今大会ではそれができたと思います」

現在は看護学校に通いながら、レスリングの練習に励み、夫としてもやれることはやろうとしている。

▲プレーオフに勝ち、パリ・オリンピックに出場する弟に負けない成績を目指す石黒

「時間はないけど、なければないで、隙間の時間を見つけて勉強している。今まではたくさん時間があって、そこでいろいろ考えすぎる傾向もあった。今は時間がないので、1秒1秒を大切にできるようになったと思います。それも、今回優勝できたひとつの要因だと思いますね。将来は看護師になりたいと思っています」

踏ん張れる男になりつつある兄は、時間をやりくりしながら再び世界の頂きを目指す。 弟に負けるな!

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