フードホールとコンセプト店舗を展開、ぐるなびが実店舗ビジネスを拡げる理由とは

飲食店情報サイトならびにその関連サービスを展開するぐるなび(東京都/杉原章郎社長)が、店舗開発事業の「GURUNAVI FOODHALL WYE(ぐるなびフードホールワイ)」を拡大している。2024年8月に広島県広島市の中央公園内にオープン予定の商業施設「HiroPa(ヒロパ)」に出店し、中国地方へ初進出する。順調に店舗数を伸ばしているが、そもそもWebメディアに強みを持つぐるなびが、なぜ店舗をプロデュースするのか。また、既存事業とどのようなシナジーがあったのか。イノベーション事業部店舗開発部の池田克氏と小田朋実氏に聞いた。

GURUNAVI FOODHALL WYEは2種類

2022年11月にオープンしたコンセプト店舗形式のGURUNAVI FOODHALL WYE 天空橋

GURUNAVI FOODHALL WYEは大きく「フードホール形式」と「コンセプト店舗形式」の2種類に分かれる。

フードホール形式は商業施設内に区画を設け、ぐるなびとつながりのある飲食店を誘致する形態だ。たとえば2号店である「GURUNAVI FOODHALL WYE 栄」には、ハンバーグ屋、天ぷら屋、韓国料理屋など、多様な店舗が並ぶ。

「これ自体は革新的な取り組みではないが、我々のネットワークを利用して、ふだんは商業施設へ店舗を出さない飲食店に出店いただける点は新しいと思う。商業施設にも来店される方にも喜んでもらえている」(小田氏)

一方、コンセプト店舗形式は、全国の名店の看板メニューやオリジナルメニューを提供する形態だ。普通のフードコートとの違いは、一つの厨房ですべての料理を調理する点だ。

「GURUNAVI FOODHALL WYE 天空橋」では、みそかつ丼やお好み焼き、すき焼きなどを楽しめる。店舗ごとに厨房を用意する必要がないため設備費を削減できる。また、各メニューの売れ行き状況を見ながら、メニューを入れ替えることで、店舗を入れ替える必要がない点も特徴と言える。

顧客の声から生まれた新規事業

ぐるなびといえば、飲食店の情報を集めたサイト「楽天ぐるなび」の印象が強いが、なぜ実店舗ビジネスに参入したのか。

2023年9月オープンのGURUNAVI FOODHALL WYEヒタチエ

これは2019年6月に楽天の常務執行役員からぐるなびの社長に就任した杉原章郎氏の影響が大きい。

杉原氏は就任直後、全国のぐるなびと関わりの深い飲食店へ出向き、何か手伝えることはないか、困っていることはないかヒアリングを実施した。そこで挙がったのが「2号店、3号店と、もっと店舗を出したいがお金や人員の問題で難しい」という声だった。

一方、商業施設側には魅力的な飲食店を誘致したいという思いがあった。なぜならECの台頭により、顧客が実店舗に来店して物を買う頻度が減っていたからだ。そのなかで施設を盛り上げてくれるのは「食」であるが、飲食店誘致は容易なことではない。

これら2つの悩みを聞いた杉原氏は、飲食店と商業施設の橋渡しをすることに決めた。それがGURUNAVI FOODHALL WYEだ。ただ、事業部が立ち上がった時期はコロナウイルスの感染拡大を防ぐロックダウンと同時期だったそう。

「数か月は思うように動けない時期が続き、先行きは不透明だった。大変な時期ではあったが、コロナ禍で商業施設の空き区画が増えた点は不幸中の幸いだった。我々の事業で空いた区画を埋められれば、商業施設にも飲食店にも喜んでもらえる」(小田氏)

最初は社内も商業施設もネガティブな反応

実店舗ビジネスに参入すると決めた当初、社内は歓迎ムードではなかった。「既存の事業に愛があるからこそなので、杉原とはよく『健全な反応だね』と話していた。しかし、既存事業で培った飲食店とのつながりは新規事業に活きるため、結果を出していけば理解してもらえると思った」と小田氏は言う。実際に事業がスタートすると、雰囲気はガラッと変わった。

しかも、商業施設を運営しているディベロッパーとの交渉も簡単ではなかった。企業が商業施設の区画を借りて飲食店を誘致していくというビジネスモデルは珍しかったので、「良さそうだけど前例がないから」という渋い反応。後押ししたのは時代の流れだった。

商業施設としては、施設の利用者が喜ぶ店舗を誘致したいという思いはあるものの、流行り廃りが激しい今の時代においては、人気店であっても数年後には利用者が激減していることもあり得る。飲食店とのつながりが強いぐるなびが全面的にプロデュースすることで、どんな店を誘致すればいいか、あるいは店を入れ替えるべきか、などを提案できる。商業施設側に「それが最適解なのではないか」と思ってもらえたことで事業が前進した。

ぐるなびの強みを活かす

イノベーション事業部店舗開発部の池田克氏(右)と小田朋実氏(左)

20年以上に渡って培ってきた飲食店との太いパイプがあるからこそ、出店してくれる店もある。「GURUNAVI FOODHALL WYE 栄に出店して頂いているタイチ食堂さんは、今まで商業施設に出店したことはなかった。しかし当社の営業担当と話すうちにメリットを感じて頂けた。今は他施設への出店を含め、3店舗にまで拡大している」(池田氏)

闇雲に出店を促すのではなく、既存事業のWebメディア「楽天ぐるなび」を通して培った加盟店との関係性を武器に、GURUNAVI FOODHALL WYEのコンセプトとマッチする飲食店へ声を掛ける。「GURUNAVI FOODHALL WYEは現在、年間3〜5件ほどオープンしているが、できれば年間10件ほどまで増やしたい」と池田氏は話す。

今後はグローバルに展開していきたいと考えているそう。日本食の需要や認知の高まりを追い風に、まずは食の好みが近いアジア圏に事業を広げていく予定だ。まだ構想段階ではあるが、すでに視察をおこなっているとのこと。GURUNAVI FOODHALL WYEが海外でみられる日もそう遠くないかもしれない。

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