筑波技術大 共生社会創成へ新学部 開設準備 社会学と情報科学融合 茨城

新しい学部の開設に向け準備が進む筑波技術大=つくば市天久保

視覚、聴覚に障害のある人だけが学ぶ唯一の国立大、筑波技術大(茨城県つくば市)が、新学部「共生社会創成学部」の2025年春の開設準備を進めている。障害社会学と情報科学の知識を習得できる文理融合型の学部で、視覚、聴覚障害者が相互に学び合う科目も新たに設ける。文部科学省に新設を申請しており、認められれば開学以来、初めての学部増設となる。

■開学以来初

既存の学部は短大として発足した当初の流れを継承し、職業人育成の機関という側面が強かった。学部新設により、共生社会実現に向けてさまざまな「バリア」を取り除き、当事者目線で環境整備を提言できる人材育成を目指す。

同大は、国立短大を前身に、05年10月に開設した。当初から、聴覚障害者を対象とする「産業技術学部」と視覚障害者を対象とする「保健科学部」の2学部で構成。学科は短大時代の流れをくみ、学生はデザインや情報技術、はり・きゅう、理学療法などを学ぶ。同大によると、これまではいずれも「手に職」を目指した理系・医療系の学部だった。文系分野も総合的に学べる学部が新設されれば、開学以来初めてとなる画期性がある。

新学部は、障害者を取り巻く社会環境や多種多様な障害や特性への理解を深める。その上で必要な支援の伝え方や、プログラミングなどの情報技術を用いて支援環境を整える方法などを学ぶ。視覚障害者10人、聴覚障害者5人の計15人定員予定。聴覚・視覚障害のある学生が互いに学び合う機会も設け、有効なコミュニケーション手段や情報の提示方法を話し合う授業も実施する。

■社会変化に対応

同大によると、増設の背景には障害者を取り巻く制度や意識の変化がある。障害者差別解消法制定(13年)や障害者雇用促進法の改正(22年)により、合理的配慮の提供が義務付けられた。障害者雇用率も引き上げられるなど、包括社会に向けた法整備が進む。

時代の変化を背景に、同大の保健科学部の鍼灸学専攻と理学療法学専攻などでは大幅な定員割れが続く。本年度の志願者数はそれぞれ5人(定員20人)と4人(定員10人)にとどまる。同大は新学部設立に当たり、産業技術学部から5人、保健科学部から10人、それぞれ定員を減らす方針。谷貴幸副学長は各職業の重要性を強調しつつも「障害があれば必ずしも『手に職』という時代ではなくなってきた」と指摘する。

■受け皿整備を

一方で、谷副学長は法整備や意識の変化に対し「社会や企業などの受け皿の環境整備は追い付いていない」と指摘する。同大の就職希望者の就職率は約9割だが、入社してから必要な支援が提供されず退社する学生もいるという。会社側からは、会社向けの研修の場が少なく職場の環境整備について悩む声も聴かれる。香田泰子副学長は「企業と共に環境をマネジメントする人材が必要とされている」と新学部構想の意義を強調した。

同大は文科省の大学設置・学校法人審議会に3月に申請。審議会は精査した後、8月下旬ごろに結論を出す予定。

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