市原隼人が「こんな風に生きられたらいいな」と憧れるシンプルで真っすぐな生き方をする男

市原隼人 撮影/有坂政晴

“漢”という言葉がこれほど似合う男はいないだろう。俳優・市原隼人。『WATER BOYS2』、『ROOKIES』といった学園ドラマでの熱いキャラが印象的な市原さんだが、近年では『鎌倉殿の13人』、『正直不動産』などではスマートで大人のキャラを好演している。そんな市原に「THE CHANGE」について聞いてみた。【第3回/全4回】

市原さんが演じる甘利田幸男は“輪島塗のマイ箸”を持つほど、給食命の中学教師だ。

「甘利田という男は、ある意味、僕にとってのロマンなんです。笑われても滑稽な姿を見せても、好きなものを好きと胸を張って人生を謳歌する勇気、子供に対しても負けたら負けたと素直に言える男で、僕もこんな風に生きられたらいいな、こういう人間になりたいなっという憧れでもあるんです。演じるうえではシーズンを重ねていくことで、どう変化をみせていこうかと悩んだこともありましたが、結局、変わらないでいることが甘利田幸男の一番の在り方なんだなっと感じました」

本シリーズの見せ場はやはり給食シーン。この時、甘利田が見せる給食に対してリスペクトの思いを表現するユニークなアクション(舞い?)はすべてアドリブだという。

「給食を食べるだけなのですが、滑稽な姿も含めてすべてを出しきりたいと思っていました。なので、事前に動きを全部考えて自分で構築していかないと撮影を迎えられなかった。僕は役として笑わせるのではなく、笑われたいんです。甘利田が自分の理想郷である給食の時間に埋没してどう必死に向き合うか。このシーンは長回しで撮られるんですが、ほとんど使われなくても構わないという気持ちで挑んでいました。シーズンを重ねるごとに、前作を越えようと必死に撮影していたら、シーズン3の時には意識がブラックアウトしてしまったこともありました(笑)」

“キング・オブ・ポップ”を目指したい

甘利田が給食を完食するシーンは清々しくもあるが、あの見事なまでの食いっぷりを見せるうえで、撮影前は何も口にはしなかった。トータルで、ものすごく動く現場だったので、体力的にも精神的にも持たせるために、体重を10キロ落としてから現場には入ったそうだ。

「そこまでしてでもやり遂げたいというのは、僕の中でお客様に楽しんでいただきたい、今作品は大衆に向けてのエンターテイメントを創るという事を目標に掲げているからなんです。キャリアを積んでいくとニッチな方に行きがちになるんですけど、コロナ禍を経て、改めて“キング・オブ・ポップ”を目指したいという気持ちが根源にできました。唯一無二の世界観で骨太のしっかりとした社会派のメッセージや人間臭さといった”映画の背中”を見せたいという意地で、撮影中は毎日を紡いでいったところがあります」

撮影に常に真摯に向かう市原さん。あるインタビューでは「昨日の自分を越えていくのがモットー」と語っていた。

「精神的な面になると思うのですが、結局は自分というものが判らないんです。色んなものに感化されながら、毎日自分を壊して、毎日作っていきたいんです。おそらく、この先同じ質問をされたとして、昨日と今日と明日、全部が違う答えであるのが当たり前だと思うんです。そういう人間でありたいんです」

“自分を越えること”は難しい、とはよく言われるし、人は生きていれば、そう実感することは多い。

「毎日思うことがあります。“自分って何だろうな”と。撮影というのは竜宮城みたいなもので、いざ現場に入って行くと外の情報などがまったく遮断されます、何か月も。だから終わって戻ってくると、時間が止まったかのような感じに陥ってしまい、何をしたらいいのかも判らなくなる。そもそもが毎日毎日その時の役のためだけに生きていると、その期間どうやって自分自身が過ごしてきたかすら判らなくなることもあるんです。
模索しているうちに、また次の新しい現場に入っていくとまた自分というものが何なんだろうって……そんな思いがどんどん増えていくんです。なので、腹をくくって、自分なりに必死に現場にしがみついて学ばせていただき、日々を通過点として、生涯未完成であると墓に入るまで色んなことを経験していければ良いと思っています。墓に入ってから、ああ良い人生だったなとあの世で思えれば、それで良いかなと考える様になってきました」

市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。小学5年生の時にスカウトされ芸能界に入る。2001年、映画『リリイ・シュシュのすべて』で主演を務める。2004年、ドラマ『ウォーターボーイズ2』で連ドラ初主演を果たし、同年に公開された映画『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近作にはドラマ『正直不動産』シリーズ、や舞台『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』がある。近年は写真家としても活動している。6月~は主演作品・WOWOWにて『ダブルチートseason2』の放送開始。

© 株式会社双葉社