【社説】北朝鮮情勢と日本 戦略的対話が求められる

 北朝鮮の核・ミサイルを巡る情勢は厳しさを増す。27日夜には2機目の軍事偵察衛星の打ち上げを図った。新開発のエンジンの不具合から失敗に終わったが、今後とも安全保障上の脅威になり得る。

 弾道ミサイルの技術を使った発射を禁じる国連安全保障理事会決議に違反する上に、見過ごせないのは4年半ぶりに韓国で開かれた日中韓首脳会談を露骨にけん制する形で強行したことだろう。

 世界の核軍縮の流れが後退する中で朝鮮半島の非核化も遠のきつつある。核保有とミサイル技術の高度化を公言する北朝鮮への包囲網の役割は重い。ただ友好国の中国を巻き込むことが期待された首脳会談で、これ以上の核開発の阻止に向けて踏み込んだ成果を出したとは言い難い。

 前回の首脳会談で合意文書に入った「朝鮮半島の完全な非核化にコミット(関与)」という文言は今回、見送られた。中国が抵抗したのは日韓の後ろ盾である米国と台湾海峡を巡って緊張関係にあることも影響したとみていい。

 共同記者会見で岸田文雄首相は「北朝鮮の非核化」が3カ国の共通利益と強調した。実際はどうなのだろう。在韓米軍を含む朝鮮半島全体の非核化という理念がいつの間にか後退してはいないか。

 その北朝鮮はロシアと急接近している。ウクライナの戦場への兵器・弾薬提供の見返りにロケット技術の供与を受けているとみられ、それは核戦力の増強にも直結しかねない。こうした激変する国際情勢を踏まえた上で、北朝鮮と日本がどう向き合うかを仕切り直すべき段階だろう。

 折しも今月、節目が重なった。小泉政権下の最後の日朝首脳会談から20年になる。そこでは過去の清算のための経済協力も含めて国交正常化を目指す日朝平壌宣言を再確認し、拉致被害者の家族5人を連れ戻した。「ストックホルム合意」からは10年。拉致被害者らの再調査を北朝鮮が約束したが、その後の日本の独自制裁強化で頓挫した。

 むろん岸田政権も停滞する日朝の懸案を動かす意欲はあるはずだ。首相は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との条件なしの首脳会談を呼びかけてきた。

 この2月には北朝鮮側が、拉致問題を解決済みにするなら訪朝受け入れもあり得ると読み取れる談話を発表した。即時に日本側が反発したため交渉を拒否したが、首相は電撃訪朝を水面下でなお模索しているとの見方がある。

 拉致被害者の家族は高齢化が著しく、長い心痛は察するに余りある。首脳同士、膝詰めで対話することに意義はあるが、核・ミサイル・拉致問題を同時解決する日本の基本姿勢を変える必要はない。仮に苦境に立つ政権の浮揚に向け、訪朝自体を目的とするのなら足元を見られよう。

 西側で対北朝鮮政策を主導するのは言うまでもなく米国である。その顔色をうかがうだけでなく、曲がりなりにも首脳会談が実現した中国とも連携したい。そして北朝鮮の暴挙を食い止め、かたくなな姿勢を変えさせる周到かつ戦略的な対話が求められる。

© 株式会社中国新聞社