市原隼人37歳、愛機・カワサキZ1でのアメリカ横断が夢「生きているうちにやれることは全部やっておきたい」

市原隼人 撮影/有坂政晴

“漢”という言葉がこれほど似合う男はいないだろう。俳優・市原隼人。『WATER BOYS2』、『ROOKIES』といった学園ドラマでの熱いキャラが印象的な市原さんだが、近年では『鎌倉殿の13人』、『正直不動産』などではスマートで大人のキャラを好演している。そんな市原に「THE CHANGE」について聞いてみた。【第4回/全4回】

人は誰しもが生きていく中で、自分の生き方に疑問を持つことがある。市原さんもご多分に漏れず、そう考えることが多い。

「20代半ばぐらいからは、武士道ではないですが、“自分の生きる意義ってどこにあるんだろう”というのをどこかで常に考えています。死んでからそれが見えてくるのか、生きている最中にそれを見出すべきなのか、見出せるのか。そんなことを考えることで、どんどん自分の視野や思考が狭まってくるんじゃないか……とか、人生の迷子になってしまうこともありました」

「人生は死に至る戦い也」とは文豪・芥川龍之介の遺書の言葉だが、市原さんの話を聞いているとそれを思い出してきた。日々戦っている──ということなんですかと話を振ると、「休みたいですよね」と笑顔で返してくれたが、それもまた市原さんの本心なのであろう。

プライベートでは現在37歳。世間的にはアラフォー世代だ。今後、変わっていくとしたら、どう変わっていきたいのか、という質問に対して、市原さんは20秒ほど黙考し、ゆっくりと話してくれた。

「話が重複してしまうのですが、やっぱり、日々重ねるごとに自分がどんどん判らなくなっていくんです。結局は自分は自制心とか理性で抑えられているんじゃなないかと。10代の若い頃はもっと自分の色があったと思うんです。好きな音楽、好きなライフスタイル、好きな服やブランド……そういうものがたくさんあったのが、段々段々社会の一員になっていくことで自分というものを見失っているのではないかという思いがあります」

自分のバイクでのアメリカ横断が夢

つまりは、俗っぽい言い方をすると“丸くなった”ということなんだろう。

「それは色んなことを認められるようになったということで、とても良いことだと思うのですが、もう一方で、このままで良いのかっという思いもあります。若い頃は理由なき反抗と言いますか、もっと世の中に対して怒りを抱いていたところもありました。世の中も理不尽なことばかりで表裏一体でありながら矛盾した面を持つご時世の中で、何か核となるものを追い求めて、情熱的に怒りを持つべきなんじゃないかと。それと同時に愛情というものをどんどん感じてくる歳でもありますので、見返りを求めない愛情というものを色んな方と共有出来たら良いなとも思えるようになってきました。やっぱり人間っていうのは、子供がそうであるように愛情がある方にしか進まない生き物ですから。ビジネスと夢とが混沌とする世の中ですが、それでも誰かの幸せを自分の幸せと思えるように生きていきたいですし、自分の職業とも向き合っていければいいなと思います」

愛情の大切さを唱えるということだが、市原さん自身もプライベートでは結婚し家族を持っているが、そのことも自身の考えに大きな影響を与えている。

「涙もろくなったり、ものの有難さ、新しく生まれた愛情に対して、それを大切に育んでいく──それは身内に対してだけじゃなくて、すべての方に対して思うようになってきました。僕の父がすごく厳しく、極端な言い方をすれば『お前は寝るな。寝る間があるんだったら、人の10倍努力しろ』って感じの人だったんです。でも、普段はすごく優しく、母に対しても“いつもありがとう”とか“愛しているよ”って言葉にしていて、とても人間臭い人柄であったんですが、気が付いたら自分も同じような考え方をもっていると感じています」

最後に、これから挑戦したいことを訊いてみた。

「バイクでアメリカを横断したいです。50年くらい前のカワサキZ1というのが愛機なんですが、今、エンジンをカスタマイズしていて、その新しいエンジンを載せて横断をしたいと思っています。元々、旅が好きなんです。行った先々で色んな経験をしたり価値観に触れてみたいんです。俳優はすべてを受け止めなければいけない職業だと思うので、善も悪も隔たりなく見てみたいんです。生きているうちにやれることは全部やっておきたいと」

そう語る市原さんの笑顔からは少年のような無邪気さと明るさが感じられた。

市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。小学5年生の時にスカウトされ芸能界に入る。2001年、映画『リリイ・シュシュのすべて』で主演を務める。2004年、ドラマ『ウォーターボーイズ2』で連ドラ初主演を果たし、同年に公開された映画『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近作にはドラマ『正直不動産』シリーズ、や舞台『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』がある。近年は写真家としても活動している。6月~は主演作品・WOWOWにて『ダブルチートseason2』の放送開始。

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