優秀な人には転職オファー殺到…空前の“売り手市場”を活かして「待遇アップ」を実現する方法【人材紹介のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

転職活動が一般的になり、空前の売り手市場にもなりつつある近年の日本。優秀な人物であれば、多数のオファーが殺到することもめずらしくありません。東京エグゼクティブ・サーチの代表取締役社長・福留拓人氏曰く、今は転職活動者が有利に条件を交渉することもできるようです。そこで本記事では、最新の「採用側」の実情と転職を有利にするコツについて解説します。

人手不足が加速し、売り手有利の傾向はますます顕著に

月日の経つのは早いもので、すでに今期も上半期が過ぎようとしています。近来まれに見る売り手市場となった転職市場の状況も、翳りを見せるどころか、ますます売り手有利の傾向が強くなっています。

最近では、ある学者が「東京一極集中により日本全体の人口が減少する可能性がある」と発表して議論が巻き起こっているようです。日本全体の人口が減少すれば、さらに人手不足に拍車がかかることになります。

民間企業も、少子化の進行が及ぼすゆがんだ労働人口の現実に直面しつつあります。企業存続の深刻な懸念として、誰もがこの問題を意識するようになってきました。

そうした状況のなかで、求職者が真剣に転職を決意し実際に転職活動を行うにあたって、すこし上手なやりかたが見えはじめ、中途採用のトレンドに変化が出てきているようなので、本日はその点をご紹介してみたいと思います。

「優秀な人物」に多数のオファーが行くのが当たり前の時代

このコラムの大前提でもありますが、候補者本人が優秀であること、これは古今東西、色あせてはならない原則です。もちろん時代が変化しても変わるものではありません。言い換えると、日本経済の衰えが顕著で「企業は優秀な人物でないと高いフィーを払って迎える余力がなくなってきている」と言っても過言ではないでしょう。

最近は特定の優秀な人物が活動をすればするほど、そこに多くのオファーが殺到するというのが当たり前の状況になってきました。

昔は転職活動といっても、中途採用において同時に多くの企業の選考を受けるということは一般的ではありませんでした。選考回数が決して多くないのは、今も昔も変わらないのですが、やはり道義的な問題があったのかもしれません。

私が考えるに、面接の日時調整自体が困難であったということもあるでしょう。終業後に訪問できるといっても時間の兼ね合いが難しく、それほど多くの会社は受けたくても受けられなかったということもあるはずです。

ところが、最近ではZOOMなどに代表されるWeb会議ツールを使い、オンラインで中途採用の選考が行われることも一般的になってきました。わざわざ企業に足を運ばなくとも選考を受けられるようになり、多くの企業を受けやすくなったということも、もしかしたらトレンドの変化に影響を与えているかもしれません。

多くの選考を受け、多くのオファーを獲得しておく

このように多くの選考を受けることで、特定の人にオファーが殺到する時代です。そのなかで企業はオファーに妥協をしないため、結果的に特定の人物にオファーが片寄るということになります。

私どもTESCOで統計を比較してみたのですが、10年前は一般的な中途採用の面接の同時進行数は3社から5社程度でした。そしてオファーまで行き着くのはせいぜい1社か2社でした。すなわち、かなり選択肢が狭い状況で判断をしていたと考えられます。

ところが最近ではこの数が倍くらいに増えていて、選考数10、オファー5というようなケースがよく見受けられるようになりました。まるで定期採用(新卒)の状況に近くなってきているともいえます。定期採用は一定期間しか就職活動をしないので、優秀な人物が受ければ受けるほどオファーが殺到することになりますが、現在の中途採用はこれに似てきています。

ということは、候補者は従来のように「まず本命」でなくとも自分の市場評価を客観的に把握し、正確な評価を受け取り、それが可視化された状態で証明できる状況にしていくことができます。よって数社のオファーを獲得しておくというのが非常に大事になり、これが後に有利に働きます。

オファーを受けてどの程度の条件を提示されたかという明確な事実をもって、活動序盤にいわば「当て馬」のような企業を抱えておけばよいということになります。その企業が自分の本命でなくとも、こうした当て馬的な企業からの有利なオファー面談を消化して、返事は保留しておくのです。

そして、その条件をベースに活動の中盤から後半にかけて自分の本命である「本当に行きたい企業」が絞られてくるでしょうから、そこにも既存のオファーの条件をぶつけて、より希望に近づける有利な交渉に活かすわけです。

「当て馬」に続いて失礼な表現かもしれませんが「ダシ」にする企業を作る手法が一般的になりました。それだけ候補者が賢くなってきているといえるのではないでしょうか。

売り手市場をうまく活かし、待遇向上を狙う

昔はこういうことをすると、まるで不正に手を染めたかのように言われ、企業側に評価を下げられかねなかったのですが、今はご存知のように売り手市場の状態であり、企業はその人物を失ってしまえばその替えになる人材がいつ現れるか確証がない時代です。買い手である企業は、ある程度候補者の言い分を聞かざるを得なくなっています。

そのため、求職者サイドから転職市場を見ると、従来のように焦る必要がなくなりました。自分を高く評価してくれるオファーを取りつけておいて、そのオファーレターを片手に握りしめ、優先順位の高い企業に行けば「他社からこういう条件が出ているのでこれ以上の待遇を希望します」というような交渉を仕掛けることができます。

そうするととても有利に転職活動が進みますから、求職者のみなさまはこのようなテクニカルなアプローチもぜひ身につけておいてはいかがでしょうか。

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長

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