「自動運転車」による事故、責任を負うのは「ユーザー」か「メーカー開発者」か…弁護士が指摘する“最大の課題”とは

道交法条文の可読化の必要などを語る髙橋弁護士(5月23日 霞が関/榎園哲哉)

近い将来に訪れる自動運転車の普及を見据えた「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ」(デジタル庁所管)の最終回となる第6回会合が5月23日、オンラインで開催された。

同日、ワーキンググループの構成員を務める髙橋正人弁護士が東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き、道路交通法改正の必要性などを示した取りまとめ案について説明を行った。

デジタル行財政改革の“一環”として検討される

デジタル庁のデジタル行財政改革会議(議長・河野太郎デジタル相)の下に昨年12月、有識者らによるサブワーキンググループが発足。AI(Artificial Intelligence、人工知能)が“運転”する自動運転車が事故を起こした際の法的責任のあり方等について会合が重ねられてきた。

警察庁統計によると、道路交通事故(人身事故)の令和4年の死者数は2610人。国を挙げた交通安全対策により年々その数は減少、過去最悪だった昭和45年の1万6765人からおよそ6分の1となったが、それでも事故によって尊い命が失われ続けていることに変わりはない。

交通事故被害者支援にも長年携わる髙橋弁護士は会見で、「自動運転車によって(交通)事故が劇的に減ることは明らかで、(完全)自動運転は必ず実現してほしい」と強調。一方で「科学(テクノロジー)の発展は十分ではない。必ず間違いはある。自動運転の科学がどれほど進んでも事故は完全にはなくならない」として、自動運転車による事故を想定した法整備等の必要性を語った。

事故が起きた時に誰が責任を負うのか?

自動運転車の“進化”の課程は、レベル1=フットオフ(アクセルペダル、ブレーキペダルから足を離していい)、同2=ハンドオフ(ハンドルなどから手も離していい)、同3=頭(思考)も離していい(スマホなどを見ていてもいい)、同4=無人(特定地域のみで運転できる)、同5=無人(どこでも運転していい)の5段階に分けられる。日本では現在、高速道路など一定の条件下であればレベル3までの自動運転車が走行可能になっている。

髙橋弁護士によれば、レベル4・5の“無人運転”で事故が起きた際に、「誰が責任を問うのか」が大きな問題になってくる。レベル3の場合も、たとえば高速道路などで手動運転から自動運転に切り替えていた際は、レベル4・5に準ずるという。

無人運転で事故が起きた場合の刑事責任については、現行法上で考えれば「運転していることが前提の過失運転致死罪等にはならず、業務上過失致死罪になる」と指摘。そして、自動運転車を開発し、運転のプログラムを作るときに、「プログラムに欠陥があったか、道交法に順守しないようなプログラムになっていなかったか」が大きなポイントになると解説する。

これまで開かれたサブワーキンググループの検討会では、「メーカーの開発担当者の意欲をそいではだめだ」という意見もあった。事故が起きた際に開発者が責任を取ることになれば、開発意欲が失われ、国際競争力も劣っていく。一方で、「プログラムのミスで事故が起きても誰も責任を負わないように」という意見に対しては、交通事故被害者らを中心に「とんでもない」という反対の声も上がった。

自動運転車が事故を起こした際の責任の所在について、現状の政府検討取りまとめ案では、次の二通りに大別して想定されているという。

①自動運転車が道交法を順守していないときは、メーカー等は原則として刑事責任(業務上過失致死傷罪)を負う。ただ、その時々の交通環境による「事案に応じて」責任を負わないこともある。

②自動運転車が道交法を順守していたときは、メーカー等は原則として刑事責任(同上)を負わない。ただ、その時々の交通環境による「事案に応じて」責任を負うこともある。

これに対し髙橋弁護士は「自動運転車のプログラム(システム)が道交法を順守しているかを誰が判断するのか」と指摘。技術者など専門家らによる独立した調査委員会をたとえば国交省の中などに設け、その判断を司法機関が尊重することが求められるという。

「自動運転システムに道交法をどう読み込ませるか」

また、前述した二通りの例外にあたる「(各ケースの)事案に応じて」予見可能性・結果回避義務違反等がなかったかも大きな課題となる。

「特に事故が多発する信号機のない横断歩道で、小学生などが飛び出してくる可能性や電信柱の陰に小さい子が潜んでいる可能性も考え、『停止することができるような速度』で進行する。しかし、こうした状況を自動運転車にシステム化できるのか」

髙橋弁護士は上記のように、道交法第38条「横断歩道等における歩行者等の優先」の例を挙げて説明。自動運転車の存在を想定していなかった昭和35年6月に公布された道交法の改正も求めた。

さらに、プログラミングしやすいようにたとえば横断歩道で歩行者等が「いないことが明らかな場合」に当たらない場合(横断歩道の入り口に塀等がありその陰から歩行者等の横断が予想される、など)を“可読化”(具体的に文章化)し、政令等に落とし込む(書き込む)必要性も語った。

「自動運転システムに道交法をどう読み込ませるか。これが今後の最大の課題になってくるだろう」(髙橋弁護士)

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