マスコミ報道がもたらす被害とメリット 2001年池田小事件遺族が“メディア対応リーフレット”に込めた思い

事件現場となった小学校。23年を経て、被害者が思いを一つの形にした(けいわい / PIXTA)

2001年6月、突然校内に侵入した男が児童8名を刃物で殺害し、教員を含む15名の負傷者を出した大阪教育大学付属池田小学校事件――。当時、メディアで大きく報じられたこの報道の裏で、被害者家族が“二次被害”に苦しんでいた。

事件で長女麻希(当時7歳の)さんを失った酒井肇さん(62)、妻の智恵さん(63)夫婦は、押しかける報道陣の傍若無人な対応に苦悶(くもん)し、メディアに対する憎悪を募らせていたという。

生活基盤や人間観関係を破壊する「報道被害」

「(池田小事件の)被害者遺族の方の中にはご遺体が自宅に帰ってくるときにメディアが表玄関で待ち構えていたため、〝隠れるようにして裏口から入らざるを得なかった〟という方や夜になっても外からテレビカメラのライトが煌々(こうこう)と焚かれ〝窓も開けられなかった〟という方もいました」

こう明かすのは、犯罪被害者、遺族の支援を長年続けている大阪被害者支援アドボガシーセンターの木村弘子事務局長だ。

被害者も加害者も関係なく、取材対象の日常に土足で踏み入り、その生活基盤や人間関係を破壊する、こうした「報道被害」は、問題とされることはあっても、絶えることがないのが実状だ。

報道による”被害”とメリットを記載

今回、酒井夫婦は犯罪被害者、遺族の支援を長年続けている大阪被害者支援アドボガシーセンターと協力し、自らが体験した報道による〝被害〟と〝メリット〟についてまとめたリーフレットを作成した。二度と同じ思いをする人が出ないようにという思いからだ。

リーフレットには取材を受けた際のメディアの姿勢やメリットなどが記されている。あくまでも「(リーフレットは)箇条書きのようなもので実際に相談に来られた方へ提示し、個別具体的に追加説明する際に使用するもの」(木村事務局長)というが、メディアの実体や対応ノウハウなど知る由もない相談者にとっては心強く、貴重な情報となる。

記載内容は、酒井さんご夫婦が実際に受けた被害体験や事件後に酒井さん夫婦が渡米し、アメリカの被害者遺族らとの面談時の話や文献を参考に、協議を重ねてつくり上げた。

「例えば、普段メディア関わることのない一般の人は、ある日突然、事件に巻き込まれ、押し掛けたマスコミ対して〝絶対に取材を受けなければならない〟〝聞かれたことにはすべて答えなければならない〟などと思われがちなんです。ですが、必ずしも(断る権利もあり)そうではないんだよ、ということが書かれています」(同前)

こうした報道陣とのスタンスの取り方のほか、リーフレットには報道されることによって得られる〝メリットについても触れられている〟と木村氏が続ける。

「取材を受け、報道されることによって〝正確な報道をしてもらえる〟。また、メディアと接点を持つことによって情報が得られるなどのメリットについても書かれています。相談に訪れた方にお渡しして、参考の一助となればと思います」

31日には夫婦が会見の予定

報道被害があってはならないのは大前提だ。だが、取材を受ける側にリテラシーを高める情報や機会が圧倒的に不足している実状もある。

事件から23年を経て生まれた、当事者による“報道被害軽減リーフレット”。そこには二重の被害に苦しんだ被害者の、重く、有用なメッセージが詰め込まれている。

なお、酒井さん夫婦は、5月31日に大阪・天王寺区の大阪府夕陽丘庁舎で記者会見(15時~)を予定している。

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