【韓国ドラマ】Netflix『涙の女王』はロマンス以外にも見どころ満載!都会vs田舎の痛快なコントラスト、財閥一家 vs 農村一家の奇妙な共同生活

慶尚北道の醴泉駅前で見かけたシュポ(スーパー)

Netflix人気配信ドラマ『涙の女王』は、ヒョヌ(キム・スヒョン)とヘイン(キム・ジウォン)の格差婚から始まるラブストーリーだけでなく、田舎の農村一家(ファン・ヨンヒ、チョン・ベス、チャン・ユンジュ、キム・ドヒョンなど)と、都会の財閥一家(チョン・ジニョン、ナ・ヨンヒ、キム・ジョンナン、クァク・ドンヨンなど)のコントラストも見ものだ。

今回は、その中から印象的な見せ場をいくつか紹介しよう。(以下、一部ネタバレを含みます)

■『涙の女王』全羅南道出身の母は強し

『涙の女王』第1話の冒頭、農道でヒョヌの父(チョン・ベス)が村人に言う。

「ウチの女房は全羅道・筏橋(ポルギョ)の干潟で耕運機を操り、イイダコを獲っていた女なんだ。すごいだろ!」

村長も務める彼は、次の選挙での再選を目論み、村人たちに好印象を与えるのに忙しいが、それに対してヒョヌの母が言う。

「果樹園やシュポの仕事で忙しいのに何が再選だ? 村長なんか辞めちまいな!」

ひと昔前まで貧しい地域だった全羅南道出身の母は生活力があり、体面より目の前の稼ぎを優先する。このシーンを見ただけで、ヒョヌの母が物語のキーパーソンであることがわかった。案の定、ドラマの終盤で、彼女は財閥一家と農村一家の架け橋のような役割を果たすことになる。

ヒョヌの母は写真のようなニンニクを振り上げ、だらしない長男に説教した

■田舎らしさを演出する小道具、スーパーと美容室

第1話には、ヘインとヒョヌの格差婚を象徴するものとして、ソウルのデパートと地方のスーパーマーケットが登場した。

韓国の商業施設は規模の大きい順に、百貨店(デパート)、マート、スーパーのように分類できるが、個人経営の小さな食料雑貨店をスーパー(韓国的発音ではシュポ)とかマートと呼ぶ人も多い。ドラマに登場したような瓦屋根のシュポは都会ではなかなか見られなくなったが、ソウル鐘路3街の益善洞辺りではまだ見ることができる。

シュポとともに田舎ムードの醸成に一役買っていたのが、ヒョヌの姉(チャン・ユンジュ)が経営する美容室だ。

田舎を舞台にした多くの映画やドラマに、頭にカーラーを着けた中高年女性たちが姦しくおしゃべりする場面が出てくる。美容室は村のニュースが拡散される場なので、物語を展開させるシーンによく登場するのだ。

忠清南道の江景で見かけた美容室

■都落ちした財閥副会長をホッとさせたマッコリ

第9話に、ヒョヌの父(チョン・ベス)とクイーンズ財閥副会長(チョン・ジニョン)が、田園風景をバックにあずまやでマッコリを飲むシーンがあった。 つまみはザルに乗ったパジョン(ネギのチヂミ)、魚の干物、ピーナッツなど。

「午前中の野良仕事を終えて、ここでマッコリを飲むのが最高なんですよ」

ヒョヌの父は副会長にあれこれ気をつかい、マッコリをすすめるが、副会長の表情はさえない。汗水流して働いている者とモノやカネを右から左に動かして稼いでいる者の残酷な対比である。

しかし、乾杯のあと副会長がマッコリを一気に飲み干し、「あ~っ」と気持ちよさそうな声を上げたことでその場は和む。二代目経営者らしく本来は争いごとが嫌いな副会長が素に戻れた瞬間だ。

筆者が慶尚北道・醴泉郡の酒場で飲んだマッコリとパジョン
全羅南道の蓋島(ケド)で見かけたあずまや

■『涙の女王』財閥一家と農村一家の関係をフラットにした庭の縁台

『涙の女王』でもっとも美しかったのは、第9話で財閥一家と農村一家が庭の縁台でいっしょに食事した場面だろう。

縁台は韓国語で「ビョンサン」。屋外で飲み食いしたり、休憩したり、農作物を干したり、キムチを漬けたりするときに使われる。ソウルなど都会ではなかなか見られなくなったが、下町や郊外のシュポの前でたまに見ることができる。

ヒョヌの母の手料理が並べられた縁台で会食が始まったが、都落ちした財閥一家は意気消沈しているし、それを受け入れなければならない農村一家もなかなかリラックスできない。
しかし、副会長がテンジャンチゲをすすって、心から「おいしいです」と言うと雰囲気は和む。そのあと、

ヘインの弟(クァク・ドンヨン)が空気を読まず、「食欲がない」とか「ミネラルウォーターがほしい」と言って場を白けさせるが、縁台での会食は二つの家族の距離を縮めるのに必要な儀式だった。

その後も、縁台は二つの家族の交流の場として何度か登場する。縁台はその形状通り、フラットな人間関係を醸成する場なのだ。

後半は、財閥一家と農村一家の対比が物語の核になった『涙の女王』だが、結局、干潟で膝まで泥につかって働いていたヒョヌの母を筆頭とする農村一家の完全勝利だったところが痛快だった。地に足が着いた者たちの面目が躍如としたのだ。

田舎に行くとバスターミナルの待合室に縁台が置いてあることも

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