米SB「BRAND-LED CULTURE CHANGE」開催(1) リジェネラティブ農業を実践する企業らが教訓を共有

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米サステナブル・ブランドは5月8~10日、ミネソタ州ミネアポリスでカンファレンス「SB Brand-Led Culture Change(ブランドが主導する消費文化の変革)」を開催した。リジェネラティブで豊かな社会を築くための消費行動を育む“文化”の醸成をブランドが率先することを目指して開かれたカンファレンスだ。9日には、第2回リジェネラティブ農業(環境再生型農業)サミットが開かれ、企業をはじめとするさまざまな分野の登壇者が、リジェネラティブ農業を推進するための最新の知見やイノベーションを共有した。(翻訳・編集=小松はるか)

リジェネラティブ農業をマーケティングに役立てるには

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リジェネラティブな農業や製品を認証する第3者機関リジェニファイド(テキサス)。同社のチーフ・マーケティング・オフィサーであるクリスティン・ルート氏がモデレーターを務めたセッションでは、米国で放牧卵やバターを生産するバイタル・ファームズの歩みと、同社の卵がどのようにオーガニック食品スーパー「ホールフーズ」で、2023年に最も売れた製品になったのかが取り上げられた。

インパクト兼ESG担当のアンドレア・チュウ氏は、バイタル・ファームズがサプライチェーンや農家との関係を設計するにあたって、どのような考え方をしてきたのかを説明した。

「当社ではサプライチェーンを意図的に短くしています。私たちは農家と直接的関係を築きたいと考えています。だからこそ、よりリジェネラティブな農業に向けて前進するべく連携できるのです。非常に重要なことは、リスクを背負ってくれている農家の人たちにプレミアム(割増金)を支払っているということです。農家が成功できるよう投資を続けているから、その農家の卵を売り続けることができるのです」

バイタル・ファームズの4つの農場はリジェニファイドから認証を受けている。リジェニファイドでチーフ・サイエンティストを務めるダグ・ピーターソン氏は、水循環の重要性、水循環がもたらす気候変動への影響について強調しながら、リジェネラティブ農業を導入することで農家が得られる恩恵について語った。「植物を冷まし、蒸発させないようにするために、土壌に炭素が必要です。植物を通して水が放出される正しい方法で管理することが重要になります」。ピーターソン氏によると、リジェネラティブ農業を実践する農家では、浸水や水分蒸発が少ないという。

プレミアム価格にも関わらず、バイタル・ファームズの卵は、ホールフーズの販売予想を上回る売上高を記録している。チュウ氏はパッケージデザインも売上高に貢献しているという。「花や植物をパックに描いています。消費者は生物多様性を感じられるデザインに強い関心を寄せています」。また、同社がリジェネラティブ農業について消費者が学べるように、バイタル・タイムズ(ニュース記事を模した農場に関する記事)や「今月の雌鶏」特集といった、メッセージ付きのパッケージを採用していることも説明した。

大豆はどのように経済を活性化し、ブランド価値を高めているのか

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大豆に関する教育的セッションでは、ユナイテッド・ソイビーン・ボード(ミズーリ)でヴァイスプレジデントを務めるマック・マーシャル氏が、大豆が今日、多くの製品に使われるようになっていることについて紹介した。同氏は、枝豆や豆腐、しょうゆ、乳児用調製粉乳などの一般的なBtoC向けの活用方法のほかに、家畜の餌や再生航空燃料、再生可能ディーゼルの主成分として使われていることなど、あまり知られていないBtoB向けの活用法についても紹介した。

「私たちは経済を活性化させるエネルギーを求めています。ただし、採掘技術に頼らないものをです」

マーシャル氏は、セッションのある朝に大豆農場の見学に参加した会場の参加者に感謝を伝えた。さらに、ブランドやコミュニケーションの専門家が自社の製品に使っている原料を生産する農場を訪ねることが必要であると強調した。

「農場を訪ねることは、サプライチェーンの川下にいる企業・ブランドがどんなことができるかを理解する上で非常に重要です。つまり自社は何ができるのかを理解することでもあり、そのすべてが基本的に農家の取り組みに基づいているのです」

リジェネラティブ調達を数値化することで商品価値を高めるには

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調査会社ハウ・グッド(ニューヨーク)の成長兼イノベーションの責任者クリスティーナ・ランパート氏は、リジェネラティブ調達のインパクトを測定するために、生産者やサプライヤー、製造者とどのように連携しているかについて概要を説明した。

ランパート氏は、あらゆるデータがGHGプロトコルに適合していることを保証することや、自社の産業に最適なデータプロバイダーを選択するなどの成功事例を共有した。さらに、企業・ブランドが多様なステークホルダーを巻き込み、またリジェネラティブ調達がどのように価値を生み出すかを伝えるために、ハウ・グッドのデータをどう活用しているかについて、数々の事例(ESGレポート、IR、カーボンフットプリント、ロイヤルティプログラムなど)を紹介した。

ランパート氏は最後に、同社のSaaSプラットフォームがインパクト評価スコアを通じて提供しているデータ事例(特定製品のCO2排出量と全製品の平均排出量の比較、農場の水の使用量、土地利用、土壌の健全性、生物多様性、アニマルウェルフェアなどの測定基準をはじめとするサステナビリティ関連情報)を共有してセッションを締めくくった。

コットンの社会・環境的なレジリエンスを確保するには

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リジェネラティブ農業サミットは、コットンをテーマにした有益なセッションで幕を閉じた。カーネーション・ファームズ(ワシントン)の専務取締役ポール・シューメーカー氏が司会を務めたセッションでは、気候変動、水不足、記録的な気温など、コットン産業の未来にとっての最大の脅威と、国際紛争や政治不安といった不明白な脅威に関する議論から始まった。

フォーラム・フォー・ザ・フューチャーの米国オフィスで責任者を務めるサマンサ・ヴェイド氏は、リジェネラティブ・コットンの新しい事業モデルを実証実験する、同組織の取り組みについて紹介した。この取り組みには、リジェネラティブ農業の実践に関心のある黒人農家と連携する西テキサスでの試験的取り組みも含まれている。

ヴェイド氏は、リジェネラティブ農業の定義において、社会的考慮を含めることの重要性を強調した。「リジェネラティブ農業に関する議論に人々を引き戻すことが重要です。土壌への環境的インパクトに目を向けるということです。しかし同時に、コットンを収穫する人々、最大の財務リスクを背負う農家の生活の質に、目を向けることも重要なのです」。

最後に、ヴェイド氏はリジェネラティブな考え方に転換するための5つのアドバイスを紹介した。

1. 何をするかだけではなく、どのようにするのかに重点を置く
2. 問題ではなく可能性から始める
3. 事業運営の背景に配慮する
4. 歴史や実体験を重視する
5. 参加型アプローチを徹底的に取り入れる

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