【アーヤ藍 コラム】第8回 ごみが行き着く先への責任と創造

社会課題への関心をより深く長く“サステナブル”なものにする鍵は「自ら出会い、心が動くこと」。そんな「出会える機会」や「心のひだに触れるもの」になるような映画や書籍等を紹介する本コラム。

5月30日は「ごみゼロ」の日。皆さんのお住まいの地域では、どんなごみが燃やされ、どんなごみがリサイクルされていますか? 企業にお勤めの方はオフィスのごみの行方をご存知ですか?

以前の私は、集積場に出した後の「ごみのその後」まで意識していませんでした。変わってきたのは、映画を通じてさまざまな環境問題の実情を知ってから。そしてゼロ・ウェイストに取り組む上勝町(徳島県)の冊子制作に携わらせてもらったことで、そもそも物を買う段階から「これって処分する時どうなる?」と想像することが増えました。

数年前に石垣島で暮らし始めてからは、さらにごみが気になるようになりました。人口もそこまで多くないうえ、本州からはるかに遠いこの島で出たごみはどこへ行くのだろうと……。調べてみたら、現在ある埋立地は数年で満杯になるため、かさ上げをして延命するとありました。埋立場所を広げるなどしていけば、数十年ずつ延命することはできるでしょう。でもそれで「じゃあ安心だ」とは、きっと皆さんも思わないだろうと思います。

ごみ。私たちが毎日何かしら出している日常的なものなのに、ブラックホールのように、知らない、分からないことが多くないでしょうか。そんなブラックホールの奥の方まで確かめに行ったのが、ドキュメンタリー映画『リサイクルの幻想』です。タイトルがすべてを物語っていますが(笑)、ごみ、特にプラスチックごみを資源循環させる取り組みを複数取材し、「本当に資源を活かせているの?」と実態に迫っていく作品です。

映画『リサイクルの幻想』

世界中から廃プラスチックの処分を受け入れていた中国が輸入を禁じた際には、日本でもメディア等で話題になりましたが、廃プラスチックの量を大幅に減らすことはできず、結局行き先が変わっただけ。中国から南アジア諸国へ受け入れ国が移り、それらの国でも規制が厳しくなると、今度はトルコ、さらにはEU最貧国のブルガリアへと移っていきます。映画で語られている説明によれば、トルコやブルガリアも規制はありますが、それをかいくぐった「闇取引」が存在し、違法な埋め立て処分や焼却処分がされているのです。

闇取引された廃プラスチックの中に、「どんなものもリサイクル可能!」と掲げる某有名リサイクル企業から送られてきたものも見つかり、グリーンウォッシュではないかと監督は訴えていきます。

本作を見ていると、いかに、ごみという厄介者を世界中でたらい回しにし、押しつけ合っているかを感じます。同時に、規制するだけではいたちごっこになるであろうということも……。

ただ、「ウォッシュをする企業がいけないんだ!」と言えるかといったら、私は躊躇(ちゅうちょ)します。読者の皆さんもおそらく「リサイクル100%を掲げる企業が、実際にはちゃんとリサイクルをしていなかった!」と聞いても、おそらくそこまで驚かないのではないかと思います。

私たち消費者もどこかで分かっているのです。「生分解性」「リサイクルできる」「環境負荷が小さい」といった言葉がついているからといって、環境への影響がゼロであるはずはないことを。でも、そうした言葉によって消費する罪悪感を減らしているのは、私たち消費者側も同じではないでしょうか。

映画『リサイクルの幻想』
映画『リサイクルの幻想』

グリーンウォッシュをテーマにしたトークイベントを開催したとき、ゲストの方がこんな話をしていました。「ポジティブなことばかりを発信しようとするからウォッシュが起きてしまう。『現時点でこれはできているけれど、ここはまだ課題として存在している』などと、一見ネガティブに思えることもオープンに語っていった方が、これからの時代、消費者の信頼を得ていけるはずだ」と。

この言葉に私はとても納得したのと同時に、企業がオープンにする負の側面に対して、企業だけに責任を押し付けるのではなく、商品を介してつながっている消費者の私たちも、地球に負荷をかけている責任を一緒に背負っていく気持ちが大事なのではないかと思います。

環境負荷をかけてしまっているという事実と向き合い、その責任を背負いながらも、「何ができるか?」を探求し続けた先に生まれる、パワーや可能性を魅せてくれる作品があります。ドキュメンタリー映画『燃えるドレスを紡いで』。パリのオートクチュール・コレクションに日本から唯一参加し続けている「YUIMA NAKAZATO」のデザイナー・中里唯馬氏に密着したドキュメンタリー映画です。

中里氏は一貫して、大量生産ではなく一人一人の個性を尊重した服づくりと、環境負荷を減らした服づくりにこだわり、その道を探求してきました。オーガニックコットンや天然素材のレースなど、昔からある環境負荷が小さい素材を使用するのに加え、プログラミングして3Dニッティングマシーンで生産することにより、生産時のロスを最小限にしたり、パズルのようなピースを組み合わせて服を作ることにより、劣化しやすい部分だけを交換できるようにするなど、新しい技術や手法も開拓し続けています。

映画『燃えるドレスを紡いで』

そんな中里氏が「衣服の最終到着点を見たい」と、世界中の不要になった服が集まるアフリカのケニアを訪れます。ケニアでもかつては繊維産業が盛んでしたが、世界中から低品質の売れ残った衣服が押し寄せたことにより衰退してしまったと言います。衣服によってできているごみの山に対峙し、そこに暮らす人たちに「もう服を作らないでくれ」と言われた中里氏は、「何が正しくて何が正しくないのか、訳が分からなくなってしまった」と言葉を失います。

映画『燃えるドレスを紡いで』

ファッション業界は、人の物欲を刺激することにより成り立っている産業であるという事実と、それが生み出している大きな問題を見つめた上で、中里氏は「最終到着地点」にあった衣服を使った新しいファッションを模索していきます。それは同時に、ケニアで感じた「人が装うことの根源的な意味」を探求していくプロセスでもありました。

そうして生まれ変わった衣服たちの姿を映画で目にした時、私は生まれて初めてファッションショーで涙が溢れました。そこに願いのような、祈りのようなものを強く感じたからだと思います。

ごみ問題や環境問題と向き合おうとすると未来が見えず暗い気持ちになったり、自分がその原因の一端を担っていることに苦しさを感じたりしやすいものです。でも本作を観ていると、人間には創造する力や表現する力があるのだと希望を感じます。その力を信じて、自分ができることを人生の時間を使って探求し続けていく。そこには苦しさ以上の「ゆたかさ」があるのだと、きっと背中を押されるはずです。

▼映画『リサイクルの幻想』 (2021年製作/46分/ドイツ)
アジアンドキュメンタリーズで配信中
https://asiandocs.co.jp/contents/1367

▼映画 『燃えるドレスを紡いで』 (2023年製作/89分/日本)
全国順次公開中
https://dust-to-dust.jp/

アーヤ 藍(あーや・あい)

1990年生。慶応義塾大学総合政策学部卒業。在学中、農業、討論型世論調査、アラブイスラーム圏の地域研究など、計5つのゼミに所属しながら学ぶ。在学中に訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になったことをきっかけに、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を手がけるユナイテッドピープル会社に入社。約3年間、環境問題や人権問題など、社会的イシューをテーマとした映画の配給・宣伝に携わる。同社取締役副社長も務める。2018年より独立し、社会問題に関わる映画イベントの企画運営や記事執筆等で活動中。2020年より大丸有SDGs映画祭アンバサダーも務める。
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