羊羹と水羊羹は何が違う? 老舗和菓子店が教える違いは「水分量」

一年中食べられる定番の羊羹【写真提供:株式会社田子の月】

夏になると、和菓子店で見かけるようになる水羊羹。ひんやりとした、のど越しの良さは暑い夏に涼を与えてくれますが、一年中ある羊羹と季節限定の水羊羹は何が異なるのでしょうか。静岡県富士市で老舗和菓子店・田子の月を営む望月洋平さんに、詳しい話を伺いました。

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水羊羹は夏にしか作れないわけではなかった 冬に食べる地域も

つるんとした食感がおいしい水羊羹。夏の風物詩として店頭に並ぶことが多いですが、一年中食べられる羊羹とは何が違うのでしょうか。

「一番の違いは水分量です」

そう教えてくれたのは、田子の月の望月さん。羊羹の主な材料は、砂糖、小豆やインゲンマメなどの豆類、水飴、寒天です。寒天と水を沸騰させ、砂糖を投入。そこに煮た豆の身の部分を絞って作った生餡を入れて、好みの固さになるまで練り、煮詰めて、型に流し入れて作られます。

一方の水羊羹は、主な材料は羊羹と同じですが、水を多く入れて煮詰めずに作ったもの。水分が多い分、水羊羹のほうが糖度が低く、さっぱりとした味わいになるそうです。そのため、ひんやりとしたのど越しの良さは、暑い季節にぴったりです。

田子の月の季節のお菓子「水羊羹と抹茶水羊羹」【写真提供:株式会社田子の月】

水羊羹は夏限定の和菓子といった印象ですが、実は「夏にしか作れない理由はないんです」と望月さん。実際に、福井県では真冬に水羊羹を食べる風習があり、各店頭に水羊羹が並ぶそうです。しかし多くの地域では、水羊羹ののど越しの良さが人気となる夏に限定して作られているようです。

江戸時代に登場した寒天を材料にした和菓子とは

羊羹は、古くから日本人に親しまれてきた和菓子ですが、そもそもいつ頃から作られるようになったのでしょうか。

「羊羹は、鎌倉時代の後期頃に中国大陸から伝わった、羊の肉で作った料理が起源だといわれています。しかし、当時の日本は肉食文化ではなかったため、小豆を肉に代用し、小麦粉やくず粉を混ぜ、蒸して固めて作っていたそうです。それが、江戸時代に寒天が登場したことで、現在の甘味に進化していきました」

また、羊羹や水羊羹の材料でもある寒天ですが、寒天を材料にした和菓子には寒天ゼリーもあります。その違いは味。寒天ゼリーを作る過程であんこを入れると、羊羹や水羊羹になるそうです。

寒天を材料に上生菓子として使われる錦玉羹(写真はイメージ)【写真:写真AC】

ほかにも、寒天は茶席などで使われる「寒氷(かんごおり)」や上生菓子の「錦玉羹(きんぎょくかん)」にも使われており、寒天の中に涼を閉じ込めた世界観は、暑い夏に涼しさを感じさせます。

今年の夏も暑くなりそうです。古くから日本人に親しまれてきた水羊羹などの和菓子で、つるんとおいしく涼を感じたいですね。

◇株式会社田子の月
富士山の麓、静岡県富士市に本社をかまえる老舗和菓子店。社名であり、看板商品である「御菓子庵 田子の月」は、小倉百人一首の和歌「田子の浦に うち出てみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ」(山部赤人)で知られる「田子の浦」(駿河湾西海岸を指す名称)の川面に映る月の美しさに感動したことから名づけられた。

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