日欧共同開発の観測衛星を打ち上げ 雲と気候の関係を探査へ

ジョナサン・エイモス、科学担当編集委員

日欧共同開発の高性能の観測衛星が29日、打ち上げられた。雲が気候にどう影響するのか測定する。

低層の雲は地球を冷やすことが知られている。一方、高い高度にある雲は毛布として機能する。

今回の観測衛星「アースケア」は、レーザーとレーダーを使って大気を探査し、このバランスがどこにあるかを正確に調べる。

これは、温室効果ガスの増加に気候がどう反応するかを予測するコンピュータモデルでの、大きな不確定要素の一つとなっている。

欧州中期予報センターのロビン・ホーガン博士は「私たちのモデルの多くは、将来的に雲の量が減ると示唆している。これは、太陽光のうち、雲によって宇宙へ反射される量が減り、地表で吸収される量が増えることを意味している。そのことは、二酸化炭素による温暖化が増すことにつながる」とBBCニュースに話した。

アースケアの重さは2.3トン。米スペースXのロケットで米カリフォルニア州から打ち上げられた。

このプロジェクトは欧州宇宙機関(ESA)が主導している。ESAがこれまで取り組んだ中で、最も複雑な地球観測の試みだという。

確かに、打ち上げた機器を狙いどおりに作動させる技術的チャレンジはとてつもなく大きい。今回のミッションは承認から打ち上げまで、たっぷり20年かかった。

アースケアは高度約400キロメートルで地球を周回する。

四つの観測機器を搭載しており、それらの機器は気候学者らが求める情報を得るため一体となって機能する。

最もシンプルなのはイメージャー(カメラ)だ。衛星の下の様子を撮影し、他の3機器による測定に意味を与える。

欧州で開発された紫外レーザーは、薄く高い雲と、より低い位置にある雲の最上部を捉える。また、雲の形成や動きに影響を与える大気中の小型の粒子や微粒子(エアロゾル)も検出する。

一方、日本が開発したレーダーは、雲を調べる。どれほどの水分を運び、それがどのようにして雨やひょう、雪として降るのか究明する。

さらに放射計が、太陽から地球に降り注ぐエネルギーのうちのどれくらいが、宇宙空間に反射や放射されているか観測する。

英国立地球観測センターのヘレン・ブリンドリー博士は「外に出て行く放射の量と、太陽から入ってくる量のバランスが、気候を根本的に動かしている」と話す。

「温室効果ガスの濃度を上げるなどしてそのバランスを変えると、入ってくるエネルギーに比べて出ていくエネルギーの量が減り、気候の温度が上がる」

アースケアのデータは、長期的な気候展望を得ることに加え、天気予報の改善にもすぐに利用できる。例えば、嵐がどのように発達するかは、数日前に衛星が観測した雲の初期状態が影響する。

アースケアの当初の科学コンセプトは、1993年に英レディング大学のアンソニー・イリングワース教授と同僚らが提唱した。

同教授は、観測衛星がついに飛ぶのを見るのは夢のようだと話した。「英国内外の献身的な科学者やエンジニアたちの素晴らしいチームと共に、長く困難な道のりを歩んできた。私たちは一致協力して、地球を理解する方法を変える本当に素晴らしいものを作り出した」。

技術的な難点の一つが、宇宙レーザーのLiDAR(ライダー、光検出と測距技術)だった。

開発したエアバス・フランスは、LiDARを真空の宇宙空間で確実に作動させるための設計にたどり着くまで、苦難の道のりを歩んだ。機器の根本的な再設定が必要となり、遅れが生じただけでなく、ミッションのコストが大きく膨らんだ。その額は現在の価値で約8億5000万ユーロ(約1500億円)とされる。

「これらのミッションは、安く早く、小さな問題を解決するためのものではない。アースケアがこれほど長い時間をかけているのは、私たちが絶対的な基準を追求しているからだ」。英宇宙局の地球観測責任者ベス・グリーナウェイ博士はそう言う。

アースケアがデータを収集する時間はそう長くはない。高度400キロを飛ぶということは、そこに残留する大気の抵抗を感じることになる。これは衛星を引き下げる効果がある。

「この観測衛星は3年分の燃料を積んでいて、さらに1年分の予備がある。基本的に、低軌道とそこでの抵抗によって寿命は限られる」とESAのマイケル・アイジンガー博士は話す。

アースケアの産業開発はエアバス・ドイツが主導し、衛星の基本的なシャーシ(構造)はイギリスで作られた。イギリスはまた、タレス・アレーニア・スペースUKが放射計を、サリー・サテライト・テクノロジーがイメージャーを、それぞれ供給した。GMV-UKはすべてのデータを処理する地上システムを整えた。

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙探査機などに愛称をつける慣例に今回も従い、衛星に「はくりゅう」(白竜)という呼び名を与えた。

日本の神話では、竜は水を司り空を飛ぶ古代の神々しい生き物とされる。今年は「辰年」でもある。

この愛称は衛星の外観にも関係がある。アースケアは白い断熱材で覆われており、長いソーラーパネルが尻尾のようにも見える。

JAXAの富田英一プロジェクトマネージャーは「アースケアは、宇宙へ昇る竜のように、私たちの未来を描く存在になるだろう」と話している。

(英語記事 Satellite to probe mystery of clouds and climate

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