【トヨタ クラウン スポーツRSでツーリング三昧】全シーンで歴代最高!まさに新たな領域に踏み出した開拓者だ

新生クラウンシリーズで、とくにスポーツ性能を高めたモデルが“スポーツ”である。今回はその中でもっとも走行性能を高めたPHEVの“RS”の実力を一般道、高速道路、ワインディングで検証してみた。(MotorMagazine 2024年6月号より)

クラウンスポーツは、既成概念を打ち壊す存在か?

純国産にこだわる開発姿勢を貫いた初の日本車ということが大きな特徴の初代クラウンの誕生は、実に70年近く前の1955年。そんな歴史の長さもあって日本車の中でも知名度の高さは随一だ。さらに、トヨタブランドの実質的フラッグシップの座を長年守り抜いてきたことから、「いつかはクラウン」という例の名キャッチコピーにも思わず納得という人も少なくないことだろう。

全長は4720mmで見た目の印象よりも長い。ホイールベースはクラウンシリーズで最も短い2770mmに抑えて旋回性を高めた。

一方で、こうして日本国内に的を絞りつつ歴史と伝統に支えられて来たモデルであるからこそ、最近はしがらみに縛られる傾向を感じられたこともしばしば。そこで、これまでの常識から一転してマーケットをグローバルへと拡大。ボディサイズやデザインも従来の殻を破り、まさに「名前以外はすべてが変わった!」と思わせるクルマづくりで我々を驚かせたのが最新モデルである。

まったく異なる4種類のボディをラインナップすることもまた「常識外れ」と紹介できそうな新型クラウンの中で、スポーツモデルをテーマにしたこの特集に相応しいのはもちろんその名も「スポーツ」を謳うモデル。歴代モデルを見慣れた目からは「えっ、これがクラウン!?」と感嘆の声をあげるしかないその姿は、4720mmの全長に対して全幅が1880mmという「らしくないディメンション」の採用があってこその表現力とも言えそう。インテリアの造形や色づかいも然りで、「名実ともに生まれ変わったこと」をもっとも明確に象徴するのがこの1台だろう。

「RS」のパワーユニットは「ダイナミックフォースエンジン」のひとつである直4エンジンに、前後にモーターを各1基ずつを組み合わせ、外部充電機能も付加したPHEVだ。

搭載する心臓部は、トヨタが誇るハイブリッドシステム。コアとなるエンジンは、直噴とポート噴射を併用するトヨタ独自の「D-4S」というメカニズムを用いた2.5L直4エンジンを組み合わせた「THSⅡ」で、前後2基のモーターを駆動する4WDシャシが標準のZグレード。

もう1種は同じシステム構成要素の中で前輪用モーターの出力と駆動用バッテリー容量を大幅に増強し、90kmと長いEV走行距離を謳うプラグインハイブリッド(PHEV)の「RS」である。

ここに採り上げるのは後者のRSで、765万円の車両本体価格はZの590万円に対すると175万円という小さくない差だ。

ただし、単にPHEV化が図られただけでなくモーター出力も異なればそれなりの装備差も存在する。その中でもフロントに鮮やかなレッドに彩られた対向6ピストンのアルミブレーキキャリパーという本格スポーツモデルにあっても稀な贅沢アイテムが奢られているのは、このモデルのキャラクターを象徴する重要なポイントとなっている。

新しい時代のクラウンだと強く感じさせる快適性と走り

そんなRSの走り出しの印象は、2トン超という車両重量が信じられないほどに軽快だ。モーター出力にゆとりがあるのでアクセルペダルを深く踏み込んでもエンジンは簡単には始動せず、その振る舞いはピュアなEVのそれに準じてどこまでも静かでスムーズ。

システム出力は306psというハイパワーなスポーティモデルだが、タイヤサイズは前後ともに235/45R21。また、燃料はレギュラーガソリンでWLTCモード燃費は20.3km/Lと経済性にも優れている。

大きなテールゲートを備えたモデルにありがちな低周波のドラミングノイズも皆無で、ファットで巨大なタイヤを履くゆえに覚悟をしていたロードノイズも想像よりずっと軽度だ。

荒れた路面にさしかかるとさすがにバネ下の重さを多少感じるが、ボディサイズや重量スペックから連想されるよりも身のこなしは総じて軽やかで、たとえスポーツモードを選択しても上質な乗り味をキープしながら連続するコーナーを無駄なボディの動きを伴わずに難なくクリアしていく「クラウンらしいたおやかさとクラウンらしからぬ高いスポーティネスの同居」を感じさせてくれる走りのテイストに「新時代のクラウン」を実感させられる。

インパネの造形はかなり斬新。運転席と助手席は明確にセパレートされている。

それでも「一体これのどこがクラウンなんだ?」という意見を抱く人は現れることだろう。しかし、新しいマーケットで新しい顧客層を開拓しようとなれば、この程度の〝ショック療法〟は必要だったという意見にも納得がいく。

306psというシステム総出力が生み出す絶対的な加速力は「怒涛の加速」といった過激さには至らないものの、スポーツカーの水準と評価できる程度の俊敏さは備えている。ただし、エンジンが加勢を始めたシーンで耳に届くサウンドの質だけは物足りない。

端的に言えば、4気筒らしいちょっと雑味のあるエンジン音は、クラウンスポーツというモデルの車格に追い付いていない、という印象だった。

また、歴代のモデルが日本の道路インフラとともに歩み、ある意味それを築いてきたという実績までを踏まえると、それをかなぐり捨てて一気に巨大化したボディのサイズ(とくに全幅)についても、前述のようにいくら見た目のダイナミズムに貢献していようとも、もろ手を挙げて賛成することはできない思いも生まれてくる。

スポーツカーシーンに一石を投じる1台だ

それにしても、乗れば乗るほどにそのあまりの変貌ぶりに改めて驚きを禁じ得なかったのがこのモデル。ホットな走りにも十分対応しながら日常的には20km/L超の燃費性能をしれっとマーク。計算上とはいえ1000kmを軽く超える航続距離を達成する、

「RS」グレードの前席は専用のスポーツシートを装備。後席シートバックは60:40分割可倒式。荷室容量は5名乗車時で397Lを確保する。

そのPHEVバージョンは紛れもなく、日本のスポーツカーシーンに新たな一石を投じる存在に値するモデルだと確信をすることになった。(文:河村康彦/写真:佐藤正巳、井上雅行)

トヨタ クラウン スポーツRS 主要諸元

●Engine
型式:A25A-FXS
種類:直4DOHC
総排気量:2487cc
最高出力 :130kW(177ps)/6000rpm
最大トルク :219Nm(22.3kgm)/3600rpm
燃料・タンク容量:レギュラー・55L
WLTCモード燃費:20.3km/L
●Motor&Battery
最高出力:フロント134kW(182ps)/リア40kW(54ps)
最大トルク :フロント270Nm(27.5kgm)/リア121Nm(12.3kgm)
システム最高出力:225 kW(306ps)
バッテリー種類:リチウムイオン電池
バッテリー容量:51Ah
●Dimension&Weight
全長×全幅×全高:4720×1880×1570mm
ホイールベース:2770mm
トレッド 前/後:1605/1615mm
車両重量:2030kg(※1)
最小回転半径:5.4m
ラゲッジルーム容量:397L
●Chassis
駆動方式:4WD
トランスミッション:無段変速機
ステアリング形式:ラック&ピニオン
サスペンション形式:前ストラット/後マルチリンク
ブレーキ 前Vディスク/後Vディスク
タイヤサイズ:235/45R21
●Price 車両価格:7,650,000円
※1 パノラマルーフ装着車は+10kg

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