【R18+】「性描写は美しく、暴力描写は突き抜けて」SABU監督が語る!“DV夫×被害妻×ストーカー男”の衝撃作『アンダー・ユア・ベッド』

あの高良健吾主演作を韓国で再映画化!SABU監督インタビュー

美しく、そして凛々しい。だが時折、醜く歪み狂気に満ちたもの。“恋愛”は面倒な感情だ。その元凶は千差万別だ。病、地位の違い、互いの距離、不倫、暴力……映画は様々な“面倒ごと”を描いてきた。高良健吾主演の同名日本映画を韓国で最映画化した『アンダー・ユア・ベッド』は、そんな面倒ごとの詰め合わせのような作品になっている。

同級生に名前すら覚えてもらえない根暗な学生時代を過ごした青年ジフン。彼は唯一自分の名前を呼んでくれた女性、イェウンのことを忘れられない。ジフンは数年後、イェウンと偶然再会する。学生時代の想いがフラッシュバックし、強烈な引力に引かれるかのように、彼女の家を突き止めると、監視カメラと盗聴器で24時間監視を始める。すでに結婚していたイェウンだったが、じつは彼女は夫のヒョンオから激烈な暴力を受けていた――。

DV夫にストーカー男、どっちもどっちだと思うが、『アンダー・ユア・ベッド』は双方にそれなりの事情があり、道を踏み外し、それ故の苦悩が描かれている。プロットだけでは「気持ち悪い」話だし、スクリーンに映し出される性描写や暴力は嫌悪感を抱かせる。しかし、本作は妙に美しいのだ。

この妙な美しさの元を暴くべく、韓国映画界に乗り込んだSABU監督にお話を伺った。

「性描写は美しく、暴力描写は突き抜けて」

―『アンダー・ユア・ベッド』を韓国映画として映画化した経緯は?

以前『Miss ZOMBIE』(2013年)を国際配給した時に、韓国の配給/制作会社と繋がりができていたんです。ずっとやり取りをしていて、「いつか韓国映画を一緒に撮りたいね」なんて話をしていて。いくつか脚本はもらったんですが、なかなか実現しなくてね。それで今回、「『アンダー・ユア・ベッド』を撮ってもらえませんか?」となって実現したんです。

―直々にオファーがあったんですね

撮った後に聞いた話なんだけど、『アンダー・ユア・ベッド』は激しい性描写やDVシーンがあるでしょう? 韓国の監督に何人か依頼したらしいんだけど、全部断られちゃったみたいで(笑)。そこで僕に依頼が来たというわけです。

―今おっしゃったように性描写やDVシーンが強烈ですが、作品全体として非常にバランスのとれた作品であると感じました。このバランス感覚はどのように構築していったのでしょうか?

まず性描写は美しくなければならないことを大前提にしていました。グロテスクな性描写にはしたくなかったんです。イ・ユヌは俳優としては新人ですし、できるだけ綺麗に撮ってあげたいと思いました。暴力描写については、性描写とあわせて年齢制限がつくだろうと思い、性描写と対比させるように突き抜けて撮りましたね。併せて画角を4:3にすることで、両者ともアート的な感覚を持たせるようにしました。

―4:3の画角が生み出すアートな感覚とは?

“余白”を生かせると考えました。今回は頂いたお仕事でしたし、好き放題やってみようと(笑)。スタッフに提案したら皆、この画角が好きで……じゃあ、4:3でいこうと。さらにモノクロにしようとも思ったのですが、最終的にはカラーになりました。韓国ならではの風景にもマッチしているかなと。グチャグチャになった電線なんて韓国にしかない風景ですし、絶対撮りたいと思っていました。

「こんなところでドローンを? なんて思う場所で、ブーーン! と」

―寒々とした風景と対照的にエモーショナルな人間関係を描いていますが、あえて冬を選んだのでしょうか?

たまたまです(笑)。当初は夏の予定だったんだけど、結果的に良かったなぁと。夏で汗だくになったキャラクターを登場させるのも韓国映画っぽいかもしれませんが(笑)。

―キャスティングの経緯は?

イ・ジフンは韓国サイドからの推しがあり、彼自身も意欲的だったので決めました。イ・ユヌとシン・スハンはオーディションですね。ユヌは元々アイドル歌手ということもあり、とてもハスキーでいい声だったことが決め手です。スハンはプロデューサーが気に入って採用になりました。元の脚本の設定とは違って、若い役者だったので脚本を少し変更することになりましたが……結果的にバランスのとれたキャスティングになったと思います。

―主人公はジフンだと思うのですが、イェウン(イ・ユヌ)とヒョンオ(シン・スハン)の2人もしっかりとした背景がありましたね。

日本で脚本を書き上げていったのですが、現場入りしたらプロデューサーから「3人の物語にしたい」と注文があって……ごっそり書き直しました。

―男性陣が2人とも過去に囚われすぎですが、監督から見ても男は過去を引きずりがちなんですかね……。

男は皆、そうなんじゃない?(笑)。最近の若者はどうなんだろうね。

―日本と韓国で撮影手法に違いはありましたか?

1日12時間以上かつ週50時間以上は撮影……というか労働してはいけないんですよ。かなりホワイトな環境で、いいことなのですが、「自分はまだまだ元気で撮れるのになぁ。撮影日数も足りなくなるなぁ」なんて思いながら撮影していました。とはいえ、撮影そのものはかなり自由でしたね。「こんなところでドローンを飛ばしていいの?」なんて思う場所でブーーン! と飛ばしちゃう。

―室内のシーンも多く、照明に苦労されたのでは? 特にベッドの下に入り込んだジフンの目の光などが印象的で工夫を感じました。

“あてすぎない”ように気を遣いました。ベッドの下の場面では最初、ジフンの目も照明部が明るく照らしていたのですが、「映らなくてもいいくらい」と指示しましたね。

―女体を模したゴルチェの香水瓶やアメリカン・クラッカーなど、小道具にも目が行きました。

アメリカン・クラッカーは作品の重要な“道具”でもあります。当初の脚本には“鉄球”とだけ言及されていたんです。鉄球をポケットに入れているのは韓国っぽくていいとは思ったのですが、鉄球をもつ動機が必要だとして、わざわざ作ったんですよ。実際カチカチ鳴らすシーンも撮ったのですが、しっくりこなかったのでバッサリ切りました(笑)。

「暗いばっかりの映画は撮りたくない」

―キャストとのコミュニケーションはどのように取られましたか?

現場の日本人は私一人だったので、連携はしっかりしなければならないと考えました。彼らもこの(300ページ越えの分厚い絵コンテ本を指さしながら)絵コンテを読んでくれていたし、性描写や暴力描写もしっかり理解を得てやっていましたね。

―リテイクは結構されましたか?

スハンが……殴る演技が苦手だったんですよ(笑)。間違って本当に当たってしまうこともあって、怪我はなかったのですが、結構撮り直しました。3人とも仲良しなのでハプニングがあっても笑っていましたけど。

―本作のお気に入りのシーンは?

ラストシーンですね。あれは是非、皆さんに観ていただきたいです。観る前の人たちには詳しく言えないんですけれど(笑)。長尺ワンカットで、演技はもちろん劇伴から環境音までとことんこだわった、自分でも大好きなシーンです。

―ほんの少しですが希望が持てるラストシーンでしたね。

暗いばっかりの映画って撮りたくないんですよ(笑)。映画を観る前と後で少しでも気分が上がる……観て良かったと思える映画にしたかった。映画はそうあってほしいなぁ……。

淡々と語りながらも、こだわりを強く感じさせるSABU監督。インタビュー中は「最近の邦画は“画”が弱い。もっと強い画を撮るべき」と反骨精神をむき出しにする場面もあった。そんな彼が異国で好き放題やってのけた『アンダー・ユア・ベッド』の画を、ぜひスクリーンで楽しんでほしい。

『アンダー・ユア・ベッド』は2024年5月31日(金)より全国ロードショー

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