【密着撮】パリ五輪不出場ソシエダ久保建英が初の国立で「レベルの違う」神プレーと、スポンサー安田慶祐氏が語った「大谷翔平」、「サッカーと教育」

日本の至宝・久保建英のプレーを見ようと、4万人の観客が国立に押し寄せた。撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)

スペイン一部リーグのレアル・ソシエダに所属するサッカー日本代表の久保建英(22)が、自身初めてという国立競技場のピッチで躍動した。
ソシエダのジャパンツアーで来日した日本の至宝。5月29日の東京ヴェルディとの親善試合で48分間プレーし、観客席のファンや子どもたちを絶妙なスルーパスやスピード感のあるドリブル、華麗な足ワザで魅了した。

チームメイトを完璧に理解した「優しいパス」

中でも、圧巻だったのは「29分のプレーだった」というのは、国立競技場で試合を撮影したカメラマンの渡辺航滋氏だ。
「日本代表のときより、シンプルにプレーしていましたね。たぶん、練習があまりできないこともあって連係不足になり、個で打開しなければならないことが多い代表の試合より、クラブではシーズンを通して練習しているだけに、チームメイトが互いを深く理解している感じでした」
そのことがよくわかるのは、7分のスルーパス。久保にボールを預けた、サイドバックのアルバロ・オドリオソラが久保を追い越してライン際を駆け上がっていくと、少しボールをためてオドリオソラの走る時間を稼ぎながら、ヴェルディDF2人の間を絶妙に抜けるスルーパス。オドリオソラの走る速さを完璧に理解した優しいパスが足元に届けられたが、残念ながらオドリオソラはふかしてしまった。
その後17分、ヴェルディDFの間を縫うように、ボックスの外側を横切るカットインからヨン・アンデル・オラサガスティにラストパスを送るも、オラサガスティの左足シュートは、ヴェルディGK長沢祐弥にキャッチされてしまう。

そして、29分のプレーがコレ。

試合後には、レアル・ソシエダ、東京ヴェルディ両チームがそろって記念撮影。久保選手はどこに? 撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)中央でした。

相手DF3人がいても「無人の荒野を行くがごとし」

「後ろ4人、前3人のヴェルディ選手にラインで挟まれた、前線のブライアン・フィアベマ選手にボールを当てると、フィアベマ選手のヒールキックは最終ラインに弾き返されてしまうんですが、久保選手がボールを巧みに拾ってヴェルディ選手3人に囲まれながら、ドリブルで切り込んでマイナスのパス。

パスは味方選手に届く寸前、クリアされてしまいましたが、若手の相手DF3人が寄せてきても、まるで無人の荒野を行くかのよう。173センチと小柄ながら、フィジカルでもまったく負けてなかった。違いを見せつけましたね」(同)
その久保の躍進を支えているのは、実力はもちろんだが、幼少期からバルセロナなど、スペインで暮らしたことが大きいのではないかと渡辺カメラマンは分析する。
「もちろん、伊東純也選手のように、語学力に頼らなくてもすごい選手はいますが、久保選手の場合、身についている完璧な語学力もあって、味方選手とのコミュニケーションが本当にスムーズでした。間違いなく、チームの主力であることが分かりましたね」(前同)
スタジアムに集まった4万人の人々とテレビの前で見守るファンに、違いを見せつけた久保。だが、後半3分、交代することになり、早すぎる主役の退場にスタジアム全体からため息が漏れたが、やがて拍手に代わり、次第に大きくなっていった。
試合は2-0でソシエダの勝利に終わったが、そんな日本が誇るヒーローとともに、国立競技場を沸かせたものが、もうひとつあった。

正確なキックで味方のチャンスを演出する久保。撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)

ヤスダグループ代表取締役社長と「大谷翔平」

サッカーの試合には珍しいブラスバンドである。
サッカーの場合、両チームのゴール裏に陣取ったサポーターがタイコなどの鳴り物を入れて熱狂的な応援をすることが普通だが、今回、バックスタンドに陣取ったのは、洗足学園高校、大学のブラスバンド部だった。高校野球では定番中の定番ともいえるZARDの『負けないで』や最近、大流行のCreepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』などを演奏すると、まるで夏の甲子園のような雰囲気に。また、試合前の国歌斉唱は、洗足学園中学校の合唱部が担当した。
今回の演出を担当したレアル・ソシエダのメインスポンサーである、ヤスダグループ代表取締役社長の安田慶祐氏に話を聞いた。
「今回、洗足学園の関係者には5000人ほど来ていただきました。私は、こうした世界レベルのクラブの試合を、若い子たちに見せることは、アカデミーで若い選手たちを育成するのと同様の教育だと思っています。今後は、サッカーで地方創生などにも取り組んでいきたいですね。
不可能ではないと思っています。なぜなら、大谷翔平選手が、誰も実現不可能だと思っていた二刀流で、メジャーで大成功しているじゃないですか」
瞳を輝かせながら、今回の親善試合と今後のビジョンについて語ってくれた安田社長。また今夏には、次なるイベントも準備中だという。
この日の前日である28日、「パリ五輪には出場しない」と明言した久保建英。日本の至宝はこの後、W杯2次予選である、6月6日のミャンマー戦、そして11日のシリア戦に臨む、サッカー日本代表に合流する。試合後、「もも裏を少し痛めて、負傷する前に交代した」と、早すぎる交代の経緯を語った久保。彼に憧れるサッカー少年たちのためにも、足に何事もないことを祈りたい。

試合前、国歌を斉唱する洗足学園中学校の合唱部の生徒たち。天使の歌声がスタジアムに響いた。撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)

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