デジタル派オーディオ評論家、デノン「DP-450USB」を触る。アナログ初心者“だからこそ”見える魅力とは

オーディオのメインソースをファイル再生/ネットワークオーディオに移行して十数年になる筆者だが、実は数年前からレコード再生にも取り組んでいる。とはいっても、あくまでも「歴史あるアナログを通じて、より深くオーディオの多面性に触れよう」という想いで始めた、ごく個人的かつささやかな取り組みであり、特にそれをオープンにしようという発想もなかった。

そんななか、デノンのレコードプレーヤー「DP-450USB」のレビューの話が持ち上がったのだが、それを受けるかどうかは非常に悩んだ。レコードの再生環境こそ整えてはいるものの、実践という意味ではまだまだ経験不足だし、そもそもまっとうなレビューが出来るのかという不安も正直あった。

いろいろと考えた結果、「ディスク再生メインだったオーディオファンがネットワークプレーヤーを使ってみる」という内容の記事がアリなら、「ファイル再生ばかりやっているオーディオファンがビギナーとしての視点でレコードプレーヤーをレビューする」というのもまたアリだろう、と開き直ることにした。

というわけで、今なお初心全開の筆者だからこそできる、DP-450USBレビューをお送りしたい。

「DP-450USB」希望小売価格:84,700円(税込)

■本格派なのに使いやすい、デザイン性の高さも魅力「DP-450USB」

DP-450USBは現在のデノンのラインナップの中で、ハイエンドの「DP-3000NE」の次に位置するモデル。下位モデルとはS字型アームの採用やフルオートではなくマニュアルである点などで差別化されており、本機からUSB録音機能を省いた「DP-400」と合わせて、本格的なレコード再生の入り口という位置づけのようだ。

実際に使ってみて感じた、DP-450USBを特徴づける要素は3つ。「現代的なデザイン」「使い勝手の良さ」「再生クオリティ」である。

まずは現代的なデザインについて。DP-450USBはブラックとホワイトの2色展開で、筆者宅に届いたのは前者。どちらも高級感のある光沢仕上げとなっており、操作ボタン類が最小限であることもあいまって、「アナログ=古い」というイメージを微塵も感じさせない、洗練された印象を受ける。フロントにボタンがないDP-400ならば、ますますその印象は強まる。

もっとも、良くも悪くも「昔ながらの」「レトロな」スタイルではないため、そういった要素を求める人には合わないのかもしれないが、現代の住環境において違和感がないのは間違いなくこちらだろう。

付属するダストカバーは全体を覆うタイプではなく、こちらも機能よりデザインを優先したものと思われ、使わない際はレコードスタンドとしても使用可能。現代におけるレコードはインテリアやファッションの文脈で語られることも多いが、本機のデザインからは同様の意識が感じられる。

DP-450USBのダストカバー
使わない時はレコードスタンドとしても使用可能

続いて、使い勝手の良さについて。筆者が触れてきたレコードプレーヤーはわずかであり、新しいレコードプレーヤーを前にすると、「はたしてきちんと使えるだろうか」という不安が今でも付きまとう。

幸いにして、DP-450USBではそのような心配は杞憂に終わった。それどころか、非常にスムーズに行えた針圧調整等も含めて、「最も簡単に使えた」レコードプレーヤーだった。レコードの再生が終了すると自動でトーンアームをリフトアップし、ターンテーブルの回転を停止するオートリフトアップ&ストップ機能も搭載しており、針やレコードへのダメージを防いでくれる。

また、MMカートリッジが標準で付属するとともにフォノイコライザーを内蔵しているため、追加で機器を導入する必要なく、本機単体で既存のシステムに導入できる。内蔵フォノイコライザーはオンオフが可能なため、将来的に単体フォノイコライザーを導入して音質向上を図ることもできる。

総じて本製品は「すぐに使える、誰でも使える」という点で配慮が行き届いており、レコードプレーヤーに初めて触れるという人でも安心して使えるはずだ。

また型番にも表れている通り、大きな特徴としてUSB録音機能を持っている。録音の方法はいたって簡単で、前面のUSB端子にUSBメモリを接続し、レコードの再生と同時に「REC」ボタンを押すだけでいい。録音はMP3(192kbps)かWAV(44.1kHz/16bit)で行える。録音したファイルは様々な活用が可能であり、レコードの可能性を広げるものなので、USB録音機能はデジタルとアナログの橋渡しとしても機能するだろう。

USB録音もメモリーを差し、ボタンを押すだけと簡単だ

録音したファイルは無料で提供されているソフト「MusiCut for Denon」を使って、曲間の無音部分での自動トラック分割や、Gracenoteの音楽データベースからタグの取得も可能となっている。ただ一つ言うなら、このソフトはMP3にしか対応しておらず、高音質なWAVで録音した場合は外部の編集ソフトを使わなければいけないのが惜しいところだ。

DP-450USBでレコードを再生してみる

■単なるノスタルジーではない、デジタルを凌ぐ「レコードの音」を聴かせてくれる

それではいよいよ、再生クオリティについて。本機の試聴では、再生システムとしてNmodeのプリメインアンプ「X-PM9」とParadigmのブックシェルフスピーカー「Persona B」を組み合わせた。本来であればDP-450USBの価格に見合った組み合わせにすべきと思ったのだが、「レコードならではの音」を万全に表出させるべく、今回はあえて上位クラスの機器(特にスピーカー)を用いた。

Nmodeのプリメインアンプ「X-PM9」とParadigmのブックシェルフスピーカー「Persona B」を組み合わせた

試聴に用いたレコードは、すぎやまこういち・東京都交響楽団『交響組曲ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』、Luther Vandross『Never Too Much』、大植英次・ミネソタ管弦楽団『レスピーギ《ローマの松》』、Bill Evans『Waltz for Debby』の4枚。これらはすべて筆者がハイレゾ音源でも所有しているアルバムであり、「レコードとハイレゾ音源(ファイル再生)ではどのような違いがあるのか?」という比較も念頭に置いている。

今回、4枚のレコードで試聴を行った

まずはDP-450USBの内蔵フォノイコライザーをオンにした状態で聴く。カートリッジは全体を通じて付属のMMカートリッジをそのまま使用した。

一般的にレコードの音について語られる時、「デジタル音源にはないやわらかさや音の温かみ」というような、良くも悪くもノスタルジックなイメージがよく使われている印象がある。しかし、実際にしっかりとしたオーディオシステムで再生するレコードの音は、それこそ下手なデジタルプレーヤーが裸足で逃げ出すほどの鮮烈さやエネルギー感に満ちている。むしろ、単なるノスタルジーでは絶対に片付けられない、オーディオにおけるひとつの究極形がレコード再生にはあると筆者は思っている。普段はファイル再生に全力投球しているからこそ、レコードの音に触れるたびに心からそう思う。

そしてDP-450USBは、まさに筆者が思う「レコードの音」をしっかりと届けてくれた。試聴したすべてのアルバムを通じて濃厚な中低域を核にした実体感のある音、豊かなエネルギー感を味わうことができた。特にトランジェントの良さに関しては、Bluesoundのネットワークプレーヤー「NODE」で再生したハイレゾ音源と比べても引けを取らない。

確かに、高域の透明感やダイナミックレンジ、空間表現といった明らかにハイレゾ音源が優れている要素はあり、『ドラクエ』や『ローマの松』など、大規模なオーケストラ編成の曲でより顕著になる。しかし、それを補って余りあるほどにレコードの音は感情にダイレクトに訴えかける力があり、非常に充実した音楽体験となった。

ちなみに『Never Too Much』は、ほぼすべての要素でハイレゾ音源よりもレコードの方が満足度で上回るという結果になった。

ハイレゾ音源との比較では価格帯的に釣り合うBluesound「NODE」を再生に使用

DP-450USBの内蔵フォノイコライザーをオフにして、フェーズメーションのフォノイコライザー「EA-200」との組み合わせも試してみた。

フェーズメーションのフォノイコライザー「EA-200」を組み合わせて聴いた

単体フォノイコライザーの威力は歴然としており、エネルギー感を保ったまま一気に音が引き締まり、空間の見通しが著しく改善。細部の描写や分解能でも明らかな向上を聴き取れる。EA-200との組み合わせは「グレードアップ」を如実に実感するともに、DP-450USBの純粋なレコードプレーヤーとしての素性の良さも再確認できた。

現代的なデザイン、経験の浅い筆者でも難なく扱える抜群の使いやすさ、レコードの魅力を確かに感じさせる再生クオリティ。これらを満遍なく備えたDP-450USBは、単にレコードを再生するから一歩踏み込んで、真にアナログの魅力を味わいたいと望んだ時、実に心強いモデルとなるだろう。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

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