信号が赤になった横断歩道の先に絶望の光景……一見上手な「失恋漫画」がプロの添削で劇的変化!

各種アプリやウェブサービスの広がりにより、多くのクリエイターが世の中にイラストや漫画を届けることができるようになった。漫画においては、SNSでオリジナル作品を発表して人気を獲得し、商業連載につなげたヒット作も続々と登場している。一方で、多くの競争相手の中で抜きん出ることがなかなかできなかったり、「独学」ゆえの悩みを抱えているクリエイターも少なくない状況だ。

そんななか、プロの漫画家やイラストレーターがその技術や心構えを伝えるYouTube動画が人気を集めている。「漫画」というジャンルで信頼を獲得しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさ・的確さとともに、読者から募った作品を添削する人気企画では相談者の個性に寄り添ったアドバイスが心地よく、自分では漫画を描かない人も楽しく視聴することができるのが特徴だ。

そんなハイド氏が5月、「【致命的】キャラが良くても世間から認められない漫画の理由」と題した動画を公開。「キャラが良い」なら広く人気を獲得してもよさそうだが、なぜ「世間から認められない」ことがあるのだろうか。

今回添削することになった漫画は、漫画家デビューを目指しているという匿名希望さんの作品。花束を持った男性が、信号が赤になった横断歩道の先に、楽しげにしているカップルの姿を見つけ、悲しそうに佇む……という失恋のシーンだ。

ハイド氏はいつものように、まずは作品の優れたポイントを解説していく。「男性が見ても女性が見ても嫌味がなくて、青年誌系の絵柄として爽やかで良い」として、渡したかった花束を渡すことができなかった、という寂しい雰囲気がうまく表現されていることも評価していた。果たしてどんな改善点があるのだろうか。

詳しくは動画を直接視聴してもらいたいところだが、ハイド氏は元作品をベースにネームを引き直し、わかりやすくアドバイスを行なっていく。例えば、一つ目のポイントは「距離感」。言われてみれば納得だが、元の作品では、主人公の視線の先にいるカップルとの距離がかなり遠く見える。「信号が赤になって声をかけられなかった」というシチュエーションであれば、カップルは信号をちょうど渡り切ったくらいの距離感が自然だ。肉眼で二人の表情まで確認できる距離感、と言い換えることもでき、ハイド氏の添削でよりドラマチックなシーンに改善していた。

また、元の作品では、信号が赤になっているとはいえ車が一台もなく、切迫した場面ならそのまま横断歩道を渡ってしまえそうなシチュエーションにも見える。もちろん赤信号を無視してはいけないが、創作の中においては「本当に彼女に伝えた強い気持ちがあったのか」という疑問符が浮かびかねない。ハイド氏のネームでは信号が変わるとともに動き出した車が描かれており、それが物理的に男性とカップルを隔てる障害物として機能。それでも思いを伝えようとして、信号待ちのサラリーマンに危険だと止められている……という緊迫感のあるシーンに生まれ変わっていた。

その他にも細かな添削があり、もう一歩踏み込んだプロ志望者向けにはメンバーシップでの深掘り解説も。素人からすると十分に上手く見える漫画が、プロの目線で劇的に改善していく様子はクリエイターを目指していなくてもかなり興味深いものだ。漫画が好きな人は、ぜひチェックしてみよう。

(向原康太)

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