【バイタルエリアの仕事人】vol.40 木村誠二|優勝貢献のU-23アジア杯で手にした自信。パリ五輪は「より近い目標で現実的になった」

攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第40回はサガン鳥栖のDF木村誠二だ。

前編では、新シーズンへの思いやこれまでの苦悩などについて語ってもらった。後編では、パリ五輪への思いなどを深く掘り下げていく。まずは、CBとしての攻撃への関わり方、思考や流儀を訊いた。

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攻撃でもバイタルエリアはチームとして狙いたいところ。フォワードの動き出しと僕らセンターバックのパスのタイミングを合わせて、背後を一発で危険なエリア入れるのは狙っています。

押し込んでいる時の狭いエリアへのパスも有効。でも、もちろん相手もそれは警戒して、コースを切ってくるので、センターバックがパスを通さなくても、サイドバックやボランチに、やりやすいように預ける判断は必要で、心がけてやっています。

センターバックの前にスペースがあるなら、最初からボールを受ける時にそのスペースに入って、相手がいないなら高い位置でもらうのは意識している。ただそれができなかった時は、前のスペースに、スピード上げすぎずしっかり運んで、相手を引き出すイメージは持っています。

でもそれが、ちょっと運びすぎて、相手のプレスかかって、出しどころもなくなって相手に食われて大ピンチになる可能性もある。そういうシーンをセンターバックとしてはなくさないといけないし、ビルドアップのそのバランスは難しく、今後も勉強していかないといけないと思っています。

鳥栖に来た今季からは自分の練習メニューにビジョントレーニングを取り入れました。今年のシーズン前、キャンプに入ってすぐの時に肉離れをしてしまい、リハビリをしていた際、トレーナーの方に教えてもらったのがきっかけ。浮き球の上に高く上がったボールの処理が全然できてなくて、トレーナーに目が弱いと言われ、そこからこのトレーニングを取り入れられるようになりました。今では毎回、練習の時に取り入れています。

これによってボールを見て、相手を見て、またボールを見て、という繰り返しの動きが、かなりやりやすくなったイメージがある。変にボールはどこだとか、相手がどこだとならず、しっかり見れるようになってきたと成果を実感しています。

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今季から取り入れたビジョントレーニングの成果を最も示せたのは、U-23日本代表として出場した4月のU-23アジアカップ。クロスの落下地点をしっかりと見極め、ヘディングから2ゴールを挙げた。

アジア杯で木村は6試合中5試合に出場し、センターバックでスタメンの座を獲得。チームのパリ五輪出場権獲得、そしてアジア制覇に大きく貢献したなか、この経験が自身の気持ちに変化を生んだという。

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負ければオリンピックの出場権を失うアジアカップ・準々決勝のカタール戦(4-2)は、今まで経験したことないぐらいのプレッシャーだった。日本サッカーにかかっている期待やオリンピックの出場権。全部含めて、吐き気がするぐらい苦しかった。それを乗り越えて優勝ができた経験は大きかった。

プロとしてちゃんと試合に出て優勝した経験は初めてで、本当に嬉しかった。嬉しいけど、決勝ではあまり良いプレーができず、活躍できなくて悔しいのと、アジアカップの23人で、スタッフも含めて全員で戦いましたが、その23人でやれるサッカーはこれが最後。いろいろあって、寂しい、嬉しい、悔しい。優勝した瞬間は感情がごちゃごちゃになっていました。

クラブに帰ってきて、チームメイト全員におめでとうと言ってもらった。鳥栖でもゴールを取ってくれよとも言われましたね(笑)。まだ鳥栖では取れてなくて、川崎戦では一本、惜しいシーンは作れたので、このまま継続して、チームの勝ちに得点でも貢献できるように頑張りたいなと思っています。

大会を通して振り返ると、決勝トーナメントで全試合、グループステージでも1試合と、中国戦には途中から出場した。試合に関われたのはすごく喜ばしいことではあります。ただ結果は出てるから良かったね、と結構言ってもらえるんですが、結果出たからこのアジアカップのメンバーをパリに連れていこうとなるはずもない。そういう場所じゃないので。

パリ・オリンピックには、その時にコンディションが良くないと呼ばれないし、あとはどれだけ自チームで試合に出てるか、試合出てる中でどれだけ良いパフォーマンスを出せるかも重要です。

アジアカップで海外のレベルの高い選手と何人も対峙したり、代表チームの中でも、同じポジションでも別のポジションでもレベルの高い選手と一緒にやってきたなかで、これまで通りの練習量や意識の仕方だと足りないと改めて感じた。さらに成長を続けられるように、日頃の練習から頑張ろうと思います。

U-23アジア杯で様々なプレッシャーを乗り越え、目標を達成した成功体験が自信に。木村のパリ五輪メンバーに選ばれたい思いもさらに大きくなった。そのためにも鳥栖での活躍を誓う。

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パリ・オリンピックはずっと目標としてきた場所。大岩ジャパンが始まってからルートマップがあって、目標地点はパリ・オリンピックだった。代表入るたびにずっと言われてきた言葉だったので、自然と目ざしていました。

それはアジアカップを終えて、より近い目標で現実的になった。でも、あと一歩のところで出場を逃すとか、メンバーに入れないのは、全然ありえること。ポジションが確約されている選手がいるわけではないので、パリは意識しつつも、しっかり自分にやれることを一日一日やって、成長を止めない、加速させるってことが大事だと思ってずっとやっています。

鳥栖は今、J2降格圏に近いので、早く脱出したい。上のチームとの勝点差が大きく離れているわけではないので、ここから2連勝、3連勝できれば全然、まだ上の順位に入っていける。

鳥栖がより高い順位に上がって、そこで試合出ていれば、オリンピックに向けてより高い評価がもらえることにも繋がると思う。個人的にもチームとしても、上の順位を目ざして戦っていくというのは、これから目ざしていく目標です。

※このシリーズ了

取材・構成●手塚集斗(サッカーダイジェストWeb編集部)

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