「不妊治療」当事者を悩ませる制度の「壁」 すべて自己負担、 費用総額1000万円超も

晩婚化などを背景に、注目が高まっている「不妊治療」。おととしから保険の適用が本格的に始まったほか、6月からはさらに適用の範囲が広がり、治療の「ハードル」は下がりつつありますが、当事者を悩ませる制度の「壁」が浮き彫りになってきています。

「結婚したときから子どもが欲しいという気持ちがあって」(20代 不妊治療をした女性) 夫婦の5.5組に1組が経験したことがあるという「不妊治療」。 「20代だし自然にできるものだろうというふうに思っていたので、まさか自分が治療を受けると最初は考えてなかったです」(20代 不妊治療をした女性) 名古屋市千種区にある、不妊治療専門のクリニックには、毎日100人以上の患者が訪れるといいます。 「昔は不妊治療というと30代後半の方がメインだったが、もちろん今もたくさんいますが、最近では20代前半ぐらいの方でも自分の体のことを知りたいとか、不安なのでまず検査をという方が増えたかなと思います」(まるたARTクリニック 丸田英院長) その背景にあるのが、おととし4月に始まった「保険適用の拡大」です。 かつては自由診療として「全額負担」だった「人工授精」や「体外受精」などの費用が保険適用の対象になり、患者の自己負担は「原則3割」に。 さらに、6月からの診療報酬改定により、男性側についても、医療上必要な理由で精子を凍結する場合、保険が適用されることになりました。

当事者を悩ませる「線引き」

保険適用の拡大が進み、不妊治療へのハードルが下がったことで若い世代の受診が増えた一方で、その条件の「線引き」が当事者を悩ませています。それは「年齢」と「回数」です。 「採卵はもう20~30回はしている。途中から数えるのをやめてしまって顕微授精も10回はしてます」(48歳女性) 現在48歳の女性。保険が適用されず、すべて「自己負担」で治療をしているといいます。 Q:大変なことやつらいことは 「自分で注射したり薬を飲んだりとかしていても、採卵して卵子が1個も取れない回もあるので、その時は少し落ち込みますね」(48歳女性) 現状の制度では、保険が適用されるためには、治療開始時に女性は「43歳未満」という条件があるほか、40歳未満は6回まで、40歳以上43歳未満は3回までの制限があります。 保険が適用されない46歳で不妊治療を始めたという女性。これまでにかけた費用の総額は、1000万円を超えているといいます。 「今、少子化対策がいわれてるので、もう少し手厚くそういうもの(補助)があればいいなとは思います」(48歳女性)

「もっと早く知りたかった」

また、2人目の妊娠が難しい「第2子不妊」に悩む人もいます。 「1人目が3歳くらいになって『きょうだいがほしい』と言うようになったときに年齢もいっていたので」(40代女性) 4年前に第2子の不妊治療を始めたこちらの女性。保険適用の回数の上限を超えたため、今は自費で治療を続けています。 「1人目の治療で通われている方もたくさんいるので、2人目を望むなんて私がわがままなんじゃないかというふうに思ったこともありましたけど」(40代女性) 「どれだけお金払ったら必ず授かるとか、これだけ努力したら必ず授かるとか、そういう確約がないので、2人目・3人目までのことをそのときは全く考えてなくて。そんなに欲しかったら、1人目はいくつまでに考えないと確率的に難しいよとか、そういうことをもっと早く知りたかった」(40代女性)

「仕事と治療の両立」が悩み

当時は仕事をしながら治療を続けていましたが、「仕事と治療の両立」が悩みだったといいます。 「どうしても治療にスケジュールがあることなので、職場で誰も嫌だとか無理だよと言う人は一人もいなかったけど、仕事を代わってもらうということに罪悪感とかストレスを感じていました」(40代女性) 結局、女性は仕事を辞め、不妊治療に専念することにしましたが、今「区切り」をつけることも考えているといいます。 「治療ばかりになって、今いる子どもに注げる力とか時間とか、そういうことも考えると、どこかで区切りをつけないといけないなと思う」(40代女性)

具体的な支援を始めた企業も

経済的な負担に加え、「仕事と治療の両立」も大きな課題となっている不妊治療。職場や社会の理解も求められるなか、具体的な支援を始めた企業もあります。 愛知県大府市にある自動車部品メーカー、愛三工業。4月、新たに「不妊治療制度」を導入しました。 「社内アンケートの中で不妊治療との両立を望む声が上がってきており、通常の有給休暇とは別に取得できる特別有給休暇の使用用途を拡大しました」(愛三工業ダイバーシティ推進室 竹内長次室長) 従業員向けに開かれた不妊治療に関するセミナーには、男性の姿も多くみられました。 「どういうふうに言葉をかけたらいいのか、職場としてどう対応していけばいいのか興味があって参加しました」(参加した従業員)

丸田院長「早く妊活をすることの意識を持ってほしい」

セミナー後には、これから妊娠を考える女性に向けて今の自分の体について知ってもらおうと現在、卵巣に残っている卵子の量を調べる「AMH検査」を実施し、希望者の約30人が受けました。 「周りで不妊治療をやってる人もいるので、自分はどうかなと気になったので」(検査を受けた従業員) 「結婚してから2年くらい経つがなかなか機会に恵まれなくて子どもの。いきなりクリニックに行くのはハードルが高いので、こういう機会に気軽に参加できたのでお願いしました」(検査を受けた従業員) 従業員が仕事を辞めることなく、早いうちから「不妊治療」を含めた選択肢を広げられるように、今後も取り組みを続けていくといいます。 セミナーで不妊治療について紹介した丸田医師も、社会全体で理解を深めることが、制度の活用にもつながるといいます。 「やはり妊娠って、どうしても年を重ねていくごとに難しくなるので、若いときから自分の体を知ることとか妊娠のシステムを知ることで早く妊活をすることの意識を持ってほしい」(まるたARTクリニック 丸田英院長)

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