『虎に翼』第45話にしてようやく“本編”スタート 寅子が再び法律という翼を手にする

『虎に翼』(NHK総合)第45話は、第1話の冒頭3分半のアバンをもう一度新たな視点で描く回だ。キラキラと光る水面に笹舟が流れてくる始まりは同じだが、第1話では子供たちの笑い声が強調されているのに対して、第45話ではメインテーマ「You are so amazing」が流れていたりと、見比べると細かい点で再編集がかかっていることに気づく。言わば、ディレクターズ・カット版と言っていいかもしれない。

寅子(伊藤沙莉)が日本国憲法第14条を見つける新聞紙についた焼き鳥のタレの染み、スクラップブックに書かれた直言(岡部たかし)の「でかした」の文字、路上でふかし芋を売る「竹もと」の夫婦。第1話では気づくことができなかった、分からなかった一つひとつのシーンが、意味を持って私たちにメッセージを投げかけてくる。

大切な人を亡くした悲しみはせめてもの贅沢で向き合うしかないと、花江(森田望智)は焼酎、はる(石田ゆり子)はおはぎを無我夢中で食らったが、寅子を再起させたのは焼き鳥ではなく、憲法だった。空は日本晴れ。手で涙を払い立ち上がった寅子は、押入れの中からノートを取り出し、日本国憲法を書き写す。家族会議に呼ばれた直明(三山凌輝)、花江、はるも驚くほどに、寅子の表情は見違えるほどやる気に満ちている。

男も女も人種も家柄も関係なく、私たちはみな平等。寅子が直明に投げかけたのは、大学に行くという幸せを手にすることだ。直明は東京帝国大学への進学を諦め、直言がいなくなった猪爪家の家計を支えることを選んでいた。責任感の強さから自分を犠牲にし、猪爪家の大黒柱になると。男または父が大黒柱にならなければならないという無意識な偏見は、現代にも強く存在している。なにも直明が大黒柱にならなくとも、家族全員が柱になって家計を支えていけばいい。男も女も平等。男だからといって、全てを背負わなければならない時代は終わったと寅子は直明に言い聞かせる。

寅子はもう一度法曹界に飛び込み、自分自身の力で稼ぐことを決心していた。時が流れ、昭和22年春。直明の詰襟姿からは、勉学の末に晴れて帝大へ合格したことが見てとれる。高等試験の合格証書などを風呂敷に包み、寅子が向かったのは空襲で被害を受けた司法省の仮庁舎として使われている法曹会館。はる、花江、直明ら猪爪家が登場する家族会議のシーンは、第1話のアバンでは描かれていないが、法曹会館からは再び第1話と合流。人事課長として座っているのが桂場(松山ケンイチ)と知った寅子の驚きの表情が、桂場の鼻についた芋の皮だけを意味するものではないということが今だからこそ分かる。第1話では「後に最高裁判所長官となる男のもとに来た彼女の名前は……」という尾野真千子の語りから、昭和6年初夏、ふてくされた顔で見合いに参加する17歳の寅子へと時が遡っていく。

第45話では寅子の顔のアップのまま「佐田寅子昭和13年度、高等試験司法科合格。私を裁判官として採用してください。お願いします!」というセリフから、流れるようにタイトルバックへと突入。時間にして放送開始から13分。それは長い長いアバンであり、朝ドラとしては物語の転換点で少なからず使われてきた“最終回構成”である。「いい最終回だった」という感想がSNSに溢れ返るところまでがお決まりであり、その多くがヒロインもしくは主人公がパートナーと結ばれ結婚、家族写真を撮影というのが朝ドラとしての雛形であるように思える。

それらの作品を否定しているわけではないが、『虎に翼』は第1話から朝ドラらしくない朝ドラとして新たな価値観、表現の仕方を数多く提示してきた。寅子の瞳に光が宿るタイトルバックにも新たな意味を見出してしまうような、この最終回構成が意味するのは、第45話までは寅子という人物を紹介する長期間にわたるアバンだったということ。再び法律という翼を手にした寅子が裁判官を目指す物語、『虎に翼』の本編がようやくここから始まる。
(文=リアルサウンド編集部)

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