映画『関心領域』監督らが解説する特別映像公開「可能な限り真実に近づくことが大切だった」

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公開中の映画『関心領域』より、ジョナサン・グレイザー監督らが作品を解説する特別映像が公開された。

本作は、イギリスの作家マーティン・エイミスの同名小説を原案に、グレイザー監督が10年もの歳月をかけて映画化した作品。原題でもある『The Zone of Interest(関心領域)』とは、第二次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉。映画では、アウシュビッツ強制収容所と壁1枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしが描かれる。

グレイザー監督は本作について「なぜ我々は学んでこなかったのか、なぜ同じ過ちを繰り返すのか。80年前に起きた出来事を描いていますが、現代と全く関係のない話を見せるつもりは全くありません」「今もアウシュビッツ収容所での出来事と同じようなことが繰り返されています。本作は決して過去の出来事ではなく、現在のことを描いているのです」と語っている。

映像の前半で語られるのは撮影場所について。アウシュビッツ強制収容所所長ルドルフ・ヘス一家の物語を描くため、実際にアウシュビッツの隣で撮影を行ったというチーム。グレイザー監督は「可能な限り真実に近づくことが大切だったからアウシュビッツの隣で撮影した」とリアルを追求したと語る。

アカデミー賞音響賞を獲得したサウンド・デザイナーのジョニー・バーンは、「暴力は映像では描写せずに、すべて音で表現するようにした。壁の向こう側では虐殺が行われてる。そんな空間に響き渡る音を忠実に再現するために、徹底的に調べて音作りをした」と制作の裏側を振り返る。

そして話は、劇中にサーモグラフィの映像として登場する林檎を土に埋めていた謎の少女の話題に。この少女には実在のモデルがおり、アレクサンドラ・ビストロン・コロジエイジチェックという人物。アレクサンドラは監督がポーランドでリサーチを重ねている時に出会った当時90歳の女性。12歳の時に彼女はポーランドのレジスタンスの一員として、度々収容者にこっそりと食事を与えていたという。

その話を聞き、監督はアレクサンドラの物語を書くことを決意(照明を使わないと決めていたため、夜でも人の形を撮影できるサーモカメラで撮影され、彼女を単なる人間ではなく“エネルギー”として描いた、ということを別のインタビューで話している)。アレクサンドラは映画の完成前に亡くなったが、アカデミー賞のスピーチでグレイザー監督は彼女に感謝の言葉を贈った。家、ピアノ、ワンピースまで、すべてアレクサンドラの私物を借りて撮影したシーンで奏でる音楽は、実際にアウシュビッツの収容者であったヨセフ・ウルフが1943年に書いた「sunbeam」という楽曲。本編では黄色い日本語字幕で歌詞が表示される。

映像の最後に監督は「私たちに似た人間でも、簡単に残虐な行為に及ぶ恐ろしさを伝えている。そんな中アレクサンドラは人間にも善意が残ってると示してくれた。そんな彼女の存在に救われたような気がした」と物語の唯一の希望の光として描いたアレクサンドラの姿に、平和への願いを込めたことを明かしている。

『関心領域』特別映像

<作品情報>
『関心領域』

公開中

公式サイト:
https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/

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