“万引き”で3度有罪、73歳男の生活習慣が裁判で明らかに 駅で野宿、朝6時半ごろに起きコンビニで犯行繰り返した「あやしいおじいちゃん」 富山

富山駅構内のコンビニエンスストアでアルコール飲料2本を万引きしたとして起訴された73歳の男。過去に3度、同じような万引きで有罪判決を受け、今回の犯行に走る1か月ほど前までは更生保護施設に入っていました。裁判では、年金を取り崩しながら暮らすなかで、コンビニでの万引き行為が“生活習慣”となっていたことが明らかに。なぜやめられないのか?

常習累犯窃盗の罪に問われているのは、住居不定・無職の千石三成被告(73)です。

起訴状などによりますと。千石被告は、2024年3月27日、富山駅構内のコンビニエンスストアで、アルコール飲料2本(369円相当)を窃取したとされています。

5月23日、富山地裁で開かれた初公判で、千石被告は起訴内容を認めました。

検察側の冒頭陳述などによりますと、千石被告は富山県内で生まれ、高校卒業後、ドライバーなどの職を転々とし、事件当時は無職でホームレスの状態だったといいます。

また、2014年、2017年、2021年にも窃盗や常習累犯窃盗の罪に問われ有罪に。2023年10月まで服役していました。

働くのではなく、盗んで生活をしてきた…

2年6か月間の服役を終え2023年10月に出所した被告は、更生保護施設に入居しますが「アルコールを飲めないこと」を理由に、2024年2月中旬、施設を出てビジネスホテルで暮らし始めます。

その資金は服役中に貯まった年金約270万円。「明日のことは明日考えよう」と思っていたといい、フィリピンパブで1回10万円以上使うこともあったといいます。

それほど日数の経っていない2月下旬ごろには、貯金が数十万円と激減し「底が尽きそうだ」と思った被告は、富山駅構内にあるコンビニエンスストアでアルコール飲料などを盗むようになります。

ホテル暮らしを始めて1か月あまりが経った3月下旬ごろには、公園などで野宿をするようになる一方、毎日のように盗みを繰り返すように。検察の取り調べに対し、被告は、コンビニエンスストアで万引きを始めたことについて「これまでも、お金がなくなっても、働くのではなく盗んで生活してきた」と供述していたといいます。

コンビニでの盗みが生活習慣…

被告は、朝6時半ごろ起床し、コンビニエンスストアで酒や食料を万引き。日中は富山駅構内で過ごし、食料が足りなくなれば、再び店で万引きをし、夜は公園などで野宿をして暮らしていたといいます。

犯行当日は、富山駅の構内で野宿していた被告。午前7時過ぎに起床し、迷うことなく、コンビニエンスストアの酒売り場に向かったといいます。「盗んだらすぐに退店すると決めていた」といい、一度店を後にします。

しばらくして、被告は今度はおにぎりを盗むため再び同じコンビニを訪れましたが、前日に盗んだおにぎりがあることを思い出し、店を出ようとしたところ、従業員に「ちょっと待ってください」と声をかけられました。

従業員「あやしいおじいちゃん」

約1か月にわたって、同じコンビニで盗みを続けていた被告。従業員は「何かおかしいこと」に気づいていました。

3月22日。棚卸作業をしていた従業員が、発泡酒やビールが数十本単位で少ないことに気づきます。

被告を「あやしいおじいちゃん」と認識していた従業員は、翌日、店に訪れた被告がもっていた黒っぽい手提げかばんを覗き、缶ビールが入っていることを確認。従業員が「支払いまだですよね?」と声をかけると、被告は「やっぱりいらんわ」と言って店を去っていったといいます。このことをきっかけに、店では、在庫管理を1時間おきにおこなうように。

4日後の3月27日午前7時半ごろ。従業員が在庫を確認すると、1時間前より発泡酒が2本足りないことに気づきます。防犯カメラを確認すると、午前7時8分ごろ、被告の姿が映っていたといいます。

同日午前8時45分ごろ。再び店を訪れた被告に、従業員が「さっきも来ましたよね?」と声をかけると、被告は無言のまま謝罪なくその場を立ち去ろうとし、従業員が万引きを指摘すると、被告は「返す、返す」と言いながら、発泡酒を店の机に置いたといいます。その後、店が警察に通報し事態が発覚しました。

弁護側の被告人質問(抜粋)

弁護側:「2021年にも万引きをして、懲役2年6か月の実刑が下された。再び刑務所に戻りたくて、わざと盗んだのか」 千石被告:「いいえ」

弁護側:「手元にためこみたくて大量に盗んでいたか」 千石被告:「いいえ」

弁護側:「転売目的だったか」 千石被告:「ありません」

弁護側:「お金があるときは払っていたか」 千石被告:「はい、払っていました」 弁護側:「万引きは、大手のコンビニエンスストアだとしても、従業員の給料などに影響がでることは理解しているか」 千石被告:「はい、理解しています」

弁護側:「理解しているのに、なぜ盗みを続けたのか」 千石被告:「自分勝手な気持ちで後先を考えなかった結果だと思います」

弁護側:「何度も盗みを繰り返すことで、罰が重くなっていますよね」 千石被告:「はい」

弁護側:「あなたはまもなく74歳。3年前、5年前と比べ、体力や気力に変化を感じていますか」 千石被告:「はい」 弁護側:「衰えているということ?」 千石被告:「はい」 弁護側:「今後も、歳をとるほど状況は厳しくなっていきますよね」 千石被告:「はい」

弁護側:「残りの人生を刑務所で過ごすことについては」 千石被告:「嫌です」 弁護側:「1日でも早い生活基盤をつくることが必要です」 千石被告:「はい」 弁護側:「お金がないときは 市役所などに相談してください」 千石被告:「はい、わかりました」 弁護側:「今度こそ二度と盗みをしないと約束できますか」 千石被告:「はい、約束します」

検察側から被告人質問(抜粋)

検察側:「働く意思はあるのか」 千石被告:「今はないです。年金でやっていければ。(更生保護施設にいた際)ハローワークに行ったことありますが、あんまりこれって仕事がなかったんで」 検察側:「年金で生活できるのか」 千石被告:「できると思います。切り詰めていけば。収入と出ていくお金を考えていきたい」 検察側:「またやっちゃうのでは?」 千石被告:「80近くになりますからね。刑務所暮らしになりますし」 検察側:「過去の、起訴されていない事件は覚えていますか」 千石被告:「覚えていません」 検察側:「今度こそ盗まないか」 千石被告:「はい」

検察側は、被告の犯行は手慣れたもので大胆かつ悪質であること、「発泡酒を飲みたいがお金がないから盗む」といった身勝手かつ短絡的な犯行動機で酌量の余地はないこと、窃盗の常習性が認められ再犯可能性が極めて高いなどとして、懲役4年を求刑しました。

一方、弁護側は、被告が盗んだものは生活のため飲み食いするものに限られていて悪質性が高いとはいえないこと、起訴内容のアルコール飲料2本については、被害賠償が済んでいること、被告はまもなく74歳となり重い実刑を下されると、社会復帰が困難になることなどを挙げ、被告がすでに高齢者であることを考慮した、寛大な処分を求めました。

判決は、6月4日に言い渡されます。

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