ニヒルなセリフで彩られたローポリの南極で、違法の目玉焼きを作り続ける『Arctic Eggs』レビュー

『ANIMAL WELL』や『INDIKA』と、尖りまくったインディーゲームに事欠かなかった2024年の5月だが、その合間にひっそりと忘れられない一本がリリースされていた。その名も『Arctic Eggs』。

舞台は2091年の南極。鳥が違法化し、小学生のあいだでもチキンという言葉が消えた世界で、主人公は流しの料理人となって、腹ペコの人々に料理を振る舞う。といっても、レパートリーはただひとつ。フライパンで両面焼きの目玉焼きを作るだけだ。

お客に話しかけたら、すぐさま料理が始まる。鶏卵を上手に焼き、片面が焼けたらフライパンを返してもう一面を焼くだけ。もちろん、そこにゲーム性があり、勢いよく返したら卵が飛んで行ってしまうし、ビビッてたら真っ黒に焦げてしまう。

鶏卵だけでなく、あらゆる物も一緒に料理するのがプロだ。香りづけのための紙巻煙草や、便器にくっついていた虫といういかにもディストピアSFを感じさせるものもあれば、グラスに氷を入れたまま卵を焼いたり、元気よく跳ねるハリセンボンを制御したりする必要も出てくる。この辺は物理演算系のミニゲームが好きな人はたまらないだろう。

ロケーションとサウンドも抜群に良い。南極に無理矢理建てられた高層ビル。その吹き曝しの外階段を歩いているだけで満点をあげたくなる感じだ。意図的にローポリにしたビジュアルがなんともカッコいい。

しかしながら、本作の神髄はそのセリフ回しだ。

近未来の南極に人々が寄り集まり、六胃聖という指導者の下で細々と暮らしているようだが、この世界についてわかるのはその程度のもので、彼らの反抗に与したり、ハードな銃撃戦に加わったりといったことは一切ない。主人公はただただ卵の両面をじっくり焼くだけである。

客はそれぞれ自分たちの暮らしをしているが、誰しもが癖のあるセリフしか言わず、その断片からフレーバーを読み解いていくほかない。元アーティストだった囚人の戯言や、繰り返し登場する「エベレストの頂上で卵が焼けるか?」という問いや、若者が皮肉交じりに言う政権批判の諷刺など、そのパターンはとても豊富だ。だが、どれもこれもが所詮目玉焼きにソースをかけるか醤油で食すかといった程度の違いしかない会話ばかりだ。

27人に卵を振る舞い、六胃聖に謁見することでゲームは終わる。人によっては3時間もかからないだろう。腹ペコな客はもうちょっと用意されているので、難しすぎるチャレンジはスキップしても大丈夫だし、難易度をいじることで飛び散りにくい中華鍋にチェンジすることも可能だ。

ちょっとしたミニゲームを遊びながら、センス抜群の空間をユラユラと漂えるビビッドな一本である。単館の映画館でかかっているようなマニアックな洋画を観たときや、レコードショップの隅っこに残っていた一枚を手にしたときのような感動を味わいたい人は、ぜひとも遊んでみてほしい。

(文=各務都心)

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