佐藤流司×阿久津仁愛×橋本祥平×小柳心×廣瀬智紀 “聖地”太秦で駆け抜けた日々を明かす

映画と舞台、二つの世界の魅力が融合する【東映ムビ×ステ】プロジェクトの最新作を飾るのは、映画『邪魚隊/ジャッコタイ』だ。本作は、両方のメディアの強みを活かしながら一つの作品世界を構築し、<ミュージカル時代劇>という新ジャンルに挑戦した意欲作でもある。

物語の主人公たちは、どこか抜けている個性豊かな死刑囚4人と、彼らに巻き込まれる堅物な田舎武士。彼らは死罪免除を条件に、将軍おかかえの使い捨ての特殊部隊「邪魚隊」として働かされることになる。邪魚隊のリーダー・スリ師の鱗蔵(りんぞう)役で主演を務める佐藤流司をはじめ、邪魚隊に巻き込まれる堅物な田舎武士・水野平馬(みずのへいま)役の阿久津仁愛、邪魚隊メンバーで拷問仕掛けの天才・スルメ役の橋本祥平、毒の処方医・鮒右衛門(ふなえもん)役の小柳心、変装の達人・比売知(ひめじ)役の廣瀬智紀という実力派キャストが集結した。

今回、そんな『邪魚隊/ジャッコタイ』の魅力に迫るべく、5人のキャストにインタビュー。時代劇の聖地・太秦で撮影が行われた本作ならではの見どころや、舞台と映画のコラボレーションについて、たっぷりと語ってもらった。(すなくじら)

●中だるみ一切なしの盛りだくさん映画

ーー本作は、ミュージカル時代劇かつ死刑囚が活躍するという斬新な設定です。舞台×映画というプロジェクトの斬新さもあると思うのですが、このムビ×ステというプロジェクトの面白さをどこに感じましたか?

小柳心(以下、小柳):舞台とその映画が連動しているなんて、自分的には夢のようなコンテンツで。舞台の良さも映画の良さも両方わかっているからこそ、「両方とも面白いんだよ」ということを伝えたいというのはずっと思っていたんです。だから、こういうコンテンツに関われたのはすごく嬉しかったです!

ーー舞台と映画の魅力について、小柳さんはそれぞれどう考えていますか?

小柳:演者側はやることはあまり変わっていないと思うんですね。ただ映画の場合、観る側は家で観ることもできるし、移動中に観ることもできるじゃないですか。でも、舞台は1日かけて、その前に美容室に行ったりして、作品を観に来るわけですよね。とはいえ、コンテンツとしては全然違うんだけど、やってることの軸は似てる部分も大きい。だからこそ、その両方がうまくシンクロするというか。いい感じに化学反応が起こるような企画があればいいのに……と思っていたら、こんなところにありました(笑)。

ーー廣瀬さん、佐藤さんはいかがでしょうか?

廣瀬智紀(以下、廣瀬): 本作の魅力を1つあげるとしたら、ダークヒーローに焦点が定まっているところですね。悪者の美学みたいなものに、個人的な憧れもあって。エンターテインメントとして、歌やダンスなど、いろんなものが溶け込んでいった上で、悪者をまっこうから楽しんで演じられるというのは、こういう作品でないとなかなかできない気がして。今回は映像なので、スクリーンを通してそういうパワーをお届けできたらと思います。

ーーダークヒーローが活躍する作品でありながら、クスッと笑える一面も印象的でした。

小柳:そうなんです。しかも、完成した作品を観て思ったよね。「これ、そういえばミュージカルだったんだ……」って(笑)。

廣瀬:わかるわかる。芝居パートやって、音楽パートやって、みたいな感じで撮影していたからね。でもだからこそ、歌とその場面のテーマががっちりはまっているし、歌と芝居の塩梅が『邪魚隊/ジャッコタイ』をまとめる役割をうまく果たしてるんじゃないかなと思います。

佐藤流司(以下、佐藤):俺は音楽好きなんで、音楽ジャンルの表現なんですけど、オルタナティブロックっぽさを感じて。多分これって、大人たちが企画段階でぱっと思いついたものを全部入れたんじゃない? 勝手な想像ですけど(笑)。てんこ盛りの設定なんで、「まずミュージカルやろう」ってなって、「……でダークヒーロー系で。兄弟要素も入れたい!」みたいな。とにかく要素がたくさんあるので、観ていて飽きないなというのが最初の作品への時の印象でした。

ーー観た人に感想を聞いたら、どの要素が刺さるかは人によって違いそうですよね。

佐藤:そうだと思います。「どんな作品ですか」「どこが魅力ですか」ってありがたいことによく聞かれるんですけど、難しいんですよね。いっそこの作品に関しては、「ここを観てくれ」とか「ここが感動するから」みたいなそういう、おすすめの仕方じゃなくていいのかなって思ってます。それくらいずっと目まぐるしく展開していくから、中だるみがないんですよ。

阿久津仁愛(以下、阿久津):「めちゃくちゃ盛りだくさんだな」と、僕も思いました。時代劇ではありつつ、内容的にはファンタジー要素も多い作品なので。いろんな方に楽しんでいただけるんじゃないかな。あと映画だけど舞台要素が、曲やダンス、振り付けから感じられるのもいいなって思いました。観ていてわくわくドキドキするような感じが、魅力的だと思いました。

ーー舞台を観ているような迫力があるシーンも多かった印象です。

阿久津:ワンカット長回しのシーンも何個かあったので、そういうところが画面の迫力に繋がったんじゃないかなと。みなさんが、カメラの後ろで端から端まで大きく動いたりとかする場面もあるので。

橋本祥平(以下、橋本):ミュージカルと時代劇は、ものすごく相性いいよね。やっぱり江戸の町と言ったら自分の中では華やかというイメージがあって、それが歌により際立っているような感じもありましたし。舞台と映像両方できると本当に贅沢なことだと思います。僕はよく「映像とどっちが好き?」って聞かれるんですけど、めちゃくちゃ個人的に困る質問で(笑)。好きな両方を、同じ作品で同時にできたのはとても幸せでした。

ーー橋本さん演じるスルメは、拷問仕掛けの天才ということでなかなかインパクトのある役柄でした。

橋本:実はスルメを演じるにあたって、撮影スケジュール的にいけない日があって。ある意味代役の方と2人でスルメを作ったんです。普段は自分が出ている映像ってちょっとひきで観てしまうんですけど、今回は「がっつり」観ることができました(笑)。

一同:あははっ。

橋本:歌も入って、展開が進んでいくので、どの世代にもおすすめしたいですね。矢崎広さんと前にご一緒した時に、試写を観てくださっていて。「面白かった」と感想をいただいて嬉しかったです。そういう方が観ても面白いと思える作品だと、改めて胸を張って言えますね。

●常にディスカッションをしていた『邪魚隊/ジャッコタイ』の撮影現場

ーー今回の撮影は、何度もディスカッションを重ね進めていたとお聞きしています。具体的にはどんなシーンで話し合いがあったのでしょうか?

小柳:もうほぼ全箇所だよね?

佐藤:そうそう。

小柳:本当に舞台を作っているみたいな感じで、「このシーンをどうしていこうか」っていうのを話し合っては試行錯誤して……って感じですね。

廣瀬:監督が一緒に作っていくということを大事にしてくださっていたので、現場ではそれぞれが意見を出しやすかったです。「こういうふうにやれますかね」みたいな提案とかも受け入れてくださって。みんな呼吸をするように自分のキャラクターを演じていたので、「この人がそう演じるんだったら、じゃあ自分はこうしよう」としたシーンもありました。現場で演じながら生まれたものが、すごく多かったなという気がします。

橋本:途中から現場に入ったのですが、いきなりクライマックスシーンの撮影で、1回撮って、皆さんで話し合いが始まるんですよ。(その光景を見て)「なるほどな」と思いました。

廣瀬:特にクライマックスは、監督と僕らとあとプロデューサーさんと……みんなでずっと熱く語ってたよね。

小柳:しかもあの日の撮影って、確かスルメから撮ったんじゃなかったっけ?

橋本:そうです。現場に途中から入ったんですけど、いきなりそのまま(笑)。

小柳:(撮影時の橋本を見て)思ったんだよね。ああやって分からない時はスルメみたいに想像の倍の声量で声を出すって大事だなって(笑)。

一同:わははっ。

橋本:どのぐらいの力量でリハーサルをやっていたのかもわからないじゃないですか。だとしたらとりあえず(声を)出すしかないなって思って。

小柳:いいなって思った! 「俺たちそれぐらいやっていたかな?」みたいな気持ちになるじゃない。

ーーちなみに、時代劇ならではの工夫もあるのでしょうか?

小柳:俺はステゴロだったのでラリアットとか割といつもの感じでした。作品的にも、これ時々「時代劇なのかな」って思う時あったよね。

佐藤:俺も、特にその辺は意識してないです。

廣瀬:そこは役的に平馬が衣装も含めてそれっぽかったんじゃない?

阿久津:かもしれないです! 僕は初めてだったので、時代劇の世界観に右も左もわからない感じでした。でも所作とかは指導していただいたので、現場で学んでいくような感じで。歩き方だったり、刀の置き方だったり、立つ時は右足からみたいな、本当に基礎中の基礎みたいなことを撮影の合間に教えていただきました。めちゃくちゃ細かくて、ずっと「僕にできるかな!?」って思ってました(笑)。でも実際の撮影では割と崩してやっていいと言っていただけて。ゴリゴリの時代劇という感じではなかったですけど、知識としてはたくさん吸収できたかなと思います。

廣瀬:似たような話だと、所作だけじゃなくて着方、着こなし、服の捌き方とか。僕も今回、女型ではないですけど、比売知のキャラクター的にそこも意識しました。これまでもいろんな時代劇や時代ものの舞台をやらせていただいたんですけど、それが上手にできるとより一層映えるんです。

ーー比売知はコミカルでありながらも、要所はすごく美しかったです。

廣瀬:それはもう本当に、衣装とメイクチームのおかげです。でもある意味、役的には美しい自分を意識している部分もあったと思うので、そういったところはしっかりやらなきゃいけないなと思って。

ーーその点佐藤さんは今回、釣竿を使ってましたね。

佐藤:難しかったです、あれは。すごくしなるし、あんな長さのものを持ったことがないので非常に楽しかったです。だから刀を抜くシーンはすごいやりやすかったです(笑)。

ーーこれまで共演経験のある方もいらっしゃると思いますが、改めて互いに演者として尊敬しているポイントを教えてください。

小柳:(廣瀬を見て)彼は大人ですね。立ち居振る舞いが非常に大人で勉強になります。自分もいい年齢なので、こういう風に現場でいたいなというようなことはあるんですけど、特に彼はいつもフラットなんですよね。僕はなかなかそれができない人間なので、それはすごくいいなと思います。

廣瀬:そこを褒めていただいて、素直に嬉しいです。

ーー廣瀬さんは、現場でそういった振る舞いを心がけているのでしょうか?

廣瀬:そこまで意識はしていないですね。ただ、現場っていろいろ柔軟に対応しなければいけないことも多いので。瞬発力でちゃんと対応できるようにしないといけないなというのは、常に考えてはいます。

ーーでは廣瀬さんから佐藤さんについてお願いします。

廣瀬:流司は、やはり“佐藤流司”なんですよね。今回は座長として、トップ且つ真ん中に立ってくれていますけど。彼のすごさって、「佐藤流司がそこにいてくれる安心感」を周りに与えてくれるというところなのかなと。現場も、それだけでやはり一つ締まった空気にもなりますし。何度か作品で共演はありましたが絡むシーンはなかったので、ちょっと危なそうな、触ったら棘があるようなイメージもあったんですけど(笑)。

佐藤:はははっ。

廣瀬:今回初めてがっつり共演させていただいて、気さくに話せて、冷静にいろんなものを見ていて……そういったところにギャップを感じて、すごく魅力的な方だなと思いました。

佐藤:仁愛は……目の色素が薄いところですかね。目が茶色くて綺麗。俺、色素が薄いのに憧れるんですよね。人の芝居を評価したくないので、芝居については何も言えないんですけど、今回は“仁愛っぽい芝居”だったなと思います。

阿久津:すごく嬉しいです。割と感情を秘めているというか、あまり放出しないけど抱えているような、そういう役が多いのでハマったのかもしれません。

ーーでは、阿久津さんから橋本さんにお願いします。

阿久津:さっきも話に出ていたと思うんですけど、(橋本の)撮影が後半にぎゅっと入ってらっしゃったんです。そうなると、邪魚隊として現場の空気感が固まってる中に入ってくることになるのですが、一瞬でその空気に馴染めてたことにとても尊敬しました。僕には絶対無理です(笑)。すでに空気が出来上がっている現場に途中から入るのは、耐えられない気がします。

ーー橋本さんは、すでに関係値が出来上がっているグループなどに飛び込んでいくのは得意なタイプですか?

橋本:もうやるしかないと思いました。クライマックスのシーンだし、足を引っ張るわけにはいかないという気持ちもあって。でも先ほど仁愛くんが言ってくれたように、馴染んでたように見えていたなら、それは心さんの存在が大きかったような気がします。皆さんが歓迎してくださったというのもあるんですけど、やはり現場に心さんが1人いたら、いい作品になるんだろうなと思わせてくれる存在ですね。体も器も大きい方です、心さんは。

ーーでは最後に、今回の現場で一番刺激を受けたことを教えてください。

橋本:そもそも太秦(うずまさ)で撮影できることって本当にないと思うので、まずあの地で撮影できたというのが1つの大きな刺激です。「またここに戻ってこれるように頑張ろう」という気持ちになりました。ほんとに皆さんから得たものはたくさんあるのですが、でもこの映画『邪魚隊/ジャッコタイ』って、やっぱり佐藤さんの作品だと思うんです。佐藤さんの背中を間近で見れたことは、僕にとってかなり刺激的でした。

阿久津:たくさんの刺激を受けた作品だったんですけど、「お太鼓教」の幹部・刈谷役の吉岡(睦雄)さんのお芝居を、近くで体感しなきゃいけないシーンが多くて。本当に全力でコメディ全開のお芝居をやられていて、笑いを堪えるのに必死でした。それが自分の中では刺激になったというか、「こういうことができるようになれたら、自分の視野もお芝居の幅も広がるだろうな」と思った瞬間でもありました。

佐藤:舞台だと、役者同士のディスカッションを重ねながら1カ月半ぐらいかけて作品を作り上げていくことが多いんです。でも今回の映画は、かなり世界観がぶっ飛んでいて、「これはどういうことなんだ?」とある意味疑問に思うようなシーンもあったので、役者と監督の間で盛んにディスカッションが行われてて。でもそんな中で、石井(一彰)さんがすっと来て、そのまますっとお芝居される方だったんで、「役者にできないことなんかないんだ」って思いました。「難しい」なんて甘えたことは言っちゃいけないなと。

廣瀬:ワンカット長回しのシーンの撮影では、町民役の方々にも参加していただいたんです。その時代にほんとに生きているかのように自然で。そういう方々の力があってこそ、この作品の世界観が成り立っているんだなと実感しました。大作映画のエキストラさんと一緒に撮影する時も同じことを感じるかもしれませんが、時代劇ならではの雰囲気もあって、今回より強くそれを感じられて面白かったです。

小柳:やっぱり何と言っても、時代劇の聖地・太秦を走り回れたことが一番の刺激でしたね。俺ら役者にとって太秦はメッカみたいな場所ですから。「現場どこ行くの?」って聞かれた時に「ちょっと太秦なんだよね」なんて答えられるのは最高にカッコいいですよ。

廣瀬:ほんとそう。言いたいワードナンバーワンだし、流司に実際言われました。

佐藤:ははっ。たしかに言いました(笑)。

小柳:いろんな刺激はもちろんあったんです。監督と一緒に作品作りをするのもそうですし、このメンバーでいろいろな経験ができたこともそう。でもその中でも、太秦で撮影できたというのは我々からすれば本当に名誉なことですね。

(文=すなくじら)

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