一攫千金も夢じゃない?「一口馬主」クラブ選択のコツと注意点…名馬・ロードカナロアを持っていた生産者が解説【表あり】

人気のサンデーTCはチェルヴィニアがオークスV(C)日刊ゲンダイ

中央競馬はダービーを終え、この週末からは来年のダービーに向けて2歳新馬戦が始まる。オレもいつかは、ダービー馬のオーナーに。そんな夢を描く競馬ファンは少なくないだろう。サラリーマンで個人馬主は難しいが、いわゆる「一口馬主」ならチャンスがある。

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今年のGⅠのうち高松宮記念を制したマッドクールとオークス馬のチェルヴィニアは馬主がサンデーレーシングで、NHKマイルCで2つ目のタイトルを獲得したジャンタルマンタルは社台レースホースが馬主だ。いずれも、一口馬主のクラブとして知られる。

昨年のジャパンCを最後に種牡馬入りしたイクイノックスは生涯で22億1544万円に上る賞金を獲得。今年3月にウシュバテソーロに抜かれるまで歴代最高賞金を誇った。その前に“女帝”として君臨したアーモンドアイは歴代獲得賞金ランキング3位で19億円を超える。この2頭は一口馬主クラブのシルクレーシングが馬主だ。

サラリーマンの生涯賃金は大卒男性の場合、2億7000万円ほどだから、2頭は稼働した3、4年でサラリーマン7、8人分の生涯賃金を稼ぎ出したことになる。のどから手が出るほどうらやましい話だ。そんな馬の一口馬主は笑いが止まらないだろう。

さて、一口馬主のクラブをチェックする前に、その仕組みを解説しておこう。一口馬主は、競走馬の持ち分を分割して出資する人を指す。一口馬主のクラブには、愛馬会法人とクラブ法人の2つがあり、会員となった一口馬主は愛馬会法人に出資。クラブ法人は、中央競馬と地方競馬に馬主登録があり、愛馬会法人から馬を現物出資されて、レースに出走させる。この全体を総称して、一口馬主クラブといわれている。

「私もサラリーマン時代に競馬が好きで、ほとんどすべての一口馬主クラブの会員になりました。ロードカナロアとシーザリオもそれぞれ1口ずつ持っていたので、大きな喜びも得られましたが、クラブはよく調べることが重要です」

こう言うのは、競走馬の生産を手掛けるシグラップ・マネジメント社長の杉浦和也氏だ。ロードカナロアといえば、今年引退した安田隆行調教師が「短距離王国」を築く礎となった馬で9億円近くを獲得し、種牡馬としても活躍。日米オークスを制したシーザリオは繁殖牝馬としてエピファネイアやリオンディーズ、サートゥルナーリアと3頭のGⅠ馬を輩出している。野村系やメリルリンチ系の資産運用会社を引退後は、馬産の世界に転じた異色のキャリアの持ち主だ。そこで一口馬主を始めるときのコツや注意点を聞いた。

募集価格は2000万円から3000円万円

〈表〉は、現3歳世代の総獲得賞金でクラブをランキングしたもの。トップのサンデーと3位キャロット、4位シルクは主にノーザンファームの生産馬を扱うクラブ。2位社台は社台ファームが中心で、5位G1は追分ファームや白老ファームが中心だ。これらの牧場はいずれも社台グループで、いわば“同門”。中でもノーザンファーム系がリードする格好だ。

そうすると、これらのクラブの会員になって、一口馬主ライフをスタートしたいと思うが……。

「ノーザンファームや社台ファームの生産馬を扱う5大クラブはGⅠ馬の宝庫だけに人気が集中。各クラブが毎年、募集する馬はほとんどが1次募集で分割口数を上回る状態です。なおかつこれまでに多くの金額を出資した人が優遇される抽選体系のため、新規出資者が抽選を突破するのは狭き門。新規参入するなら、ほかのクラブを選ぶ方が一口馬主ライフを楽しめます」

〈表〉にある10クラブの募集価格中央値は1400万~4000万円で、〈表〉以外を含めても中央値は2000万~3000万円前後。これは1頭全体の金額だから、募集口数で割ると1人当たりの出資金額になる。〈表〉の10クラブでは、募集口数は40~500口と幅がある。それぞれ募集価格中央値で計算すると、人気のサンデーは1口100万円、社台は同75万円と高額だが、ラフィアンは同16万円、シルクは同7万円、ノルマンディーは同3万5000円とかなりバラつきがある。

人気の5大クラブとなると、1億円を超える良血馬もズラリ。そんな高額馬に夢を託し、応募して抽選を突破したら、出資段階で数百万円の支払いもあり得る。

YGG、インゼルは勝ち上がり率40%

そこで注目は、勝ち上がり率だ。人気のサンデーや社台、キャロット、シルクといえども、3歳馬の勝ち上がり率は4割ほど。逆にいうと、過半数の馬は未勝利だ。この現実と抽選の厳しさを加味すると、ほかのクラブを狙う選択肢も十分あるだろう。たとえば、ロードの勝ち上がり率はこの4つに次ぐ35%。

〈表〉にはないが、3歳に桜花賞④着馬スウィープフィートがいるYGGの勝ち上がり率は41.7%で、ダービー馬ドウデュースの馬主・松島正昭氏が設立に関わったインゼルは同40.0%。人気のサンデーや社台に匹敵する勝ち上がり率だ。3歳世代のみのデータとはいえ、注目だろう。

古くはタイキの冠名の有力馬は引退した藤沢和雄厩舎に入厩していたように、クラブごとに有力厩舎とのパイプがある。たとえばノーザン系クラブは、関東なら木村師や国枝師など、関西では友道師や藤原師などに預けられることが多い。そんなパイプも重要なチェック項目だという。

「広尾サラブレッド倶楽部がそのひとつです。このクラブの有力馬は世界的トレーナーの矢作厩舎が管理することが多く、パンサラッサは矢作師の手腕でドバイターフに加えて、世界最高賞金のサウジCも勝っています。この強力なラインは見逃せませんし、広尾は募集口数が1000~4000と大きいので出資負担が軽いのも魅力です」

そのパンサラッサは1口2万5000円で2000口、総額5000万円だった。サウジCの勝利で総獲得賞金は18億5000万円に上ったから、1口分で90万円を儲けた計算だ。

■芝よりダートで大化けの期待

クラブを決めて出資するなら芝向きの馬か、ダート向きか。

「ステータスの高さを求めるなら芝向きですが、芝向きの良血馬は概して高額です。種牡馬になったキタサンブラックは当初、種付け料が500万円でしたが、産駒のイクイノックスの活躍で今や2000万円に。芝向きなら、産駒が活躍する前の新種牡馬は安く購入できます。しかし、より安さと大化けを期待するなら、ダート馬でしょう。ダート馬は芝馬より息の長い活躍が見込めるし、最近は地方競馬が活況で賞金も増額傾向。狙って面白いのはダート馬です」

たとえば高知所属のユメノホノオは、落札価格の41倍となる約1億1400万円を稼いでいる。個人所有とはいえ、芝馬では考えられないような低価格馬の大化けだ。一口クラブでもダート馬狙いは悪くない。

「昨年のJBCクラシックを勝利したキングズソード(1口9万円×200口)は、ユニオンオーナーズクラブの馬。日高の生産牧場が集まって設立されたクラブでノーザン系などに比べると安い。こういうクラブで掘り出し物の産駒を見つけるのも面白いと思います」

一口クラブを検討する場合、最初の出資金だけでなく、毎月のコストも忘れてはいけない。

「中央の場合、厩舎に払う毎月の預託料は約70万円。放牧先の費用はもう少し安いものの、2歳1月から毎月、月会費のほか預託料がかかり、これを口数で割って負担します。40口なら2万円近く、1000口なら700円。クラブに入会して1頭でオシマイということはなく、翌年にもう1頭買うと、1頭目が引退するまで2頭分の負担になる時期が続きます。購入頭数を増やせばその分負担は重くなる。自分の馬が活躍して海外遠征となれば、莫大な渡航費も口数で分割です。ですから、一括払いと10回程度の分割払いを選択できる馬の出資金は一括払いにして、毎月の負担を抑えるのがコツ。買い増す分の預託料の増額を念頭に置いておかないと、家計が厳しくなります」

その点で、慎重な出走スケジュールを組む厩舎ではなく積極策を取る厩舎に入厩予定の馬を狙うのも手だという。

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獲得した賞金は全額がそのまま分配されるわけではなく、手数料などが引かれるため、手取りはその6~7割。愛馬の勝利と副収入を期待して、チャレンジしてみますか?

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