2代目シトロエンC4は強い個性を捨て普遍的なイメージの上質なモデルとなっていた【10年ひと昔の新車】

2010年9月に開幕したパリオートサロンで2代目シトロエンC4が世界初公開され、欧州で販売が開始された。日本上陸は2011年6月まで待たなければならなかったが、Motor Magazine誌は発表間もなく行われた国際試乗会に参加しているので、今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年12月号より)

新型C4では普遍的なイメージと使い勝手を追求

シトロエン車に求められる期待感とは、いったいなんだろう。風変わりなデザイン? ハイドロサス? 独創的な操作方法? そのポイントは人それぞれではあろうが、輸入車の中にあっても際立って個性的な「他車では得ることのできない何か」を求める人にこそ注目されるブランドであるという点に異論を挟むのは難しいはずだ。

となると、今度のC4に対するコアな「シトロエンファン」の反応は、走り始める以前から予想がつく。何しろ新型C4からは、まるでUFOが着陸したかのような「透過型デジタルディスプレイ」が姿を消し、パッド部分が回らない「センターフィックス・ステアリング」がリスト落ちし、8種類のフレグランスの香りが楽しめる「パルファム・エアフレッシュナー」も見当たらない。そうしたディテールに目をやる前の段階で、「まるでVWゴルフのようになった」プロポーションがNGだという人もいるに違いない。彼らの目からすれば今度のC4は、シトロエン度が低下したのは明らかなのである。

一方で、開発陣の立場からすればC4をこうした形でモデルチェンジすれば、そのような声が沸き上がるということは百も承知であったはず。だからこそ、それをわかっていた上でモデルチェンジを行った今度のC4には、それゆえの価値があるという見方もできるわけだ。

シトロエンはこれまでのヒストリーを礎として、普遍的モデル作りにいそしめば「らしくない」と評され、それではと独創的な方向へと物事を推し進めると、途端に経営危機が身近に迫るという難しい立場に身を置くメーカーだ。

その中にあって、今のタイミングでの最適解としてリリースした基幹モデルが今度のC4と解釈すべきだろう。たとえば、丸味を帯びたボディリアセクションの造形が大きな特徴だった従来型5ドアは、それもあってか「クラス最小ボリューム」に甘んじた荷室に不満の声が挙がっていたという。そこで、基本骨格をキャリーオーバーしながらも、今度はそこを「クラス最大」へ昇華させたのが新型なのだ。

こうして、基幹モデルでは普遍的なイメージと使い勝手を追求した上で、強い個性は「DSライン」で演じようというのが今のシトロエンの考え方。だから、ラインナップから落ちた3ドアの『クーペ』は、先日のパリオートサロン2010で披露されたDS4が狙うキャラクターへと発展的に解消されたと受け取るべきだ。

路面を問わないしなやかさが走りのハイライト

デンマークとスウェーデンの国境地帯で開催された国際試乗会で乗ることができたのは、BMWとの共同開発によって生まれた1.6Lのターボ付き直噴4気筒エンジン搭載の『THP155』と呼ばれるモデル。組み合わされるのはヨーロッパでも、EGSと名乗る2ペダル式MTのみ。このほか、日本には120psを発する自然吸気の1.6Lモデルが4速ATとの組み合わせで導入される予定というが、こちらは試乗車の準備がなされていなかった。

「この期に及んで」のシングルクラッチ式2ペダルMTは、トルコンATに乗り慣れた人には変速時の駆動力の断絶が違和感と感じられるはず。その分、アクセルワークにすこぶるリニアでダイレクトなトルク伝達感が大きな魅力だし、最高出力156psのパワーも約1.3トンという重量に対しては十分な速さを感じさせてくれる。

しかし、結論としてはやはりこのEGSは、あくまでも「MTの1種」という感覚が大。こうなると、当然ながら日本で販売のメインとなるのは、今回は乗ることができなかった自然吸気モデルであるはず。ただし、トルコンATが4速仕様というのは大きなハンディ。兄弟ブランドであるプジョー車ではATの6速化が始まっているので、こちらも一刻も早く追従してもらいたい。

新型C4の走りで感心したのは、路面を問わず素晴らしいしなやかさを味わわせてくれるフットワークだった。タップリとしたストローク感とゆったりとした乗り味を、正確でそれなりに機敏なハンドリングの感覚と両立させたのは、このモデルの走りのハイライトであろうと思う。「今度のC4はハイドロを採用」と、そう言ってしまえば多くの人を騙せそうなその乗り味は、見た目や装備が変わっても「シトロエンならでは」なのだ。

インテリア各部の質感などはこの項目では定評のあるVWゴルフと同格にまで高められ、静粛性も大きく向上した新型C4は、今や全般的には、小さな高級車と称しても決して大袈裟には思えないほどの上質さの持ち主。そして、「そんなものは望まない」というシトロエンフリークに対しては、DS4が見せ場を作ってくれることになるはずだ。(文:河村康彦)

タップリとしたストローク感とゆったりとした乗り味を実現。路面を問わず素晴らしいしなやかさを味わわせてくれた。

シトロエンC4 THP155 主要諸元

●全長×全幅×全高:4329×1789×1489mm
●ホイールベース:2608mm
●車両重量:1275kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:115kW(156ps)/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1400-4000rpm
●トランスミッション:6速AMT
●駆動方式:FF
※EU準拠

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