暑さに負けない体を作る! 夏になってからでは遅い…医師に熱中症対策のポイントを聞いた

暑さに強い体を作るには(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

各地で季節はずれの暑さが観測されるなど、今年は早くから熱中症への注意が呼びかけられています。本格的な暑さが訪れる夏を前にした今の時期は、体が暑さに順応する、いわゆる暑熱順化(しょねつじゅんか)がまだできていません。そのため今から熱中症に注意し、対策に取り組む必要があります。そこで、「熱中症からいのちを守る」(評言社刊)の著者である、医師の谷口英喜先生に、早めに取りかかるべき熱中症対策のポイントについてお話を伺いました。

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熱中症に強い体作り 「夏にスタート」では遅い

初夏は高温になる日もあり、暑さに慣れていない体は急激な温度上昇に対応できず、熱中症などで体調を崩す人が少なくありません。谷口先生によれば、暑さに強い体作りは暑くなってからではなく、一年中心がけたいところ。

その基本として、「脱水症になりにくい体」と「暑熱順化(暑熱環境への順応)」を意識した栄養素の摂取を挙げています。

○たんぱく質とロイシンを含む肉・魚
体内の水分の約半分が筋肉に貯蔵されることから、筋肉量を増加させて脱水になりにくい体を作ることが大切です。筋肉量を増加させるには、たんぱく質が必要。とくにロイシンというアミノ酸は、筋肉の合成を促す効果が高いので、豊富に含む肉や魚を積極的に食べるのがおすすめです。

○タウリンを含む魚介類や栄養ドリンク
タウリンは、魚介類や栄養ドリンクに豊富に含まれています。タウリンといえば、筋肉疲労を回復させる効果や、体のさまざまな機能を調節する働きがあることで知られていますが、近年、深部体温を下げる働きがあることも研究結果からわかっています。熱中症シーズンに改めて意識したい栄養素です。

○ビタミンCを含む野菜
ビタミンCには抗酸化作用があるので、体内の活性酸素を減らすことで細胞を守り、炎症を軽減してくれる作用があります。そのため、暑さのダメージに対抗しやすくなる暑熱順化をサポート。

タウリンとビタミンCは水溶性のため、魚介類や野菜を煮てスープにすると◎。栄養素が汁に溶け出し、水分補給にもつながります。これらの栄養素を意識しながら、バランス良く栄養を摂取するといいでしょう。

塩分と水分をバランス良く摂ることが大切(写真はイメージ)【写真:写真AC】

暑くなってきたら水分摂取を意識しよう

暑くなってきたら、併せて水分摂取を意識しましょう。ただし、注意点があります。それは「水だけ」を摂取しても意味がなく、むしろ危険ですらあるということ。塩分であるナトリウムなどを適度に摂取しつつ水分補給をしないと、体内に水が吸収されにくく、さらに残りにくいためです。

また、水だけを多量に摂ると、体内の塩分濃度が極端に下がってしまうことでいわゆる水中毒となり、低ナトリウム血症を起こすリスクがあります。逆に塩分のみで水分を摂取しないことも、水分の実質的な補給につながらずに危険です。塩飴や梅干しを摂取するときには、1つにつきコップ1杯の水分を併せて摂りましょう。

汗をかくと、水のほかに電解質やビタミンも失われ、脱水症の原因になります。水と併せて電解質であるナトリウム、カリウム、マグシウムとビタミンB1を摂ることも重要ですし、加えて前述の暑熱順化を意識した栄養素も積極的に摂るといいでしょう。

熱中症かも? まずやるべきこととは

めまいや顔のほてり、筋肉痛や痙攣、だるさや吐き気など、「熱中症かも?」と疑うような症状がみられたら、汗で失われた電解質とともに水分をたっぷり摂ることが大切です。水、ナトリウム、カリウムを迅速に、適正濃度で摂取できる「経口補水液」をできるだけ早い時期に多めに飲みます。

水分補給をする際、牛乳やアミノ酸飲料などは避けましょう。含まれているたんぱく質が、体温をさらに上昇させてしまうことがあるからです。

万が一、ペットボトルのフタを自力で開けて飲めないくらい重症の場合は、すぐに病院を受診しましょう。

症状が軽度の場合は、風邪などのウイルス感染や貧血など、何が原因で体調が悪いのかがわからないものですよね。谷口先生によると、経口補水液を飲んだあと、ほどなくして症状が改善したら、脱水症による体調不良であった可能性が非常に高いそうです。

経口補水液は、小腸から最も水分が吸収されやすい割合で、水・塩分・糖分が配合されている飲料です。もし、経口補水液を1000ミリリットルほど飲んでも症状が改善せず、咽頭痛や発熱が残るときは、別の病気の可能性があります。その場合も、速やかに病院で診てもらいましょう。

谷口 英喜(たにぐち・ひでき)
医師、済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長。麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理のエキスパート。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、TNT-Dメディカルアドバイザー。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。2024年5月に新刊「熱中症からいのちを守る」(評言社刊)が刊行。そのほかの著書に「いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ」(評言社刊)などがある。

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