「育休、何日取得する気なんだ?」「最近の人はいいよね。“気軽に休める制度”があって」…日本にはびこる〈休暇=悪〉という職場

(※写真はイメージです/PIXTA)

社員の「やる気」が出ないのは、個人の努力が足りないからだと考える人も多いかもしれません。しかし実際は、上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気が下がってしまう」ケースも少なくないのです。松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部抜粋し、「組織が疲弊していく会社」にありがちな問題とその改善策を見ていきましょう。

【典型例】子育て、介護で働きにくい

⇒働きやすい制度の不足・不備がある組織

休むことが「悪」の職場

■「休みにくい」「休めても周囲の視線が気になる」

出産・育児に関する休暇制度がちゃんとあるにもかかわらず、実際はなかなか休みづらいという話は枚挙にいとまがありません。

「子どもが急に熱を出しても他に仕事を代われる人がいないから、なかなか休めず、いつも子どもを看てくれる人を探すのが大変」

「出産で半年後に休むと言ったら、陰で『その時期、毎年大変だってわかっていないのかなあ。もう少し考えて欲しいよね』と言われていた。しかも、実際に席を空けて待ってはいられないからと、休みに入る前から違う仕事の部署に異動させられて、キャリアが分断してしまった」

「1人目のときは妻が育休を取ったので、2人目は自分が育休を取りたいと上司に相談したら、『何日取る気なんだ。何日だ?』としつこく言われた。それって、実質ダメって言われているようなものでは…」

休めたとしても、回数を重ねるにしたがって周囲の人がよそよそしくなったり、「最近の人はいいよね。気軽に休める制度があって」と嫌味を言われることも。

出産・育児だけでなく、介護休暇や特別休暇、有給休暇などでも同様のことが繰り返される。

「地方に住む父が倒れ、入院の手配や介護などでヘトヘトなのに、休んだ間のお詫びとしてお土産を買っていかないといけないし、挨拶をして回らないといけないし。謝ってばかりいると、『私って、そんなに悪いことしているの?』って。精神的にも金銭的にも負担が大きい…」と、安心して休めるような雰囲気が職場にないことも。

結局、「この職場でこれ以上仕事を続けるのは難しいかな」と転職を考える人も少なくありません。

【改善策】「事」と「人」、両輪のマネジメントを行う

■その人の置かれた状況や気持ちを理解すれば、感謝の気持ちも生まれる

マネジメントにおいては、「事(タスク)」だけではなく、何よりも「人」が重要です。そんなことは当たり前と思うかもしれませんが、実際は、「事(タスク)」中心でマネジメントをしていることが多いのです。

「このプロジェクトを成功させるためには、誰が何をするのか」

「今期の売上目標を達成するために、誰がどれだけ売上を上げていくのか。そのために、今、何をするのか」

「今のチームに欠けている〇〇という役割を担えるのは、アナタしかいない。そのためにこの研修を受け、成長していって欲しい」

これらはすべて、「事(タスク)」中心のマネジメントです。「事(タスク)」の完遂が重要なので、人に何をやってもらうかを決めて動かしているだけです。予定外の「休み」はその計画を阻害するもの、周囲の足並みを乱すものとして歓迎されません。

一方、「人(マインド)」のマネジメントは、その人の置かれた状況や気持ちを理解することからはじまります。

【子どもが熱を出したのに、頑張って仕事をしてくれている】⇒【子どもも仕事もどっちも気がかりで、大変な思いをしているに違いない】⇒【まずは、ねぎらいの言葉をかけよう】⇒【急な発熱にも対応できるような働き方・仕組みを一緒に考えてみよう】と、対応が変化していくはずです。会社の事情によって、急には特別な対応ができなかったとしても、【大変な状況のなかで、それでもわが社で仕事をしてくれている】という感謝の気持ちを持ち、その感謝が伝われば、社員の組織への信頼感が高まるはずです。

■今の状況は変化する。長期的な視野に立った価値に気づく

人の一生のなかで、「会社で働く」というのは、ある一部の役割でしかありません。

個人の生涯発達と職業との関係を研究したドナルド・E・スーパー氏は、人が一生涯に果たす役割は、「子ども」「学習する人」「余暇を楽しむ人」「市民」「職業人」「家庭人」などいくつもあり、それらの役割は「家庭」「学校」「地域社会」「職場」「施設」などの生活空間で演じられると考え、「ライフ-キャリア・レインボー」という概念モデルをつくりました。

さらにスーパー氏は、これらの役割は固定的なものではなく、個人によって、環境によって、その時どきの比重が変化することも示しました。人生100年時代となり、その比重の変化は個人によって大きく異なるはずです。そのような人生のなかの1つである「職場」において、さまざまな役割を担っているその人に、どのように活躍してもらうのか。1人ひとりに向き合ったマネジメントが必要になるのです。

その人が今、置かれた状況も永遠のものではなく変化します。育児や介護などがあり、今は仕事に全力でできない時間があったとしても、それがひと段落すれば、また活躍できるようになるかもしれないわけです。長期的な視野に立てば、「ここで長く働きたい」と思ってもらうことのほうが、企業と個人のWIN-WINな関係になるはずです。

私は、人も、企業も、それぞれの価値を大事にしながら、WIN-WINの関係が実現できる「人と企業の価値の交換」が重要だと考えています。どちらか一方が、自分の価値を押しつけるのではなく、互いに尊重し合い、ともにプラスになる。そのような立場に立ったマネジメントを実現して欲しいと切に願っています。

松岡 保昌

株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長

1963年生まれ。1986年に同志社大学経済学部卒業後、入社したリクルートで「組織心理」学び、ファーストリテイリング、ソフトバンクでトップに近いポジションで「モチベーションが自然に高まる仕組み」を実践。

現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)がある。

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