高級ブランド香水の原材料調達に児童労働とのつながり、BBCの調査報道で判明

アフメド・エルシャミー、ナターシャ・コックス(BBCアイ・インヴェスティゲーションズ)

大手香水メーカー2社のサプライヤーが使う原材料が、子どもによって収穫されていたことが、BBCの調査で分かった。

BBCが昨夏に行った香水のサプライチェーンに関する調査で、「ランコム」と「エアリン・ビューティー」に材料を提供するサプライヤーが使用したジャスミンが、未成年者によって収穫されていたことが判明した。

ランコムを所有する仏化粧品大手ロレアルは、同社は人権尊重に注力していると語った。エアリン・ビューティーを所有する米エスティ・ローダーは、この件についてサプライヤーに連絡を取ったと述べた。

ランコムの「イドル・ランタンス」と、エアリン・ビューティーの「イカット・ジャスミン」および「リモーネ・ディ・シチリア」には、主要な原材料としてエジプト産のジャスミンが使われている。エジプトは、ジャスミン花の世界生産量の半分を占めている。

BBCが取材した業界筋によると、多くの高級ブランドを所有する一握りの企業が予算を切りつめており、材料費の支払い額が非常に安くなっている。そのため、エジプトのジャスミン収穫者たちは、収穫作業に子どもを使う羽目になっているのだという。

取材を通じてBBCは、香水業界がサプライチェーンをチェックするために使う監査システムに、深い欠陥があることを発見した。

BBCは、昨年の収穫期にエジプトのジャスミン畑で潜入取材した際の映像などを、国連特別報告者(現代的形態の奴隷制担当)の小保方智也氏に見てもらった。小保方氏は、BBCワールドサービスが集めた証拠に心を痛めていると述べた。

「書類の上では、業界はサプライチェーンの透明性や児童労働との闘いなど、良いことをたくさん約束している。しかしこの映像を見る限り、業界は約束を実際には実行していない」と、小保方氏は指摘した。

子ども4人と働き、一晩で256円の収入

エジプトのジャスミン産地、ガルビーヤ県の村に住むヘバさんは、午前3時に家族を起こし、太陽の熱が花に傷める前にジャスミンの収穫を始める。

ヘバさんは、収穫を自分の4人の子どもに手伝ってもらう必要があると話す。子どもたちの年齢は5歳から15歳だ。

エジプトの多くのジャスミン収穫者と同じように、ヘバさんはいわゆる「個人収穫者」として、小規模農家で働く。ヘバさんと子どもたちは、収穫すればするほど収入が増える。

BBCが撮影した夜、ヘバさんは子どもたちと一緒に1.5キロのジャスミンの花を摘んだ。地主に収入の3割を支払った後、ヘバさんが手にしたのはおよそ1.5ドル(約256円)だった。エジプトのインフレが過去最高水準にあり、労働者がしばしば貧困ライン以下で生活していることを考えると、この価値は以前よりも低くなっている。

ヘバさんの10歳の娘、バスマラちゃんは、目に深刻なアレルギー症状が出ていると診断された。BBCが同行した診察で、医師はバスマラちゃんに、炎症を治療せずに収穫を続ければ、視力に影響が出ると言った。

ジャスミンは収穫と計量を終えると、花から精油を抽出する地元の工場に運ばれる。主な3社は「A・ファクリ・アンド・コー」、「ハシェム・ブラザーズ」、「マチャリコ」だ。毎年、ヘバさんのような人々が収穫したジャスミンの価格を決めるのはこうした工場だ。

エジプトのジャスミン産業に携わる3万人のうち、何人が子どもなのかを正確に言うのは難しい。しかし2023年の夏、BBCはこの地域を撮影し、多くの住民に話を聞いた。住民らは、ジャスミンの価格が安いため、子どもを仕事に参加させる必要があると語った。

BBCは4カ所で、主要工場にジャスミンを供給する小規模農家で働く収穫者のうち、かなりの数が15歳以下の子どもだと目で見て確認した。また、複数の情報源から、マチャリコが直接所有する農場でも子どもが働いているとの証言を得た。BBCがこの農場で潜入取材を行ったところ、12歳から14歳までの収穫者を発見した。

エジプトでは、午後7時から翌午前7時の間に、15歳以下を働かせることは違法だ。

工場はジャスミンの精油を国際的な香料メーカーに輸出し、そこで香水が作られる。たとえば、スイスに本社を置くジボダンは最大手の一つ、A・ファクリ・アンド・コーとは長年の取引関係にある。

しかし、調香師のクリストフ・ロダミエル氏をはじめとする複数の業界関係者は、香料メーカーの上にはさらにロレアルやエスティ・ローダーといった香水企業がおり、全ての権力を握っているのだと指摘する。

「マスターズ」と呼ばれるこうした企業は、指示書と共に、非常に厳しい予算を香料メーカーに与えるのだと、ロダミエル氏は述べた。

こうした香料メーカーで何年も働いた経験のあるロダミエル氏は、「マスターズの興味は、香水びんに入れる精油をできるだけ安く手に入れ、それをできるだけ高く売ることだ」と述べた。

「実際のところ、収穫者の給料や賃金、ジャスミンの実際の価格などは、マスターズは管理していない」

しかし、予算が決められているため、賃金への圧力は「下へ下へと伝わり」、最終的には工場、そして収穫者まで波及すると、ロダミエル氏は指摘する。

「商品のPRトークではいかに(原材料が)貴重かうたうものの、実際に収穫者に与えられるものとの間には、大きな断絶がある」

香水企業や香料メーカーは宣伝資料の中で、倫理的な調達慣行を描いている。また、サプライチェーンに関わるすべての雇用主が国連との誓約書に署名し、安全な労働慣行と児童労働の撤廃に関するガイドラインを順守すると誓約している。

そのため、問題は香水企業がサプライチェーンを監督していないことだと、ジボダンの幹部役員は語った。

匿名を条件に取材に応じたこの幹部は、香料メーカーが第三者監査企業にデューデリジェンス(適正評価)のチェックを指示していることに、香水企業は頼ってしまっていると述べた。

化粧品コングロマリット(複合企業)や香料メーカーがウェブサイトで、そして国連が書簡で名前を挙げることが最も多い監査企業は、セデックスとUEBTだ。これらの企業の報告書は一般に公開されていない。そのためBBCは、倫理的に調達されたジャスミンを探しているバイヤーを装い、エジプトのA・ファクリ・アンド・コーから、2社の報告書を送ってもらうことに成功した。

UEBTの報告書は、昨年の工場訪問を元に作成されていた。そこには人権に関する問題が示唆されていたが、詳細までは記載されていなかった。こうした指摘にも関わらず、A・ファクリ・アンド・コーは「認証」を受けている。つまり、「責任を持って調達されたジャスミンオイル」を提供していると公言できる。

UEBTはこれに対し、「一社は、2024年半ばを有効期限とする行動計画に沿って、責任ある調達を行っていると証明を発行された。(中略)もし計画が実行されなければ、証明は取り消される」と述べている。

セデックスの報告書もこの工場を高く評価している。しかしその報告書から分かるように、訪問監査は事前に予告されたもので、監査対象は工場敷地のみ。ジャスミンを調達している小規模農園は、監査に含まれていなかった。

セデックスはBBCに対し、「同社はあらゆる形態の労働権侵害に断固反対する。しかし、環境と人権のリスクや影響をすべて明らかにし、是正するために、一つのツールだけに頼ることはできないし、頼るべきでもない」と回答した。

世界のサプライチェーンにおける人権改善を目標とする「責任ある契約プロジェクト(RCP)」の創設者であるサラ・ダドゥッシュ弁護士は、BBCの調査によって「これらの監査システムが機能していないことが明らかになった」と述べた。

また、問題は「監査企業が監査料をもらっているものしか監査しない」ことであり、これには児童労働の「主要な根本原因」となっている、労働力への対価という項目が含まれていない可能性があると指摘した。

A・ファクリ・アンド・コーは、所有する農場と工場の両方で児童労働が禁止されていると述べた一方、工場で使うジャスミンの大半は個人収穫者から調達していると話した。

「我々は2018年委UEBTの監督の下、『ジャスミン植物保護製品緩和プロジェクト』を開始し、18歳未満の農園での労働を禁止した」

また、「エジプトにおける比較可能な基準では、ジャスミンの収穫は十分な報酬が出ている」と付け加えた。

マチャリコも、18歳未満の収穫者は雇用していないとし、過去2年間でジャスミンに支払う価格を引き上げており、今年もそうする予定だと述べた。ハシェム・ブラザーズは、BBCの報道は「誤解を招く情報に基づいている」と述べた。

ランコムの「イドル・ランタンス」を製造しているジボダンは、BBCの調査を「深く憂慮すべきもの」と評し、「児童労働のリスクを完全に取り除くために行動を起こし続けることが、私たち全員に求められている」と付け加えた。

エアリン・ビューティーの「イカット・ジャスミン」および「リモーネ・ディ・シチリア」を製造する香料メーカー、フィルメニッヒは、2023年にマチャリコからジャスミンを調達した。フィルメニッヒは、現在はエジプトで新しいサプライヤーを使用していると説明。さらに、「業界のパートナーや地元のジャスミン農家と共に、この問題に集団的に対処しるためのイニシアチブを支援する」と付け加えた。

BBCはこれらの調査結果を、香水の「マスターズ」にも提示した。

ロレアルは、「私たちは、国際的に認められた最も保護の度合いの高い人権基準を尊重することに、積極的に取り組んでいる」と述べ、「香料メーカーに、農業従事者を犠牲に、市場価格以下で原材料を求めたことは一切ない」とした。

他方、「私たちの強いコミットメントにもかかわらず(中略)ロレアルのサプライヤーが活動する一部地域では、そのコミットメントが守られないリスクがあることを承知している」と述べた。

そのうえで、「問題が発生するたびに、ロレアルは根本的な原因と問題解決の方法を特定するべく積極的に取り組んでいる。2024年1 月には、児童労働のリスクに焦点を当て、潜在的な人権侵害を特定し、それを防止・軽減する方法を探すために、現地で人権影響評価を実施した」と述べた。

エスティ・ローダーは、「私たちは全ての子どもの権利が保護されるべきだと信じている。この非常に深刻な事案について、サプライヤーに連絡を取った。私たちは、ジャスミンのサプライチェーンを取り巻く複雑な社会・経済的状況を認識しており、透明性の拡大と供給源コミュニティーの生活改善に取り組んでいる」と述べた。

ガルビーヤ県では、国際市場での香水がいくらで売られているのかBBC記者から聞き、ヘバさんがショックを受けていた。

「ここの人間には何の価値もない」と、ヘバさんは語った。

「香水を使うのは別にいい。でも香水を使う人たちには、香水の中にある子どもの痛みを感じてほしい。そして声を上げてほしい」

しかし弁護士のダドゥッシュ氏は、責任は消費者にあるのではないと指摘する。

「これは、私たち消費者が解決すべき問題ではない。必要なのは法律で(中略)企業の説明責任だ。消費者だけが責任を負うのではだめだ」

(英語記事 Luxury perfumes linked to child labour, BBC finds

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社