サブカル的王道アイドル『白百合と雨』[デビューライブレポート]マーキュロ、ベロティカ、クララ・マグラ、ガラチア、一堂に会したサークルライチの宴

サブカル的王道アイドル『白百合と雨』[デビューライブレポート]マーキュロ、ベロティカ、クララ・マグラ、ガラチア、一堂に会したサークルライチの宴

レーベル『サークルライチ』主催イベント<サブカル Vol.零ツー>が、5月19日(日)に渋谷・WOMBLIVEにて開催された。

同イベントでは、サークルライチの第3期グループ・白百合と雨がデビュー。“サブカル的王道グループ”として、唯一無二の個性を見せつけたステージを展開した。

彼女たちの誕生を祝うかのように、マーキュロ、ベロティカ、クララ・マグラ、ガラチアも強烈なパフォーマンスを轟かせた同イベントのレポートをお届けする。

取材&文:冬将軍

レーベル『サークルライチ』が主催イベント<サブカル Vol.零ツー>を2024年5月19日(日)、渋谷・WOMBLIVEにて開催した。昨年11月2日(木)のレーベル設立以来、所属グループが一堂に会するイベントとして定期的に行なわれているものだ。レーベル設立から半年という節目に第3期グループ、「白百合と雨」が誕生、この日がデビューライブとなった。

白百合と雨は、“王道”を謳ってはいるものの、そこに相対する“サブカル”が根幹にある同レーベルのことだ。一筋縄ではいかないグループであることは察しがつくだろう。サークルライチとしては、5番目のグループになる。他を見てもレーベル内での新グループの誕生ペースは極めて早い。同レーベルの躍進は、アイドルという求められる偶像が大きく変化していることを証明している。負の感情を吐き出し、絶望を掲げながらも救済の手を差し伸べるマーキュロがZ世代の代弁者となっているように、サークルライチの存在がそうした若者にとっての心の拠り所となっている現状……それを改めて感じた夜であった。

ガラチア 美しく狂おしいステージ

ガラチア

“トッパーを務めさせていただきます、ガラチアです。みなさん、とくと盛り上がっていきましょう!”

傀儡シアが不敵な笑みを浮かべながらそう挨拶すると、今宵の先鋒、ガラチアのステージが幕開ける。オープニングナンバーはヘヴィなギターサウンドと不穏なメロディが絡み合う「閉鎖的SWEETIE」だ。“美・狂 を表現する『耽美過激表現集団』”を標榜する彼女たち。サークルライチの中でも際立ってそうした耽美で過激でアングラな香りをかぐわせながらダークな雰囲気を放つ、大阪発の8人組だ。しかしながら本公演では繕夜イヴが体調不良のために欠席、7人でのパフォーマンスとなった。

エッジィなサウンドに乗せ、自らのグループ名を高らかに掲げる「未羅ヰ無」で自分たちの存在をしっかりとオーディエンスの心に刻み込んでいく。水城アオイの鋭い歌声と暁あめの純朴で明瞭な声のコントラストがガラチアのグループとしての振り幅を感じさせる。4月に加入したばかりの巫呂ゆにもパワフルにその存在感を轟かせていく。漂わす不穏な空気をそのままに「数え歌」へ。呪術的な平歌から解放されるようなサビへと変わる緩急が心地よい。七ヲななのしっかりと響く芯のあるボーカルと、どこか陰を持った宵闇ライの歌がずっしりと響いた。

“ずっと妹気分でいたら、お姉さんになってましたね”と、新しい妹グループのお披露目を祝福すると、“俺たちはずっとお前のこと思ってるよ”とアオイのセリフから「アイタイ」へ流れた。そして、スリリングな楽曲展開に泣きメロディが狂い咲く「KAMIKAZE」でライブのボルテージを一気に上げる。間奏のブレイクダウンで“お前ら全員畳め!”とシアが叫び、フロアを埋め尽くした頭が一斉に揺れた。ラストは「クロウ」でトドメ。美しく狂おしい、ガラチアはステージを去っていった。

クララ・マグラ 8人の叫びがフロアを突き刺す

クララ・マグラ

ノイジーでけたたましいSEに合わせて登場したクララ・マグラはハッピーが珍妙に弾けるエレクトロチューン「退屈ガラパゴス」でライブをスタート。大正浪漫を基調とした奇譚な新衣装が華やかさを倍増させ、つい数週間前にここWOMBで半周年ワンマンを成功させた自信と余裕を感じさせるパフォーマンスでオーディエンスを魅了する。

“自分たちがデビューライブを飾った場所(WOMB)で、先輩となってお披露目を見守るのは感慨深い”と語るあんりゴンをはじめ、新しくできた妹グループへの悦びを表すエネルギッシュなステージでもある。

タイトなバンドサウンドのレトロック「威風堂堂」、「痛いカンジョウセン」と、沸き立つ会場のエネルギーを受けながらダンスビート「みくりやこころ」、「肥大!自己愛!!無問題!!!」との対比。そこから生み出される性急なパフォーマンス。愛枢シノアの鋭利な声と青莇みけの挑発的な扇動がフロアをさらに熱くさせる。ラストはにゃんもなの渾身のシャウトで始まった「メーデー」。切れ味抜群のギターとともに、8人の叫びがフロアを突き刺した。

クララ・マグラ[ライブレポート]半周年でたどり着いた8人の“叫び”が織りなすヘヴィネスとハピネスの狂騒

ベロティカ 美神に導かれたエクスタシー

ベロティカ

初っ端から臨戦体制万全、「愛の罠」で攻めにきたベロティカ。6人が放つ淫らな誘惑に1曲目からフロアのオーディエンスはメロメロだ。クララ・マグラと同じく数週間前に半周年ワンマンを成功させた彼女たち。その自信は余裕どころかさらなる高みに向かって貪欲なものへと変貌したようだ。Dビートが容赦なく打ち鳴らされる「絶頂」、挑発する煽りとともにキラーチューンの構成要素となった「SADISTIC WORLD」然り、聴き手に息つく暇など与えぬライブ運びに驚愕させられる。

硬派なロックナンバー「本能」。艶かしい動きとあでやかな声色でフロアを惑わしてくる歌姫、星月夜あむを筆頭に、すらりとした長い四肢で翻弄していく冬邑ハク、器用な歌い回しでベロティカというアイドルの輪郭を整えていく怪造人間……彼女たちは人間の本能を曝け出しながらオーディエンスを“超 NEW WORLD”なエクスタシーへと導いていく。ラストは言葉の羅列でぐっちゃぐちゃに引っ掻きまわした「覚醒butterfly」。今ノリにノっている6人の美神を前に我々はただただ跪くしかない、そんな他を圧倒するゴージャスオーラに終始包まれたステージだった。

ベロティカ[ライブレポート]6人の気高き美神が放つ“エロティシズム”で描かれた絶頂世界

白百合と雨 純潔な王道アイドルが闇を歌う

白百合と雨

雨音と流麗なメロディに誘われるよう可憐に登場した白百合と雨。このステージが彼女たちの本格デビューとなる。制服風の衣装を纏い、軽快に弾けるリズムに合わせて歌い踊り出す7人組。その様相はキュートであるが歌い出しは《パッと消えたい 訳ありでも愛してねhate you♡》である。名刺代わりの1曲目は「お手手ナイフライフ」。そう、“サブカル的王道グループ”を名乗る彼女たちのコンセプトは、この日の独我えるの言葉を借りれば“純潔な王道アイドルが女の子のリアルな闇を歌詞に載せて表現する”という、いい意味での裏切りである。

“今日はデビューライブ、最後まで盛り上がっていきましょー!” 赫夜咲来の明るい挨拶を交えながら、愛想を振りまいていく7人。ハートや真似したくなるような手振り、茶目っ気たっぷりコミカルながらアイドルらしいステージングで魅せていく。オリエンタルなギターフレーズと縞居アヤの煽りで始まった「ジェラシー契約」。哀愁感のあるメロディを丁寧に繋ぐ。ピュアさを振り撒いていく夢乃みあ、初々しさを感じさせる彼方ねむの佇まい、そして真似したくなるような手振りも軽やかなステップ、その動き1つとっても明らかに王道的なアイドルではあるが、歌っている内容はどろどろとした重すぎる愛の歌。

自己紹介を終えた後半戦は、「さよならと言ってよ」でスタート。メロディアスな旋律を物憂げながらもしっかり言葉として届けていく羽雪ゆう、しっかりとした低音から高音、さらにファルセットを交えながら儚く歌う天内シオンの安定感、とデビューライブとは思えぬ堂々たる歌声を聴かせる。どこか90’s J-POPの香りもするダンサブルな「FAKEY GIRL」ではビシッとキメ、最後は「Regret」でハッピーサウンドに乗せてはじける軽快なパフォーマンスで魅了した。

可愛らしいビジュアルでありながら何をするかわからないような女の子たち……まさに“人間みたいなモンスター”。とんでもないアイドルグループが今ここに誕生した。

マーキュロ サークルライチの女帝降臨

マーキュロ

“これより開演いたしまするは、世にも奇妙なマーキュロの宴、みなさま、とくととくと盛り上がってくりゃしゃんせ”

トリを務めるのは、もちろんサークルライチのオリジナリティ、マーキュロだ。藍咲ユウリの台詞を合図に「カラクリドラマ」でライブをスタートさせる。危うさとアブなさが介在したガラチアの狂気性、新体制でワンマンを大成功に収めた自信がみなぎっていたクララ・マグラ、確かな実力と他を圧倒するオーラを纏ったベロティカ、フレッシュながらもそのポテンシャルに恐ろしくなった白百合と雨……これだけすごい妹グループが出てきたのだから、マーキュロもうかうかしてると足首掴まれるぞ、と思っていたのだが、そこは姐貴分。出てきた瞬間、7人のダークヒロインが放つ威厳とカリスマ性が他妹グループとは違うことを思い知らされた。

“行こうか、絶望セカイ――ッ!!”——。まさに会場にいる全員を絶望へと叩き落とす紫月レンゲの叫びも、不気味に歌声を震わせる芥タマキも、その存在こそが唯一無二。そんなマーキュロの猟奇性とも邪悪性ともいえるダーク性を凝縮したのが、この日初披露となった新曲「神聖不可侵絶対領域」だ。トライバルなリズム、暴発するヘヴィなギターリフと呪文のようにくり返されるタイトル、そこに重なる典礼を思わせるステージングはまるで黒魔術の儀式のようでもある。《人生崩壊させてやろうか?》翠城ニアが不気味に囁く。それでいてスピーディに舞い降りてくる美メロが、暗闇を照らす希望のように感じるという、まさにマーキュロを体現したかのような楽曲だった。

オーディエンスの負のオーラを吸い込んで大きくなっていくような我執キル、ライブの熱を掌握しながらそれをねじ伏せていく珖夜ゼラ、そして飄々とした表情でマイペースなアイドル性を輝かせている雅楽代カミテ……マーキュロという、他を凌駕するほどの存在が今ここにあることを証明した。

ラストに送られた「ピエロ」。バイオリンを奏でるように優雅に己の左手を傷つける振り付けは、苦しんでいるのは自分ひとりではないという解放であるだろう。その光景はフロアにも広がった。私の知り合いはこの振り付けの意味がまったくわからないと言っていた。刺さる、刺さらないは人それぞれ。決して万人受けする存在ではないが、好きな人にとっては好きで好きでどうしようもない、それがマーキュロ、そしてサークルライチのアイドルなのである。

マーキュロのステージを終えると、結成半周年ワンマンを控え地元・大阪に帰ったガラチア以外のメンバーがステージに集結した。マーキュロがシーンに登場した時、少なくとも1年半前、2022年12月にマーキュロ結成半周年ライブをここWOMBで開催した時はこんな光景が広がるなんて誰も思ってもいなかったことだろう。5グループとも根幹にあるものは同じであれど、音楽性もその表現方法もまるで異なる、だから面白い。

楽曲クオリティも演者のパフォーンマンスレベルも格段に上がり、奇を衒うことも珍しくなくなった現在のアイドルシーンにおいて、異端ながらもこれだけの存在価値を高めている、サークルライチ。

マーキュロ、ベロティカ、クララ・マグラ、ガラチア、そして白百合と雨。彼女たちを求める者は世の中にまだまだいるはずだ。

<サブカル Vol.零ツー>

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