沖縄でチョコレート作り 目指すのは「世界一おいしい」ではなく、地域感あふれるチョコレート

沖縄で栽培されたカカオポッドを手にする、オキナワカカオ代表の川合径さん【写真:Hint-Pot編集部】

子どもから大人まで、年齢や性別を問わず愛されているチョコレート。近年では嗜好品としてだけではなく、原材料となるカカオの健康や美容効果も期待されています。しかし現在のところ、日本の店頭に並ぶチョコレートは、海外産のカカオで作られたものばかり。日本の気候がカカオ栽培に適していないため、国産カカオでチョコレートを作ることは難しいとされているからです。そんな常識を破ろうと、8年前に沖縄に移住。カカオ栽培から「沖縄県産素材100%」のチョコレート作りに挑戦する男性がいます。その思いとは? お話を伺いました。

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妻からもらったチョコレートがきっかけに

沖縄の県庁所在地・那覇市から北へ車で約2時間。沖縄北部にはやんばると呼ばれる、世界自然遺産に指定された豊かな自然が多く残るエリアがあります。海とのコントラストが美しい“奇跡の森”。その一角を占める大宜味村で、カカオ栽培をして沖縄産チョコレート作りに挑戦しているのは、OKINAWA CACAO(以下、オキナワカカオ)代表の川合径さんです。

「沖縄という地から、この地域から生み出したものを世界のブランドにしていきたいんです」

沖縄県は、世界の長寿地域「ブルーゾーン」として、イタリア・サルデーニャ島、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカ・ニコジャ半島、ギリシャ・イカリア島とともに知られています。沖縄のなかでも、大宜味村は「長寿の里」として注目。川合さんはこの地に、工房兼カフェをかまえ暮らしています。

関東で生まれ育ち、農業経験はなく、前職は経営コンサルタントだった川合さんが沖縄に移住してきたのは、2016年のことでした。きっかけは、現在からさかのぼること12年前の2012年に妻からもらったチョコレート。なにげなくパッケージを見ていた川合さんに「ひらめき」が降りてきたといいます。

「チョコレートの原材料となるカカオも、コーヒー豆と同じように産地があって、産地や品種によって異なる味や風味があるんだなと気づいたんです」

もともと、地域づくりや産業創出に携わりたいという思いを持っていた川合さん。コーヒー栽培に適した地帯「コーヒーベルト」は、一般的に赤道を挟んで北緯25度から南緯25度までのエリアですが、北緯26度の沖縄でもコーヒー豆の栽培が行われていることは知っていました。一方、カカオ栽培に適した地「カカオベルト」を調べてみると、赤道を中心に南北20度。その瞬間、川合さんは確信に近い感覚を抱いたといいます。

「沖縄でコーヒーができるなら、カカオもできるんじゃないか。沖縄のカカオでチョコレートができたらおもしろい。地場ブランドになったら地域づくりにも貢献できる」

沖縄素材を使ったチョコレート開発からスタート

こうして「カカオとチョコレート」という、川合さん自身にとっても、沖縄にとっても未知の事業を開始することになりました。初めは周囲からポジティブな反応を得られないこともあったそうですが、何度も足を運び、川合さん自身の思いを丁寧に伝えていくうちに、理解者が増えていったといいます。

カカオは、実がなるまでに数年単位の時間がかかります。川合さんは、チョコレートはカカオと素材のかけ合わせでできていることに着目。カカオ栽培と同時並行して、カカオ自体は海外産のものを使用し、かけ合わせるものを沖縄の素材にすることで、地域らしさを全面に押し出したチョコレートの開発をスタートしました。

「農業って、時間がかかるじゃないですか。カカオは実がなるまでに4~5年かかるんですよ。栽培に成功してから仕事を始めようって言っても、それは無理ですから。でもチョコレートなら、カカオを育てながら沖縄ブランドを先に作ることができるんです」

沖縄素材が使われたチョコレートが並ぶ店舗内【写真:Hint-Pot編集部】

トレーサビリティを重視 持続可能な地域づくりにつながる商品を

かけ合わせる沖縄の素材の調達は、川合さんが生産者さんに実際に会いに行くところからスタートします。誰がどこでどのように作っているのかという「トレーサビリティ」を伝えていくことも重要視しているそうです。

「沖縄全体を自家菜園(沖縄の言葉で『あたいぐゎー』)として見れば、誰が作っているのかがわかっている素材を自分で探しに行って、作り手と対話をしたうえで、加工して商品として世の中に出していくことにこだわっていきたいんです。生産現場を知るのは非常に大切で、そのことを商品を通じて消費者に伝え、消費者からのフィードバックを生産者さんに戻していく。持続可能な地域づくりにつながるのではないかと思っています」

そのような取り組みのなかで、これまで気づかなかった課題と解決方法が見えてくることもたくさんあるとか。たとえば、生産現場が直面する高齢化もそのひとつです。

「シークヮーサーの木はあるけれど、収穫ができない。シークヮーサーがないと自分たちのチョコレートの商品ができない。それなら収穫を手伝おうか、一緒にやっていこうかということもあります」

こうしてチョコレートの商品ラインナップには、カラキと呼ばれる沖縄シナモン、シークヮーサーや月桃、やんばる酒造の泡盛まるたなど、沖縄県産の素材を使用したものが誕生。また、季節によってはバナナやスイカ、マンゴーなど、沖縄地産の素材を用いた種類が店頭に並ぶようになりました。

「世界一おいしいチョコレートを作ろうということではないんです。そもそも沖縄はカカオの産地ではないので、それはいわゆるカカオ産地の“本場”に失礼じゃないかと思うんですよ。でも、大切なのは地域らしさなんです。その地域、気候、許された環境の中で、どういうこだわりを持って作れるかということだと感じています」

川合さんが収穫した沖縄産のカカオポッド【写真:Hint-Pot編集部】

2021年に初のカカオポッド収穫 沖縄産100%チョコレート完成の日も近い?

一方で、同時進行している沖縄でのカカオ栽培。種まきから始めた川合さんは、さまざまなトライ&エラーを繰り返し、移住5年目の2021年に初めてカカオポッドの収穫に成功しました。翌年には100個を超えるカカオが実り、10キロの収穫も。

現在もカカオポッドからのチョコレート作りは試作段階だといいます。冬を乗り越えて収穫する沖縄のカカオの実は、海外産のものと比べると厚みがなく、収穫する季節によって品質が異なるという課題も。しかし直近の目標に「2025年のフランス・パリで行われる本場の『サロン・デュ・ショコラ』に出展すること」を掲げる川合さん。沖縄産カカオで作られた「沖縄産100%」のチョコレートが生まれる日は近いのかもしれません。

世界でも有数の長寿エリア「ブルーゾーン」として知られる沖縄のものづくりを、チョコレートを通して表現していきたい。川合さんは「長寿の里」大宜味村から、世界へと発信していく思いであふれています。

◇川合 径(かわい・けい)
2016年に沖縄県へ移住し、株式会社ローカルランドスケープを起業。自社の畑でカカオ栽培をスタート。2021年にカカオポッドの収穫に成功し、東京などでの催事にも出展。2022年にカフェスペースを併設した工房兼カフェ「オキナワカカオ ファクトリー&カフェ」をオープン。

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