「All Eyes on Rafah」のAI画像、なぜ世界中に広まったのか

アリス・デイヴィーズ(BBCニュース)、BBCアラビア語

人工知能(AI)が生成した、パレスチナ自治区ガザ地区の難民キャンプと、「All Eyes on Rafah(みんなの目がラファを見ている)」というスローガンの画像が、ソーシャルメディアで幅広く拡散されている。

インスタグラムでは、このAI生成画像はこれまでに4700万回以上、共有された。英歌手デュア・リパ氏、レーサーのルイス・ハミルトン氏、パレスチナ人の父親を持つ米モデルのジジ・ハディッド氏とベラ・ハディッド氏といった著名人も、この画像を拡散した。

この画像とスローガンは、イスラエル軍が26日、ガザ南部ラファにあるパレスチナ人避難民キャンプを空爆し、大規模な火災が発生した後に広まった。

イスラム組織ハマスが運営するガザ地区の保健省は、この出来事で少なくとも45人が死亡し、数百人が負傷したと発表した。イスラエルは、ハマスの司令官2人を標的にし、致命的な火災は二次的な爆発によって引き起こされた可能性があると主張している。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「悲劇的な誤り」と呼んだが、この攻撃に対する国際的な非難が広がっている。

BBCアラビア語の調査では、この出来事の後にマレーシアの青年が自身のSNSアカウントにこの画像を投稿したことをきっかけに、拡散し始めたことが判明した。

では、この画像はどのようにして生まれたのだろうか?

このスローガンはどこから?

26日にラファで起きた出来事をきっかけに、世界保健機関(WHO)のガザ・ヨルダン川西岸代表を務めるリチャード・ピーパーコーン氏が2月に講演した際の映像が投稿された。

ピーパーコーン氏はこの時、ジャーナリストたちに「All eyes are on Rafah」と語り、イスラエル軍がラファを攻撃すると警告した。

ジュネーヴの国連事務所からオンラインで講演したピーパーコーン氏は、もしイスラエル軍が大規模な侵攻を行なえば、「想像を絶する大惨事」になる恐れがあると語った。

政府関係者や活動家たちはそれ以来、3週間前に始まったイスラエルのラファでの軍事作戦への懸念と反対を表明するために、ピーパーコーン氏の言葉を繰り返してきた。

メディア上でも、「All Eyes on Rafah」のスローガンが登場した。

しかしこの2日間で、このスローガンを使用したAI生成画像がソーシャルメディアで広く拡散された。インスタグラムでは、5月30日午後時点で4700万回以上共有されている。

上記の他にも、米俳優マーク・ラファロ氏、インドの俳優プリヤンカ・チョプラ氏、シリアの俳優キンダ・アロウシュ氏などがいる。

画像はどのように広まっていったのか

BBCが取材した専門家らは、「All Eyes on Rafah」のメッセージがこれほど短時間で広まった理由には、いくつかの要因があると指摘する。

この画像がAIで生成されたこと、スローガンが簡潔で、インスタグラムではわずか数クリックで画像共有が可能なこと、そして著名人が参加したことなどが挙げられるという。

英ウェストミンスター大学でメディア・広報活動・社会変化の修士課程を指導するアナスタシア・カヴァダ氏は、最も重要な要素はタイミングと、投稿の政治的文脈だったと述べた。

カヴァダ氏は、ラファの難民キャンプ攻撃のニュースに多くの人が「憤って」いた時に、この画像が広く拡散したのだと説明する。

eマーケティングとAIのコンサルタント、マヘル・ナンマリ氏も同じ意見だ。ナンマリ氏は、ラファでの出来事そのものの性質と、その後のインターネット上での交流の重要性を強調している。

「26日のラファでの攻撃で、大勢が悲しんだ」と、ナンマリ氏はBBCアラビア語に語った。

AI生成画像への賛否

しかし、この画像がことさら共有しやすいのは、それがAI生成画像だからだと、専門家らは指摘する。

画像には、広大な砂漠とテントキャンプが描かれ、「All Eyes on Rafah」という文字が書かれているが、実在する場所やラファの街は描かれていない。

何より、遺体や血の写真、実在の人物の写真、名前、悲惨なシーンがないのが特徴だ。

これを批判する意見もある。

英グラスゴー大学でコミュニケーション・メディア・民主主義の上級講師を務めるポール・ライリー博士によると、この画像が現地の真実を示していないと懸念する活動家もいるという。

この批判に対して、この画像を制作したマレーシア人アーティスト(ユーザー名「shahv4012」)は、米誌「タイム」が引用したインスタグラム・ストーリーでこう述べている。

「この写真とテンプレートに満足していない人たちがいます」

「私が皆さんに間違ったなら謝ります」

一方で「shahv4012」は、「(皆さんがどう思うにしても)今はラファ問題を軽視するのではなく、彼らが震え上がり、私たち全員による拡散を恐れるよう、この画像を広めてほしい」とも述べた。

しかし、この画像はラファの現状を「きれいに整えた」ものではあるが、デジタル活動家の立場からすれば、共有しやすいという利点があると、ライリー博士は指摘する。

この画像には、インスタグラムの利用規約侵害で削除される可能性のある生々しい内容が含まれていない。他方、この画像によって、活動家らが注目を集めようとしている問題の認知度を高めることができる。

インスタグラムの機能

インスタグラムが開発したツールも、この投稿の拡散に貢献した。

「shahv4012」は画像を公開する際、インスタグラムが2021年に開始した「Add Yours(あなたのを追加)ステッカー」という機能を利用した。この機能を使うと、数回のクリックだけで、他のユーザーが投稿した画像を再共有できる。

また、新たな投稿に自分のキャプションやタグを追加することもでき、簡単にカスタマイズして共有できるのが特徴だ。

前出のナンマリ氏によると、政治や社会的活動でこうした機能が使われるようになったのは最近のことだという。

「この機能を使うと、投稿の人気が雪だるま式に高まっていく。そのためほとんどの場合、政治的な目的でこの機能を使い始める人は、大規模なキャンペーンの立ち上げに貢献することを狙っている」と、ナンマリ氏は説明する。

対抗キャンペーンも出現

「All Eyes on Rafah」のメッセージに反対する、より小規模なカウンター(対抗)キャンペーンも出現している。

同じくAIで作成された画像には「10月7日、あなたの目はどこを向いていたのか?」という言葉が使われている。これは、ハマスがイスラエル南部を襲撃し、約1200人を殺害したほか、252人を人質として連れ去った出来事を示している。

イスラエルのインスタグラム・ユーザー、ベンヤミン・ヤモン氏がデザインしたとされるこの画像は、ガザ地区に捕らえられた赤ちゃんの前に、銃を持った男性が描かれている。

イスラエルのメディアによると、この画像は一部のアカウントから削除され、ヤモン氏のアカウントが凍結されるまで、約50万回共有されたという。

その後、画像は再び表示された。インスタグラムを運営する米メタは、声明で「この画像は当社のポリシーに違反するものではない」と説明。いくつかの「誤削除」を引き起こした「技術的な問題の解決に取り組んでいる」と述べた。

ハマスが運営する保健省によると、紛争が始まって以来、ガザ全域で少なくとも3万6170人がイスラエル軍の攻撃によって殺されている。

(英語記事 All Eyes on Rafah: The post that's been shared by more than 47m people

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