Atta Boys・筒香裕史が野球チームの国際交流で驚いた小学生のコミュニケーション力

元メジャーリーガーのカート・スズキ氏が率いるロサンゼルス近郊の少年野球チーム「PONO(ポノ)」が来日し、和歌山県橋本市のスポーツ施設「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」を訪問。同施設を本拠地とする少年野球チーム「Atta Boys(アラボーイズ)」とともに、2日間にわたってエキシビジョンマッチや文化交流などを楽しんだ。

今回はAtta Boysを運営する筒香裕史さんに、日米の少年野球チームの交流で得られたものについてインタビューした。

▲カート・スズキ氏×筒香裕史氏

「自由」と「規律」のバランス感覚が素晴らしい

1日目はすごく恥ずかしかったと語る裕史さん。自分の持っていたイメージとは異なるPONOの様子に驚かされたという。初日の催しが終了したあと、先にAtta Boysを帰宅させて指導者だけが残っていると、スズキ氏はPONOの子どもたち全員を連れて挨拶に来た。

「ちゃんと押さえるところは押さえる。挨拶もそうだし、相手へのリスペクトもそうですけど、今はふざける場合じゃないとか。きちんとやっているなっていうのが印象的でした」

試合中には常にポジティブな声かけが飛び交うだけでなく、時には歌を歌いだすような自由さもあったPONOだが、”野球を楽しむ”以外の場面では、スズキ氏によって規律が保たれており、裕史さんはそこのバランス感覚を見習いたいと感じたようだ。

また、PONOをもてなすためにさまざまな手配をしていた裕史さんは、その時点で文化的な違いを実感したという。

「いろいろ面白かったですよ。お弁当の注文とかだと、日本だったら2種類くらいにしといて“好きなように選んでくれ”ってやったほうが、配るときも楽じゃないですか。でも(アメリカのやり方は)やたら細かいんですよ」

20人以上いるPONOの子どもたちに、食べたいメニューを事前に個別で聞き取り、渡すときも間違わないように一人ずつ名前を呼んで内容を確認する。かなり時間と手間のかかる作業だが、アレルギーなどへの配慮はもちろんのこと、宗教上、食べられるもの食べられないものなどがある、ということを前提としたものだ。

もちろん、アメリカで個性が重んじられるのは食事だけではない。来日したPONOの保護者のなかには、別の強豪チームからのスカウトがあり、どのチームを選ぶか検討しているという方もいたようだ。そういった移籍話をあけすけにできる環境でもあるということだ。

「チームの選択というか、あっち行ったりこっち行ったりするのは、あまりよくないと思うんですけど、例えば、この子にはこっちが合っているから、こっちのチームに移るとか。

日本だと“辞める”というのはすごいネガティブというか、大変な作業じゃないですか。そこをもうちょっとライトにできたらいいな、というのは感じました。“あ、そういう感覚なんだ”って」

それでも、今のチームをベストと感じてもらいたいという気持ちは万国共通。PONOはオフになると一度解散し、シーズンが始まるとまた再結成することになるというが、スズキ氏は「今のメンバーが、そこでもう一度このチームに来てくれれば、それが指導者としての成功だ」と裕史さんに語ったという。

▲カート・スズキ氏と会話する筒香裕史氏

毎年恒例のイベントにしていきたい

印象的だったのは、子ども同士のコミュニケーションだ。2日間という限られた期間の違うチーム、それも言葉の通じない外国人と仲良くなることは簡単ではなかっただろう。

それでも一部の積極的な子どもたちは、バットとボールという共通言語を通し、やりたいことを身振り手振りで伝えるなどしてコミュニケーションを取ることに成功していた。

とはいえ、何かしら言葉で意思表示しなければならないことも当然ある。しかし、そこは現代の子どもたち。素早くスマホを取り出して翻訳アプリを使い、画面を見せながら自分の意図を伝える。

翻訳の精度の問題で、意味が伝わっていない場面もあったが、相手が理解していないことを察して違う文章を試してみたりと、翻訳精度まで考慮した対応を見せるあたりはさすがだ。

また、できる限り「自分でコミュニケーションをとりたい」という思いを見せていたことにも感銘を受けた。

筆者はアメリカへの留学経験があったため、取材の合間に子どもたちやコーチたちのあいだに入って、通訳するような対応をした場面もあった。そのためか、筆者を「通訳さん」と呼ぶ子どももいた。

そんななかでも、日本とアメリカの子どもたちが入り混じって話をしているのを見かけて、手助けが必要かと近くに寄っても、子どもたちが簡単に通訳に頼ろうとしないのには驚かされた。明らかにコミュニケーションに苦心していても、それならばと知っている簡単な単語や身振り手振りを使って、なんとか相手と会話しようとする。

もちろん、それでも無理なときは「通訳してほしい」と助けを求めてきたが、できることなら自力でなんとかしたい! という気持ちが伝わってきた。

▲言葉を話せなくても身振り手振りでコミュニケーションをとる姿勢は素晴らしい

特に積極的に異文化交流を試みていた12歳の子どもについて、裕史さんは口元を緩ませて話した。

「理想的ですよね。中学で英語が本格的に始まる前に、自分の口から“英語を勉強してきます”って言うんですから」

その子は初日に「明日もう少し話せるようになるために、家で勉強したい」と意気込み、筆者に英語表現を教えてほしいと言ってきたほどだ。

英語にそれほど強い関心を持っていたわけではない子どもたちが、初めて言語の壁を感じ、自分でコミュニケーションを取りたいというモチベーションで意欲的になる。まさに、このイベントで狙っていた通りの効果だった。

スズキ氏も裕史さんも「毎年恒例のイベントにしたい」と語る、手ごたえのあるイベントになった。

次回もPONOが来日するのか、あるいはAtta Boysがアメリカへ行くのかはわからないが、今後もこのTSUTSUGO SPORTS ACADEMYが異文化交流の拠点になっていく可能性はありそうだ。

多額の私費を投じてこの施設を作り上げた筒香嘉智選手は、横浜DeNAベイスターズに復帰し、劇的なホームランを放つなど日本のプロ野球界を盛り上げている。

兄・裕史さんが「ここで全て完結ではなく、ここがモデルになって広まっていったらうれしい」と話すように、こういった異文化交流を通じて、今後も進化していくであろうAtta Boysとメジャーリーグ仕様の球場が、日本のアマチュア野球界に新しい風を吹き込む日も、そう遠くないかもしれない。

(取材:Felix)

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