大丈夫か、自衛隊! 航空自衛隊の高級幹部選抜試験で不正発覚!|小笠原理恵 「海自ヘリ墜落、2機が空中衝突」(4月20日)、「手榴弾爆発で20代の隊員1人死亡」(5月30日)などトラブル続きの自衛隊だが、最高幹部階級への登竜門である選抜試験でも不正が発覚した――。

「試験問題の流出だ」と航空自衛隊関係者

航空自衛隊で高級幹部「上級指揮官・幕僚」になるためには、指揮幕僚課程の教育を受けなければならない。その特別な教育を受けるための選抜試験(CS試験=航空自衛隊幹部学校指揮幕僚課程学生等選抜試験)が毎年3月に実施される。これに合格して初めて「上級指揮官」(1佐・将補・将官)への道が開かれる。この試験はまさに最高幹部階級への登竜門なのである。

だが、 このCS試験(1次試験)での不正が、航空自衛隊の内部調査で発覚した。航空自衛隊や海上自衛隊ではCS試験、陸上自衛隊ではCGS試験と呼ばれる試験で不正がみつかったのは、今回が初めてだ。

フライデー編集部の取材で、防衛省の航空自衛隊の広報担当は「再試験を実施することになったことは事実です」と不正があったことを認めた。

内倉浩昭航空幕僚長が広報担当を通してコメントを出した。

「1次試験の健全性が損なわれる状況が生起した細部の状況は調査中であるものの、試験問題の管理が一部適切に行われていなかった可能性があり、1次試験の再試験を実施するに至ったことは遺憾であります。再試験を厳正に実施し、公平かつ適正な学生選抜を実施していく所存であります」

航空幕僚長自ら、コメントを出すのは異例のことである。再試験については6月下旬に実施する方向で調整中だという。2024年度の早稲田大学の入学試験でも不正行為が発生したが、今回のCS試験の不正はそれとは大きく違う。航空自衛隊関係者によると、今回の不正は受験者のカンニングではなく、「試験問題の流出だ」というのだ。

自衛隊には士長から曹に階級が上がる時や幹部になるためにも選抜試験がある。自衛隊員は23万人程いるが、その中で部隊の指揮命令権をもつ将官・将補・そして1佐の一部は有事や治安維持のために、部隊を動かす大きな権限を持つ。

この選抜試験で選ばれた高級幹部たちに有事の日本の安全保障が託されることになる。つまり、国家の命運を任せる指揮官の選抜試験で不正があったということだ。「これまでのCS試験で選ばれた指揮官たちには不正はなかったのか?」という筆者の問いに対して、航空自衛隊関係者は「それはなかったはずだ」と答えた。

陸海空の自衛隊の中で敵が到達する速度が最も早く、最速の判断力が求められるのが航空自衛隊である。その高級幹部試験で不正が起きたのは、由々しき事態である。徹底管理されているはずの試験問題がなぜ漏洩したのか。

いずれ、公式発表があるだろうが、この問題は、一般入試や資格試験の問題漏洩以上に国家の安全保障の基盤を揺るがす大事件だ。最高指揮官たるものが厳格なルールを守れずに、部下を指揮命令できるとは思えない。CS試験で不正が発覚したのは初めてだが、実は、一般幹部自衛官への選抜試験ではすでに不正が起きている――。

1982年、陸上自衛隊で最大規模の不祥事

1982年、陸上自衛隊北部方面総監部で幹部候補生試験問題漏洩事件が発生した。この事件は、「幹部候補生試験問題を買わないか?」という部内の男から不審な電話があったことから発覚した。その後、札幌地区病院に勤務している1等陸尉が当直室から鍵を持ち出し、鋼鉄製キャビネットに保管された問題を盗み、受験者に売ったことがわかった。

この窃盗をした自衛隊員と不正受験者の間には350万円あまりの金銭授受が確認された。5人の懲戒免職を含む77人の懲戒処分が下される陸上自衛隊で最大規模の不祥事となった。この問題漏洩事件は行政処分だけでは終わらず刑法でも裁かれた。

この主犯の一等陸尉は窃盗罪で実刑判決、その他4名の有罪判決が確定した。

昭和57年7月29日の上野隆史衆議院議員の答弁(第96回国会 衆議院 内閣委員会第19号)から、このような試験漏洩は以前からあったことが記録されている。しかし、最高指揮官の選抜であるCS試験の不正はかろうじて阻まれていた。今回の事件で最後の砦も浸食されたということになる。

〇上野政府委員
今回の事件は、去る六月三日に某隊員が、昨夜部内の男から五十七年度の幹部候補生試験問題を買わないかという不審電話がございましたと通報したことに端を発しました。その後、警務隊等が捜査いたしまして、概要は現在のところ次のように判明しております。

陸上自衛隊の札幌地区病院に勤務いたします一等陸尉、稲場と申しますが、この者が五月二十三日に病院の当直室からかぎを持ち出しまして、そしてその病院の人事班というものが入っております事務室に忍び込みまして鋼鉄製のキャビネットをあけ、本年六月に実施いたします第六十四期一般幹部候補生部内選抜筆記試験の問題、共通一部、ほか職種二部、合計三部を窃取いたしまして、そういう容疑でもって六月二十八日に北部方面警務隊に逮捕されたわけでございます。この者は、七月二十日に札幌地裁に起訴されております。

また、七月十三日には北部方面総監部の二等陸尉、第二八普通科連隊、これは函館にありますが、その二等陸尉、同じく函館二八普通科連隊の三等陸尉、その三名が先ほど申し上げました稲場との共謀による共同正犯ということで逮捕されまして、さらに七月二十日には元二等陸曹が札幌地検に逮捕されております。さらに、北部方面総監部付隊の三等陸尉、この者が稲場と共謀の上で、昨年の八月初旬ごろに北部方面総監部の人事部の人事課の事務室におきまして、そこにあります三尉候補者の試験の問題を二部、これは共通と職種各一部でありますが、これを窃取したという容疑で七月二十日に札幌地検に逮捕されました。

現在のところ、いま申し上げましたように逮捕者は全部で六人でございます。一尉が一人、二尉が二人、三尉が二人、それから元二等陸曹が一人でございます。(略)

〇木下委員
この二つ以外というか、それ以前からそういった問題の漏洩があったのではないかというふうに言われているわけですが、そういった点についての調査はどうなっておりますでしょうか。

〇上野政府委員
いま申し上げました者たちの一部の供述の中から、そういうような供述は出ております。

試験問題自体が軍事機密の可能性

内倉航空幕僚長は「試験問題の管理が一部適切に行われていなかった可能性があり」と試験問題管理に問題があったことを認めた。試験問題も回答もどちらもが秘密に当たる可能性が高い。だから、外部漏洩があればさらに深刻な事件となる。

自衛隊法にある「秘密の保護」や「秘文書の取扱い」に抵触すれば、間違いなく処罰の対象になる。

試験問題には、職種運用の教範や訓練資料に書かれている事項に忠実に沿った文で解答しなければならない問いがあると聞く。また、幹部自衛官でなければ知らないような文言やルールに基づいた指示を問う問題もあると聞く。そうであれば、試験問題自体が軍事機密だろう。

今回不正が発覚したCS試験は、以前、試験問題漏洩事件となった陸上自衛隊幹部候補生試験よりもさらに上級選抜試験であり、将来の自衛隊を統べる将官(諸外国では将軍の階級)となる人材を選抜する試験だ。最高幹部を選ぶ試験での不正発覚を自衛隊は恥じていただきたい。

この試験は幹部普通課程を修了し、航空自衛隊英語技能検定総合4級以上、所属部隊長から推薦された37歳未満の3佐及び昇任後2年以上経過した1尉の志願者しか受験できない。航空自衛隊では生涯に4回しか試験を受けることはできない。真面目に試験に挑んだ航空自衛隊幹部たちはせっかくの受験に泥を塗られて、泣くに泣けない気分であろう。

ただ、ひとつだけ救いはある。内倉航空幕僚長は潔く、この問題があったことを認めたことだ。このような不正が2度と起こらないように、不正を隠蔽することなく問題を明らかにした上で、しっかりと対処していただきたい。

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小笠原理恵

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