救急車内で相次ぐ自撮りに危機感 岡山市消防局、動画で撲滅訴え

救急車内での自撮り行為を防ぐため、岡山市消防局が作成した啓発動画の一場面

 救急搬送される患者が交流サイト(SNS)への投稿を目的にスマートフォンで自撮りする行為が相次ぎ、救急隊員らが危機感を強めている。一刻を争う処置の妨げになって「命の現場」の業務に支障が出かねないためだ。岡山市消防局は今春、実際に遭遇したエピソードを基にした啓発動画をアップし、迷惑行為撲滅の呼びかけを始めた。

 傷病者が自らにスマートフォンのカメラを向け「実況中継」する。別の傷病者は付添人と互いに撮影し合う―。救急車での搬送中に岡山市消防局の救急隊員が実際に目撃した光景だ。こうした事例は複数報告され、傷病者が救急隊員にスマホを渡して自身を撮影するよう頼むケースもあった。

 同様の行為は倉敷市消防局管内でも報告がある。車内で動画撮影する行為に遭遇した経験を救急救命士84人に問うと、回答した54人全員が「経験あり」と答えたという。

 両消防局によると、救急車内で撮影を禁止する法的根拠はない。いずれも口頭で制止することしかできないといい「傷病者の観察や処置といった業務に支障を来たしかねない」と口をそろえる。

 岡山市消防局が写真共有アプリ・インスタグラムにアップした動画は30秒。実際にあった事例を踏まえ、傷病者による自撮り▽付添人による撮影▽隊員に撮影を要求―という三つの行為を例示。「救急隊員は傷病者を病院に搬送するために懸命に活動しています。救急車を『映えスポット』にするのはご遠慮ください」と訴えている。

 広く普及したスマホによる自撮り行為は全国の消防関係者が頭を悩ませ、埼玉県川口市消防局は撮影禁止と記したステッカーを救急車内に張りだしている。

 岡山大社会文化科学学域の住岡恭子講師(臨床心理学)はこうした行為の背景について「不安や心細さを他者に知らせ、心を落ち着かせたいという無意識の動機がある」と指摘。「救急車内でのスマホ使用に関するルールを明確に定め、事前に提示する対策が有効だ」としている。

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